少女
第3章:少女
「ふぅ、危なかったわね」
少女に腕を引かれ、俺は再び王都のにぎやかな通りに戻ってきた。
活気ある人混みの安心感にほっと息をつく。
「た、助かったよ……」
(帰宅部、半分ヒキニートの俺には、ありえないほどつらい運動量だ)
(だが、どういうわけだろう汗一滴もかいていないし、息切れもしていない)
「ところで、あなた名前は?」
少女も息も乱さず、汗ひとつかいていない。
なんなんだこの女……と思いながら答える。
「ハルだよ、水上ハル」
「ミカミ・ハル……聞かない響きね」
「私はミア。ただのミアよ。名前の前に変なもう一つの名前は付かないわ」
どうやらこの世界には苗字という概念がないらしい。
「ミ、ミア……ありがとう」
「別にいいわよ」
少しツンツンしている。ツンデレなのか?
あれから近くの食事処に入り、食事をしながら話を聞いていた。
「ぷはーーーっ!でさ、お兄様がそれで私の剣を折ったの!ほんと最悪!」
ミアは楽しそうに話す。
(この国の料理...味付け薄くないか?)
運ばれてきた煮込み料理を口に運ぶが、驚くほど味が薄い。
(……醤油どころか塩気も足りないな。日本のコンビニ飯が恋しいぜ)
そんな俺の戸惑いをよそに、ミアは豪快に料理を平らげていた。
そして驚くべき事実が判明した、ミアはイグロス王国の国王の娘、
王族だったのだ。
ただ、王族の生活は嫌いじゃないが、
もっと自由に過ごしたいから飛び出してきたらしい。
「あ、ははは……」
(異世界転生して、王族の女の子と一緒に行動するなんて……)
(でも、本当に王族なのか...?なんていうか、
マナーが無いというか大雑把というか...)
ハルはミアの王族という事実を受け入れきれずにいた。
店を出ると、街は完全な夜に包まれていた。
少し冷たい夜風を浴びていると
その時、あることに気づく。
「あっ……」
金がない。つまり、泊まる宿がない。
ミアが振り向く。
「どうしたのよ、ハル」
不思議そうな視線を向けてくる。
「い、いや……僕、実は転生してきて、お金がないんだ……」
恥ずかしそうに言うと、ミアの表情が一変した。
「!?」
「な、なに?どうしたの?」
「あんた今なんて言った?」
「いや、お金ないって」
「違う、その前!」
「え……転生してきて……?」
ミアの目が見開かれる。
「――あんた、ステータスは!?」
「わからないよ、無職だから」
そう言うと、ミアは呆れた顔でため息をついた。
「あんた、この世界での転生者の意味わかってるの?」
「い、いや……なにも」
ミアは身を乗り出して言った。
「いい?転生者は最初から魔力も体力も剣術も、全部レベルMAXなの!」
「えっ……」
もう驚くしかない。さっきの出来事の辻妻が合う。
「このこと、誰かに言った?」
なぜかミアは嬉しそうに聞いてくる。
「い、いや……ミアにだけだけど」
そう言うと、ミアの笑顔がさらに輝いた。
「じゃあ――イグロス国立学園に行くわよ!」
俺は、この世界の流れに身を任せることにした。
「あ、はい……了解でーす」




