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abnormal dialy   作者: アルマジロ
spring
10/22

-junior high school- spring 8

 結論から言うと、思った通りだった。

 昨日、出席をとっている御影さんに聞いたところ、今日も来ていないと答えた。

 それもそのはずだ。

 あいつは現在、操先生と同様の“行方不明”というポジションにいるのだから。


 かくして、翌日4月14日、休日。

 僕は自分がどうすべきかを考えていた。

 日常。それは僕が最も毛嫌いするものではなかったか? 日常からの脱出を、ずっと願っていたはずではなかったか?

 今、まさに僕は“非日常”を目の当たりにしている状況下にある。

 先日まで普段通りに学校へ来ていた人物が、ある日突然行方不明に。現在も行方の特定は出来ておらず、捜索活動が続けられている。

 先日まで普段通りに学校へ来ていた人物が、ある日突然来なくなった。彼は前日にクラスメイトといざこざを起こしており、同時にいざこざを起こした相手も欠席した。それ以降、両者共に登校してこない。一方は連絡が取れず、もう一方はいるはずのない場所で、いざこざの関係者と接触していた。そして会話の内容がまた関わり深い。

 こんなことは、日常には起こらない。

 非日常を肌で体験している、この奇妙な高揚感。

 どうしたもんかね……。

 何をすればいいのかが分からなくなった時なんてのは、大抵の場合“何もしない”という選択肢がベストだったりするものだ。するべきことが分からない、ならば何もしなければいい。選ばないを選択する。考え様によっては、これほど簡単な選択肢は存在しないだろう。何かを選ぶ以上、その選択肢の中には必ず“選ばない”というのがついてくるはずだ。選びたくないなら選ばなければいい。それだって立派な取捨選択だ。選ばないことは逃亡ではない、1つの手段として考えてしまっても一向に差し支えはないのだという話だ。

 しかし今回ばかりはそうはいかない。“何もしない”を選んだ場合、どうなるかが漠然ととはいえ想像できることが要因だ。鏡崎は行方不明。そのことは学校関係者も、まして家族すらも知らない事実。そんな行方不明者を放置したらどうなる? 状況はプラス方向には向かないだろう、そんなことは考えるまでもなく火を見るより明らかだ。このように、選択するまでもなく、“何もしなければ状況は悪化していく一方”という場合は、道徳的に考えて“選ばない”を選択することは出来ない。選ばないことは、冷たく言い換えてしまえば“問題を放置あるいは放棄する”という意味なのだ。僕が抱えている問題はこのタイプ。僕は“選ばない”を選択するほどの薄情さは持ち合わせていない。

 かといって、なら何か選択するべきであることは明白なのだけれど、それはそれで無理難題だ。選択肢が分からない。まるで目隠しをして神経衰弱をするような、真実ただの当てずっぽうに頼るしかない、そういうことを言っている。無限にある可能性。有限なる選択肢。“選ばない”は選べない。一体どうすればいいのか。分からないなら選ばなければいい、しかしそれは選んではならない禁断の一手。だが選ぶにしても選択肢が分からない、故に選ぶことは不可能だ。八方塞がり、四面楚歌、そんな言葉が頭の中をぐるぐると回る。どうすればいい。どうすることもできないなんて、最悪じゃないか。

 こんな時、僕はどうしていたっけ。考えても考えても考えても考えても、思考しても思考しても思考しても思考しても、悩んでも悩んでも悩んでも悩んでも、どうにもこうにもにっちもさっちも解決案が思い浮かばなかった時は、僕はどうしていたのだろう。

「みーっくん。朝から朝食も食べずに、何1人でボーっとしてんの。珍しいね、みっくんが何もせずにいるなんて」

 と、僕は我に返った。組んだ腕を僕の頭上に乗せた姉がいつの間にかやってきていた。

 また勝手に人の部屋に、といつもなら注意するところであったが、今の僕にはそんな気力もなく、されるがままに感情を抹消した表情で黙っていた。

「何? 悩みでもあるのみっくん? その表情は、もしや恋のお悩みかな? そういう時期に突入しましたかみっくん?」

 この人間はまた『お母さーん、大変!! みっくんが発情期に陥っちゃたよ!! 病院に行って診てもらわなきゃ!!』なんてぬかしたりするのだろうか、とぼんやり考えていたが、そんなことはなかった。それよりも僕は、無表情を貫いていたはずなのになぜ表情から僕の心情が読み取れたのかが不思議だった。いや、この場合、僕が抱えている悩みは別に色恋沙汰ではないのだから、姉の推測は外れているということになるけれど。

