第十二話 本当の友達
最近自分を避けている純太郎をつけ家へ押し入る光崎アリス。
純太郎が何に悩んで自分を避けているのかを知る。
さっきまでのやり取りが、頭の中で何度も反芻される。
僕はようやく口を動かすことができた。
「そんなこと……なんですか?」
呆気に取られたと言わんばかりのその言葉に、
光崎アリスは、はっきりした声で答える。
「私はね」
その視線は、真っ直ぐ僕に向いていた。
「君と一緒に漫画読んだり、アニメの話をしたりするのが好きだから、放課後に君と一緒に図書室にいるんだよ」
「…確かに私は、自己紹介の時とか周りの評価を気にして本当の趣味を言えなかった。」
彼女は続けた。
「でもね……」
「やっとできた本当の自分を曝け出せる友達との楽しい時間を、みんなの評価を気にして壊すほど私は弱くない」
一切の迷いがない。
取り繕ってもいない。
「私があの子達に何を言われたかは分からない……けど、何を言われていたとしても君との時間を絶対に失いたくない」
胸の奥を、殴られたみたいだった。
「だから」
彼女は一拍置いて続ける。
「もう、私を避けないで」
「勝手に私を決めつけて、勝手に離れないで」
その言葉を聞いた瞬間、
僕は自分がどれだけ彼女を理解していなかったか、思い知らされた。
(……本当に、最低だ)
彼女のことを分かったつもりで、
実際には、何一つ分かっていなかった。
気付けば泣いていた。
今までに積もった彼女への罪悪感のせいだろうか。
彼女にはバレまいと頑張って涙を隠すが、嗚咽が漏れる。
「うっ、すみませんでした……」
今度は、辿々しいが迷いなく言えた。
涙はまだ止まらない。
「もう、こんなことしません」
「勝手に決めつけたり、逃げたりしないって約束します」
僕が頭を下げて謝ると、
アリスは何も咎めない優しい母のような笑顔で、ふっと息を吐いて、
僕を抱きしめる。
僕から流れる大粒の涙は彼女の服に染みる。
彼女は気にするなと言い、さらに強く抱きしめる。
涙は次第に止み、
僕の嗚咽は六畳一間の小さな部屋で、満足したように消えていった。
⸻
何分経っただろう。
さっきまでの険悪な空気は今では穏やかな空気へと変貌していた。
外はもうすでに黒に染まっている。
彼女は僕が泣き止んでから少ししてゆっくりと立ち上がった。
彼女の視線が、部屋の本棚に向いた。
全てを打ち払うように彼女は言った。
「そういえば」
「……これ、全部漫画?」
泣いていたことの恥ずかしさが今になって襲い、
気恥ずかしくなりながらも答える。
「はい。まあ……その、はい」
彼女は本棚から漫画を一冊手に取る。
「これ、前に小山くんが勧めてたやつだ」
「読んでもいい?」
「……ここで、ですか」
「他にどこで読むの」
当たり前みたいに言われて、
僕は言葉に詰まる。
彼女は漫画を持ったまま僕の隣に座った。
距離が近い。
いつもよりも、明らかに。
ページをめくるたび、
距離が少しずつ縮まっていく気がした。
僕の気持ちとは裏腹に、彼女は全く気にしていない様子で読み進める。
そんなこんなで時間は驚くほど静かに過ぎていった。
⸻
ふと、時計を見る。
「……あ」
光崎アリスも同時に顔を上げた。
そして何気ない顔で言った。
「そういえば私、バレずに寮から出られるかな?」
そう言われて、
僕は現実に引き戻される。
もうすぐ食事時、寮が一番騒がしくなる時間帯だ。
二人して、顔を見合わせる。
「……」
「……」
バレたら学校からの厳しい罰則、
だがなぜか僕たち二人は不思議と落ち着いている。
「……考えましょうか」
僕がそう言うと、
アリスは楽しそうに笑った。
「うん!!」
第十二話・完
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