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第四話 オタク友達

この作品を手に取っていただきありがとうございます!

ストックはあるので高頻度で投稿していきます!


 その日は、布団に入ってから三時間、まったく眠れなかった。

天井を見つめながら、僕は何度目か分からないため息を吐く。


(……友達、か)


 昼間の図書室。

 光崎アリスの言葉が、何度も頭の中で再生される。


『君さえ良ければ、私の友達になってくれないかな』


 思い出すたび、胸の奥がむず痒くなる。

 嬉しい、という感情だけじゃない。

 戸惑いと、緊張と、不安が、ぐちゃぐちゃに混ざっている。


 だって相手は――

 光崎アリスだ。

 財閥令嬢で、成績優秀で、容姿も完璧。

 クラスの中心にいる人間。


 そんな相手が、

 「友達になりたい」とこの僕に言ってきた。


(冷静に考えたら、意味分からないだろ……)


 僕は寝返りを打つ。


 これまでの人生で、

 自分から「友達になりたい」と言われた記憶が、ほとんどない。

 ましてや、あんな人から。


 期待するな。

 舞い上がるな。

 勘違いするな。


 面倒臭い性格が、ブレーキを踏み続ける。


 でも。


(……でも、やっぱり嬉しいんだよな)


 結論は、そこに戻ってしまう。

 結局その夜、ほとんど眠れないまま朝を迎えた。


           ***


 それから土日を挟んで月曜日。

 3日前までの気だるげな朝が嘘のようである。

 

 大地を踏み締めて、僕は目覚めてゆく。


 いつも通り教室に少し早めに着いた。

 彼女の提案によるとクラスでいるときはいつも通りでいいんだったよな。

 というか、このクラスで彼女に話しかける勇気なんて持ち合わせていない。

 一軍に囲まれて小山が小川ちいかわになるだけだろう。


 そんなことを思い、教室でラノベを読んでいると、

 彼女が入室した。

 教室の雰囲気は一変し、すぐさま賑やかになった。


「アリス〜今日ちょっと遅かったね」

「アリスやっときた〜」

 

 彼女の友達であるほぼギャルは声が大きい。

 光崎アリスはいつも通りニコニコしていて、周りの人達を安心させる。

 そして、いつも通り橘はアリスと仲良く話し始める。


 見慣れた光景、ただいつもと感じ方が違う。とてもクリーンにその光景を見られる。

 なぜって?

 それは僕が彼女と友達になったからとしか言いようがないだろう。


 少しの優越感に浸り、あっという間に時間が過ぎた。


 放課後になり、僕はいつも通り図書室へ向かう。

 藤堂はアイドルのライブ配信が今日から時間変更で放課後すぐ始まってしまうので、

 図書室に来る頻度が減ってしまうらしい。


 放課後の校舎は、昼間とは別の顔をしている。

 部活帰りの生徒の声が遠くで響き、窓から差し込む夕方の光が、廊下をオレンジ色に染めていた。


 四階の図書室。


 一階分の階段を登るだけで人の気配は驚くほどなくなる。

 足音がやけに響くのが、少しだけ心地いい。


 図書室の扉を開くと、

 本の匂いと、静けさが迎えてくれた。


 夕暮れの光が大きな窓から差し込み、

 本棚の影を長く床に落としている。

 昼とは違って、どこか落ち着いた空気だ。


(……やっぱり、ここは好きだ)


 安心できる場所。

 誰にも評価されない空間。


 そして今気づいたことがある。

 (というか、友達になったと言っても、クラスでは話さないし、いつ話せばいいんだろう。)


 そう思いながら、いつもの席に向かおうとした。

 そんなときだった、

 僕の疑問に答えるように心地の良い声がした。

 

「小山くん」


 心臓が、一瞬だけ跳ねる。


 振り返ると、そこにいたのは光崎アリスだった。

 制服の上に薄手のカーディガンを羽織り、鞄を肩にかけている。


 放課後だからだろうか。

 昼間より、少しだけ柔らかい雰囲気だった。


「……こんにちは」


 反射的に、敬語。


「こんにちは、じゃないでしょ」


 即座に突っ込まれる。


「あ……すみません」


「ほら」


 小さく笑われた。


「放課後だし、敬語やめよ」


 簡単に言ってくれる。

 でも、僕にとってはなかなか高難度だ。


「……努力、します」


「またそれ」


 くすっと笑う。


 向かい合って、窓際の席に座る。

 夕焼けが、彼女の銀髪を淡く照らしていた。


 まさか友達になったからと言って、こんなに早く二人きりで話す時が来るとは思わなかった。

 

 (もしかして彼女は僕と話したかったのか。)

 気持ちの悪い自意識過剰が出てしまう。


「で」


 彼女は鞄から一冊の文庫本を取り出す。


 表紙を見た瞬間、喉が鳴った。


『竜巻ガールのシノゴ』の小説版だ。


「……やっぱり」


 思わず声が出る。


「やっぱり、なに?」


「いえ、その……」


 言葉を選ぶ。


「好きなんだなって」


「うん。大好き」


 即答だった。迷いがない。


「アニメから入ったけど、原作小説のほうが、もっと好き」


 彼女はページをぱらりとめくる。


「心理描写が丁寧だし、サチの独白が特に良い」


 その名前を聞いて、胸が少し熱くなる。


「……分かります」


「でしょ」


 こちらを見る目が、きらりと光る。


「アニメだと、どうしてもカットされてるじゃん。

 サチが迷ってるところとか、弱いところとか」


「はい。

 原作の、五巻の中盤とか特に……」


「そう! 

 あそこ、サチが“強くなりたい理由”を自分で否定してるところ」


 そこまで言われて、思わず笑ってしまった。


「そこ、僕も一番好きです」


 一瞬   間が空く。


「……やっと見つけた」


 彼女は、ぽつりと呟いた。


「ちゃんと、この作品の話ができる人……」


 胸の奥が、じんわり温かくなる。


 図書室の窓の外では、

 校庭を横切る部活生の影が、ゆっくり伸びていく。


 静かで、

 穏やかで、

 でも、確かに特別な時間。


「ね、小山くん」


「はい」


「私ね、アニメの改変ポイントだけで一時間語れる自信ある」


「……僕もです」


 即答すると、彼女は満足そうに笑った。


「じゃ、第一回オタ友会開催だね」


(……オタ友、か)

 その言葉を噛み締める。

 そして本当に久しぶりにニカっと笑ってしまった。


「僕についてこれますか?」


 この言葉を聞いた瞬間、彼女の顔が明るくなったのは気のせいだろうか。


                第四話・完

 

 

 

読んで頂きありがとうございました!

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