第二十話 僕はマシュマロ
結局僕はあの後光崎アリスに会うのが何故か気まずくなってしまってこっそり荷物を取って、何も言わずに帰ってしまった。
土日を挟んで、月曜日。
空気はいつも通りなのに、僕の中だけが落ち着かない。
中間考査が終わって、
あの「打ち上げしませんか?」を今度こそちゃんと、光崎アリスに言いたかった。
寮から校舎へ向かう道で、何度も頭の中でセリフを組み立てる。
「光崎さん、今週の休みの日……」
「よかったら、打ち上げ……」
途中まで作って、勝手に自分で消してを繰り返す。
*
朝休み。
今ならいける。
そう思って、僕は席を立った。
光崎アリスの席の方へ向かう。
一歩、二歩――
そこで、足が止まった。
橘が、光崎アリスの机の横にいた。
楽しそうに喋っている。
彼女も笑っている。
クラスでも僕と喋りたいと以前彼女は言ってくれたが、別に一軍達と喋らないなんて言ってはいない。
そこに妬いている僕は自分自身が面倒に思えてしまう。
(……ああ、そうだよな)
僕は、あそこに割り込めるタイプじゃない。
割り込んだ瞬間、また変な注目が集まって、光崎さんが余計に面倒な目で見られる。
そう考えた瞬間、足は勝手に引き返していた。
……今度こそって思ったのにな……
自分で自分に呆れる。
けど、立ち止まった理由を「臆病」だけで片付けたくなかった。
――彼女のため。
そうして、僕は彼女に話しかけない理由を正当化した。
*
昼休み。
食堂へ向かう途中、また彼女を見かけた。
橘たちの輪の中心で、光崎アリスが話している。
食堂の席に座っても、落ち着かない。
うどんをすすっても、味がよく分からない。
結局、昼にもタイミングを逃してしまい、気づけば、放課後になっていた。
*
放課後の廊下は、一年生の寮へ戻る声でざわついている。
僕は鞄を持ち直して、光崎アリスの席の方を見た。
彼女はまだ、橘たちと少し話している。
先週の教室での僕に話しかけてくれた彼女は嘘のようだ。何も変わっていないよう見えてしまう。
だがそう見えてしまうのは僕の弱さのせいであることくらいわかっている。
(……今日はやっぱり無理か……)
さすがに今この状況で彼女を誘うことはできない。
でも、絶対に言わなきゃいけないことが一つある。
釧路七のこと。
今日から放課後に釧路七と少しの時間漫画を描くことになったという事を。
中間考査の後の一件を、僕の口からちゃんと伝えないと
また「勝手に進めた」ことになる。
(……逃げるな)
自分に言い聞かせて、僕は一歩踏み出した。
橘たちの輪のすぐ手前まで行く。
胸が苦しいほど鳴っている。
「……光崎さん」
名前を呼ぶと、彼女が振り向いた。
そして橘達も振り返る。
その瞬間、時が止まったように言葉が出てこなくなる
僕は、息を吸った。
「……ちょっと、話してもいいですか」
「放課後のことで……」
言えた。
まだ中身は言えてないけど、入口だけは作れた。
光崎アリスの目が大きく見開かれた。
すると彼女は橘達に断りを入れ、僕と共に廊下に出た。
橘達はどこか済ました顔をしていた。
「まさか小山くんから話しかけてくれるとは思わなかったよ」
「いっつも私からだからね……」
彼女はいつも通りに見えるが、どこかいつもと違う。
いやだいぶ違う。
「……あの光崎さん……」
「僕……今日からっ……」
そう言いかけた瞬間被せるように彼女が尋ねた。
「先週の中間の後、釧路さんとどんなこと話したの?」
ゾクッッッ……
背筋に寒気が走った。
本能が理解した。
これは怒っている。
きっと僕が先週、釧路七に呼ばれたあと何も言わずに図書室にも行かずに帰った事を怒っているんだ。
「え…えっと、それを今から伝えようと思って……」
「ふーん……」
目が怖い、完全に怒っている。
謝れば良いのか、謝るとしてどう言えば良いのか、
何もわからない。
そうして僕は静かに燃えている彼女に焼かれるマシュマロのように小さくなっていった。
第20話・完
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