 ていうかそれこそ当てずっぽうだ。

「悩みがあるなら言ってねー? お母さんも言ってたじゃん、私たち家族なんだからさ。もっと頼りにしてくれてもいいんだからね?」

「…………」

 迂闊ながら、わずかに感動してしまった。

 感動は人間のかた苦しい部分を揺るがす。

 なので、僕は言うつもりもないことをつい口走ってしまった。

「悩みは、…あるんだけどね。それなりに」

 言った後激しい後悔に見舞われたのは言うまでもない。

 こんな言い方じゃ、“構ってくれ”と言っているようなもんだ。

「なーんだ、やっぱりあるんだぁ。うんうん。分かるよ、みっくんだって男の子だもんね。悩みの1つや2つや3つ、あっても全然おかしくないよ。多感なお年頃だもんねぇ、中学3年生か。懐かしいな、2年前の今頃は私もみっくんみたいにいろーんな悩みを抱えてたもんだよ。どんなに小さなことでもいちいち気に障って、すごーく情緒不安定だった時期っていうのかな? 経験しているだけに共感できるね。そういう意味では私はみっくんの家族であり姉であり先輩なのである、なんちゃって。で、悩みというのは?」

 前振りが大分長かったことには目を(つむ)り、引っ込みがつかなくなった僕は半ば自暴自棄になりながら今の悩みを打ち明けた。

 僕が話している間、姉は少なくとも表面上は親身になって聞いてくれていた、と思う。

 やっぱり家族か。

 僕が言わずとしていることを、何とはなしに感づいているようだった。

「ふぅん。そんなことが……そりゃ、情操教育上よろしくないね」

「非日常では……ある。今まで、こういうことは経験したことないし」

「これから受験もあるって言うのにねー。みっくん、今回の事件のトラウマで受験に影響するようなことがあったら、学校に抗議しちゃってもいいと思うよ。そりゃもうガツンと、どう責任とってくれるんですか、って」

「ごめん姉さん。僕は受験するつもりはないよ。このまま校内の進級テスト受けて、高等部に上がるつもり」

「えー。そうなのー? みっくんも星鈴高校来なよー。いいところだよあそこ。それに飽きないし。こないだなんか、杉がクッキーに宣戦布告して、クラス対抗の学年レクリエーションすることになっちゃってさ、私たち完全に被害者なんですけどみたいな。結局、杉は負けちゃうし。リベンジするとか言ってるけど、さすがに次からは個人でやってほしいもんだよ」

 僕が学区によって松嶺大付属中に入学したように、姉も中学生時代を松嶺大付属中で過ごした。それから、わけあって高校受験をし、なぜか郊外の星鈴高校というところに進学した。理由は聞かされていない。そのまま進めば受験をすることなく高等部に上がれるというのに、わざわざ受験してまで行こうとした高校である以上、それには確固たる事情があるのだろうが、姉も母も僕に語ろうとしなかった。それは僕の父も同様で、姉が星鈴高校に受かった日は、父と晩酌を交わした。無論、僕はジンジャーエールで済ませたわけだけれど。

「話がそれたね。で、何だっけ、その……鏡崎くん? って人が行方不明で、そのことを知ってしまったみっくんは、自分は何かすべきなのではないかと根拠のない使命感に見舞われて苦悶しているってわけ?」

