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第六話 オタ友会特別編

突然の雨で、光崎邸に雨宿りすることになった小山純太郎。

その家のデカさに驚くが……


 門をくぐると、雨音が一気に遠ざかった。


 外の街灯の光は、もう届かない。

 代わりに、足元を照らすように配置された小さな照明が、

 石畳の道を淡く浮かび上がらせている。


 左右には、手入れの行き届いた庭。

 木々は整然と並び、夜風に揺れても、音ひとつ立てない。


(……静かすぎる)


 まるで音を吸い込んでいるようだ。


 歩くたびに、靴底が石畳に触れる湿った音だけが響く。

 その音すら、ここでは場違いに感じられる。


 道の先――

 ようやく、屋敷が見えた。

 ここまでの道を歩くだけで服がずぶ濡れになってしまった。


 屋敷はというと、とにかく大きい。

 ただそれだけじゃない。


 木材が複雑に連なる外壁は、夜の闇の中でも存在感を失わない。

 また、窓の一つ一つが規則正しく並んでいる。


 派手さはない。

 けれど、長い年月をかけて守られてきた“重み”がある。


(……本当に、人が住んでる家か?)

 

 そんな感想が、素直に浮かぶ。

 この家はあまりにも静か過ぎるからだ。


 振り返りもせず、彼女は当たり前のように歩いていく。


「服部は今日は戻らないと思う」


 前を歩きながら、アリスが言う。


「え?」


「基本、家にいるのは服部だけ。でも今日は迎え来なかったし」

「なにかあったのかな?」


 さらっとした口調。

 執事がいなくなったことなんて微塵も気にしている様子がない。


「あ、あの…ご両親は?」


 僕の率直な疑問に彼女は答える。


「お父さんもお母さんも、だいたい海外にいる。…いつものことだよ…」


 屋敷の静けさが、それを裏付けていた。


 「何もないけど、ごめんね」

 

 そう言うと、光崎アリスは屋敷のドアを開けた。

 僕は彼女に続く。


 内装は、木製の細長い道に左右に襖が連なっている。

通り過ぎる部屋の全ては、彼女の言った通り何もなかった。

 何もない、というよりほんとうに生活感を感じない。微塵もだ。


 キョロキョロ見渡すのは失礼かと思い、

 彼女の背中だけ見てついていく。


 体感時間は5分ほどで、

 時代劇で見たような道を歩いていると、屋敷の端に着く。

 左横には暗くて先の見えない階段があった。


「こっち」


 先ほどから、オタ友会の元気はどうしたと言わんばかりに、何も話さない彼女がついに口を開いた。

 


「ここ上ったら、私の部屋」


(……え?)


 思考が一拍遅れる。


「え、あ、えっと……リビングとかじゃなくてですか?」


「リビング広すぎて落ち着かないし」


 呆気に取られていると、彼女はそそくさと階段を上っていく。

 

 出遅れてしまったと思い顔を上げると、

 僕には見えてしまったのだ。純白なる神聖な物が。

 完全なる不可抗力である、僕はそれを見たことに気づかれないように階段を二段飛ばしにして彼女の一段後ろをキープした。


 階段を上り切ると、そこは一階とは対照的に、広々していた。壁にかかっている看板を見るに、風呂、トイレ、キッチン、などの生活基盤が全て揃っている。


 2階だけで生活が完結している。

 何かの事情を感じるが、あえて何も聞かずに彼女についていく。

 

 ドアノブに手をかけて、こちらを見る。


「恥ずかしいから、あんまり見ないでね…」


(い、いやぁ〜見ないでと言われましても……)

 不可能な要求に戸惑う。

 

 彼女の部屋はどのようなものか、という知的探究心のせいかはたまた他の理由か、

 僕の心臓はいつも以上に脈打っている。


 ドアが開く。


 ふわっと、甘い匂いがした。


(……女子の部屋だ)


 白を基調にした部屋。

 整えられた本棚、デスク、ベッド。

 ぬいぐるみは少ないけど、ゼロではない。

 意外だったのは、彼女の部屋が実家の僕の部屋と同じくらいの広さだったことだ。


 そして目に入るのは――


(ポスター……シノゴ)


 しかもアニメ版じゃない。

 原作小説準拠のビジュアル。


「……ガチですね」


「でしょ」


 誇らしげ。


「座っていいよ」


「し、失礼します……」


 ベッドから一番遠い位置である、ミニテーブルの端にそっと腰を下ろす。


(落ち着け、俺)


 戸惑い、びくびくしていると光崎アリスは思い出したように言った。


「私たち結構濡れちゃったから着替えいるよね…」

「ちょっと待っててっ」


 そう言い残して、アリスは部屋の奥へ消えた。


 ぱたん、と軽い音で扉が閉まる。


(……え、ひとり?)


 取り残された僕はとにかく落ち着くことができず、

 部屋をキョロキョロと見渡してしまう。

 改めて見えてくる彼女の部屋。

 生活感は控えめなのだが。――


(……オタク棚、あそこだけ熱量違いすぎでは?)


 原作小説『竜巻ガールのシノゴ』が、刊行順に綺麗に並んでいる。

 初版帯付き。特典冊子あり。

 ポスターも、アニメ版じゃなく原作準拠のビジュアル。


(抑制されたガチ勢……一番怖いやつだ)


 そんなことを考えていると、


 ――かちゃ。


 扉が開いた。


「お待たせ」


 思わず顔を上げて――

 脳が一瞬、停止する。


 淡い色合いの寝巻き。

 肌の露出は少ないのに、柔らかいラインがはっきり分かる。

 逆に目のやり場に困る装いであった。


 完全に“家の中モード”だ。


 よく考えるとこの人、

 まだ友達になって二週間のやつを家にあげて、

 パジャマ姿まで見せてるの距離感バグってないか?


 驚きと興奮の目で彼女を見てしまった。


 アリスは僕の反応に気づいたのか、少しだけ視線を逸らす。


「……変?」


「い、いえ。全然。とても、その……お似合いです」


 必死に言葉を選ぶ。


 彼女は嬉しそうににこりと微笑むと、

 手に持っていた紙袋を僕へと差し出した。


「小山くんも。これ」


「え?」


 来客用の寝巻きだった。


「濡れたままだと良くないでしょ」


 当然、という顔。


「着替える場所は……?」


「私部屋出ておくから……その間に」


 そういうと、またドアを開けて出ていってしまった。


 1分ほどで着替え終わり、

 濡れた服を畳みカバンに押し込んだ後、

 僕は彼女を少し大きな声を出して呼んだ。


「あのー、光崎さん。着替え終わりました、」


 そういうとすぐにドアが開き、

 満足そうな顔をしている光崎アリスが入ってきた。


「それじゃあ……」


「始めようか、オタ友会特別編を!」


               第六話・完

 


最後まで読んでいただきありがとうございます!

できるだけ、7時投稿、19時投稿を目指しています。


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