第十四話 ざわめき
「……眠い……」
最初に僕を襲う苦悩は今とてつもなく眠いことだ。
理由は明白、昨日の一件が睡眠を邪魔したからだ。
もう一つの苦悩は、一週間後に中間考査があると言うこと。最近は考える暇がなくて頭の隅に置いていたそれが、色々解決したあとに襲ってきた。
一難去ってまた一難とはよく言ったものだ。
ふらつく足取りで部屋のドアを開け、寮で食事をとってから学校に向かう。
食堂にいる生徒は少なくゆったりとはできるが、ゆっくりとはできない。
もうすぐホームルームが始まってしまうからだ。
教室に着いた頃には、始業ギリギリ。
中に入ると、すでにほとんどのクラスメイトが席についていた。
いつもの光景。
いつもの空気。
光崎アリスは、自分の席で静かに座っていて、
僕はそれを無意識に確認してしまう。
すぐに席に座り、大木がホームルームを始めた。
「えーと、まぁ見た感じ欠席もいないんで終わりますね、」
いつも通りの早いホームルーム。
他クラスより五分ほど早く終わる。
そして、大木が出てからすぐに騒がしくなる教室。
いつも通り、
何も起きない、そう思ったその時だった。
「おはよう!!今日遅かったね!」
昨日、一日中聞いて、話した、声の主。
顔を上げるより先に、視界に銀色の艶のある髪が入り込んできた。
目の前には、当たり前みたいな顔をした光崎アリスが立っていた。
「……え?……お、おはようございます……」
反射で挨拶は返したものの、脳が追いつかない。
なんで? 今? ここで?
「昨日ちゃんと帰れた?」
「え、あ、はい……」
その瞬間、教室の空気が盛大に変わったのを感じた。
ざわついていた私語が、一斉に止まる。
視線。視線。視線。
全方向から、刺さるような注目を浴びているのがわかる。
(いや、待って、待って)
ここは教室。
クラスメイトは全員いる。
そして今銀髪美少女が、僕に話しかけている。
(僕に話しかけてるよな?)(なんで?)(教室では話さないじゃ?)
思考停止した脳は、次に大量の疑問を作り出す。
「眠そうだね」
「……あ、はい……眠いです」
そんなどころじゃない。
みんなの注目の的となり心臓が限界を迎えそうだった。
「ねえ」
光崎アリスは、周りの視線なんて存在しないみたいに続ける。
「今日、放課後ヒマ?」
――終わった。
教室の空気が、完全に固まったのがわかった。
「え、あ、えっと……」
言葉が出てこない僕を見て、彼女は少し首を傾げる。
「私の家で勉強しよ。テスト近いし」
爆弾を、さらっと投下する。
「どういうこと?」
「なんであいつが光崎に誘われてんだ?」
「てかあいつ誰だ?」
「どんな関係?」
大きなどよめきが起きた。
誰かが息を呑む音。
信じられないものを見るような視線。
橘のいるあたりからも、明らかな注目が飛んでくる。
(……なんで……こうなる……)
頭の中が真っ白になりながらも、昨日の夜がよぎる。
「約束だよ」
昨日のあの約束を思い出す。
「……わ、わかりました……」
そう答えた瞬間、
アリスは満足そうに小さく笑った。
「決まりだね」
それだけ言って、自分の席に戻っていく。
まだ教室はざわめいている。
――これはまずい事になった。
そう確信しながら、
僕は机に突っ伏して、ひたすら現実から目を逸らした。
第十四話・完
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