「その言い方だと僕がヒーロー気取りしてるみたいで誤解を生むから撤回してほしいんだけど、まぁ全容はそんな感じだと思ってくれれば概ね間違いはないよ」

「何かすべきなのではないか、か……。なんかその言い回しって、酷く客観的というか、主観的ではないよね。あれだよ、政治家同士の極秘の会談とか、悪気なしに覗いちゃった感じ。漫画的に表すと、『どうしよう、どうにかしなきゃ。でも、僕に何ができるんだろう……』みたいな。でもだからってさ、みっくん1人がどうしたところで、それはどうにもならないんだよ。政治家だよ? 世間的には一介の中学生でしかないみっくんが、政治家相手にはむかえる? はむかったところで、それを具体的な形にして影響を及ぼすことなんて、出来るわけないじゃん。そういうことなんだよ、みっくん。危ない場面を覗いちゃったからって、それがイコール、みっくん1人の責任になることはないんだよ。見てしまった以上、自分で何とかしなければなんて、そんな罪悪感、背負うことないんだって。悪気はないんでしょ? 偶然知っちゃっただけなんでしょ? ならそこにみっくんの意思はないじゃん。不可抗力だよ。だからみっくんはそんなことで悩む必要なんかないの。どうしてもそれを自分で解決“したい”って、“したい”だよ? 自分の意思でそれを望むなら、自分より行動力を持った人間、頼りに出来る仲間に相談するべきなんじゃないのかな。えーっと、つまりね。みっくんが、その、行方不明の鏡崎くんを捜し出したいと言うのならば、まず信頼できる仲間にそのことを話すべきなんじゃないかなってこと」

 …………。

 おぉ。

 姉が真面目なことを話すのを、僕は始めて聞いた気がする。さすが、まがりなりにも僕の家族であり姉であり先輩だ。人生経験が違う。キャリアが違うのだ。

「分かったよ。よく分かった」

 僕は本心をそのまま言葉にした。

「姉さんの意見は、参考にさせてもらう」

「ちょ、そこ参考なの? 採用しようよ。私、けっこう深イイこと言ったと思うんだけどな」

「うん。それは僕も思った。普段の姉さんからは欠片も感じないくらい、筋の通ったすばらしい意見だったよ。正直、ここまで求めてなかった」

 そもそも、相談したことすら、手違いのようなものだったのに。

 言ってみるものだ。

「ありがとう、姉さん。姉さんに相談して、よかったよ」

「ん。それが聞ければ、私としては合格ライン」

 姉は僕の頭上から腕を離して、わきに立った。

「ふっふっふ。私だって一応、みっくんの姉15年やってきたんだからね。それを忘れてもらっちゃ困るよ」

「……すごいな、姉さんは」

「ん? それ以上ほめても、何も出ないよ」

「姉さんは、しっかりしてるんだね。妥協せずに、全てを自分の力で解決できる行動力を持ってる。だから姉さんは、自分で選んだ道を、(おく)することなく突き進むことが出来るんだ」

 これも本音。

 今まではそんな認識なかったけれど、今の話を聞いて、僕は心底、姉を尊敬したくなった。

 その行動力は、これからの人生、きっと重宝されることだろう。

「なーに言ってんの今更。自分のことくらい自分でコントロールできずに、これからの人生どうやってやりくりしてくってのよ。言っとくけど、世の中はそんなに甘くないんだよ? ワガママが許されるのは未成年のうちだけなんだから」

「僕のワガママが許されるのも、残すところ5年を切ったわけか……」

「カッコいいようでいて、餓鬼っぽいよそれ」

 姉さんはクスクスと笑うと、「じゃあね。上手くやんなよ」と言って部屋から出て行った。

 全く……。

 これほど、姉の存在に感謝したことはない。自分のことを何より分かってくれる姉の意見。身近な様でいて気づかない、自分のことを包み隠さず客観視してくれる存在。

 彼女の意見も聞かずに、僕は一匹狼を気取って、何を1人で悩んでいたんだろう。3人寄れば文殊の知恵というではないか。それは2人であったところで大した違いはない。本質は同じだ。

 さて。

 やることは――――決まった。

 後は、それを行動に移すのみ。

 僕は携帯を取り出した。

 今回は、主にみっくんの心情の変化っていうのを軸に書きました。前回がちょっとabnormal過ぎただけに、今回は現実感をコンセプトにしてみましたが、どうでしょう、なかなか難しい表現がいろいろ出てきた気がします。これはアルマジロが思っていることを、ほぼそのまんまみっくんに言わせてるようなものです。

 さて、今回の裏テーマ、“みっちゃんこと出美滓、本編初登場の瞬間”。まぁ一応、-commonplace opening-で登場はしてたんですけどね。このままだと、springではとうとう出る幕がなくなっちゃうような気がしたんで。そんでもって主人公の姉という、かなり重要なポジションにいるみっちゃん、初っ端からけっこう重要な役割を担ってもらいました。これによってみっちゃんの、どこか抜けてるようなイメージを変えられたら嬉しいです。キメる時はキメる娘なのよ。

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