第九話 盛者必衰
何事もなく、一週間が過ぎた。
放課後。
図書室は相変わらず静かで、時計の秒針の音だけがやけに響いている。
窓際の席。
向かいに座る銀髪美少女は、今、黙々とページをめくっていた。
――読んでいるのは僕の勧めた漫画だ。
背表紙には、少しマイナーなSFコミック。
派手さはないが、構成とテーマが異様に尖っている作品だ。
(……ちゃんと読んでる)
それも、流し見じゃない。
表情を変えながら、指でセリフを追っている。
光崎アリスは自分が好きなもの以外にも、
「友達が好きなもの」として、きちんと向き合ってくれる。
「……ここ」
ふいに、彼女が顔を上げた。
「この主人公、感情抑えてるけど」
「本当はめちゃくちゃ怒ってるよね」
核心を突かれて、思わず息を飲む。
「……そこ、気づきました?」
「わかっちゃうよ。私感情移入激しいから」
ページを指差しながら、淡々と言う。
そうしてついに最終巻を読み終えた彼女は噛み締めるように上を向いてそのまま僕への視線を落とす。
「めっちゃ面白かった!
やっぱり本当に小山くんとは趣味が合うよね!」
胸の奥が、少し温かくなる。
それと同時に僕は思う、
(この時間が永遠に続けばいいな)…………と
*
そして翌日、
図書室で会って、
漫画やアニメの話をして、
時々、他愛もない雑談をして。
それらが今日もできると思ってた。
もう当たり前だと勘違いしていたんだ。
――その日の放課後も、いつも通り図書室へ向かう途中。
廊下の角を曲がろうとして、
僕は足を止めた。
前方から、四組の橘グループの、女子の会話が聞こえてきた。
「ねえ、」
「アリス、最近放課後どこ行ってんのかな?」
「あと、普通にノリ悪くない?」
その名前を聞いた瞬間、
胸が、わずかにざわつく。
「それな」
ある女子が彼女を庇うように言う。
「用事なんじゃないの?」
準備していたかのようにある女子が即答する。
「用事?」
「ほとんど毎日じゃん」
「前は普通に遊んでたのにさ」
責めているわけじゃない。
でも、無邪気でもない。
「アリスいないと、正直盛り上がんないんだけど」
その一言で、彼女を取り巻く人々が本当に自分勝手で彼女のことなど何も考えていないと言うことがわかる。
そうして、僕はその場から静かに離れた。
足音を殺して、
何も聞かなかったふりをして。
理由なんて、考えなくても分かる。
放課後。
図書室。
僕。
全部、つながっている。
彼女が無理をしている理由
それは、きっと……僕のせいだ。
僕が彼女の立場を危うくしている。
(……距離、取るべきだよな)
そう思ってしまった瞬間、
胸の奥が、ひどく痛んだ。
だが、僕の意思は変わらない。
図書室へ向かう足は、
反対を向く。
その日、
僕は、図書室に行かなかった。
第9話・完
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