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第十話 捕まえた

光崎アリスのためを思い、距離を置くことにした純太郎。

アリスは様子のおかしな純太郎を気遣うが…


図書室に行かなくなってから、三日が経った。


変わったことは、何もない。

少なくとも、表向きは。


授業は普通に進み、クラスはいつも通り騒がしい。

光崎アリスは、相変わらず一軍グループの中にいて、

笑って、話して、何事もなかったように振る舞っている。


僕と、目が合うことはない。

話しかけられることも、ない。


(……それでいい)


これが、正しい距離だったんだ。


⸻そうして放課後。


人の少なくなった廊下を歩いていると、

背後から足音が聞こえた。


「小山くん」


 聞き覚えのある、安心する声が聞こえる。


「最近、図書室来ないけど何かあった?」


僕は振り返らずに言う。


「……用事があるだけです。」


「三日も?」


彼女は短く、切るように言った。


少し間があり、彼女は口を開く。


「……私何かしたかな?」


声は低く、抑えられている。


「してません」


それだけ答えて、歩き出す。

心が締め付けられる。

彼女のためなんだと自分に言い聞かせる。


何かを察したのか

彼女はそれ以上、追ってはこなかった。



翌日、僕は重い足を引き摺りながら教室へ向かった。


教室ではやはり何も起きない。


光崎アリスは、クラスの中心にいて、

橘や橘グループと話し、笑い、

僕の方を見ることすらない。


――放課後までは。


「小山くん」


校舎を出たところで、再び声をかけられた。


「……」


今度は、返事をしなかった。


「ねえ」


無視。


「ちょっと」


僕は足を止めない。


「……無視?」


その言葉は僕の心臓をグサリと突き刺す。

それでも、僕は振り返らず、何も言わない。

ここで応じたら、

この五日間の僕の努力が全て壊れる気がしたから。

本当はあなたと喋りたいんだと本音を漏らしてしまいそうになるから。



そして次の日、

またも何事もなく一日が終わる。

僕の昨日の彼女への態度を思い出して一日中悶絶してしまった。

でもこれでいいんだ。

僕みたいなクラスの陰キャと放課後を過ごすよりも、あのグループと過ごす方が彼女は輝けるから。


校舎を出て、寮へ向かう道を歩く。


人の気配はない。

聞こえるのは、自分の足音だけ。


だがなぜか胸の奥が、妙にざわついていた。

理由は考えない。


寮に入り、階段を上り、

自室の前に立つ。

今日の寮は本当に誰もいない。


鍵を取り出し、ドアノブに手をかける。


中に入ったその瞬間――


ドアが、反対から引かれた。


「――っ!?」


思わず振り返る。


そこにいたのは、


息を少し乱し、

ドアの端を掴んだ、


   光崎アリス   だった。


「……やっと捕まえた」


息を切らしながら言う。


「……な、なんで……」


「話して」


それだけ言って、彼女はドアを強く引いた。


抵抗する暇もなく、

僕は自分の部屋の中へ押し込まれる。


ドアが閉まり、

鍵の音が、小さく響いた。


逃げ場は、もうない。


            第十話・完

読んでくださりありがとうございます。


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