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黎明創紀 APORIA-CODE  作者: 久遠 魂録


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31:Sonance / Puzzle of Daybreak

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

武雄神社の巨楠を守り抜いた後の空気は、不思議なほどに澄み渡っていた。


 『Remaining storyline: 8%』。


 視界の端に浮かぶ一桁の数字は、依然として冷酷な現実を突きつけている。だが、アサヒナ・アリアの胸に宿っているのは、先刻までの絶望ではなく、微かな、けれど確かな「予感」だった。


「……アリア。またあの木を見ているのね。……さっきの戦いで、何かに気づいたの?」

 カノンが、愛用の端末を閉じ、アリアの隣に立った。


 八機のアポリアが初めて共鳴し、虚無を退けた瞬間。アリアの脳裏に、テツトの指示にはない「未知の楽譜」が一瞬だけ映し出された。それは、リツの爆音やコトネの静寂、サヤカの韻律、そしてヒビキの鎮魂歌……バラバラだった八つの旋律が、パズルのピースのように組み合わさるための、精緻な設計図。


「うん。……カノン、あの『穴』はね。世界を消そうとしていたんじゃなくて、何かを『探していた』ような気がするんだ。……私たちの、この世界に対する答えを」


「答え? ……非論理的ね。けれど……」

 カノンは眼鏡のブリッジを押し上げ、夕暮れの空を見上げた。


 かつて存在した1編の物語。記述者が「飽きた」と投げ出した筆。けれど、もしその筆跡の中に、記述者自身さえ気づかなかった「愛」が残されていたとしたら。

「……もしそうなら、私たちの戦いは『破壊』ではなく『完成』への旅になるわね。……テツトさんに報告しましょう。この八機の共鳴が作り出す、新しいパッチの可能性を」

 二人の会話を遮るように、武雄温泉街の方から賑やかな笑い声が聞こえてきた。


 ワカが中心となり、リツ、コトネ、サヤカ、ヒビキ……新旧のパイロットたちが、武雄名物のスイーツを片手に、激しい、けれどどこか楽しげな議論コメディを交わしている。


「いいですわね、皆様! この街の甘味こそが、記述を豊かにする最高の素材ですわ! これを『退屈』と呼ぶなど、記述者の審美眼を疑いますわね!」


「ケッ、お嬢様は相変わらずだな。……でも、この羊羹の味は、削除するには勿体ねえ。……そうだろ、ヒビキ?」


「……ええ。……この味を守るための鎮魂歌なら、何度でも奏でるわ」

 不協和音だった八人の声が、今は一つの賑やかな「日常」へと収束していく。

 それは、記述者がどれほど残酷な線を引こうとも、決して消し去ることのできない、力強い生命の記述。


 ――その頃、緒妻邸の縁側。


 テツトは、ノートPCを膝に乗せたまま、ユウが淹れてくれたレモングラスティーの香りに目を細めていた。


「……オユウさん。……アリアたちが持ち帰ったデータ、解析が終わったよ。……驚いた。……この世界には、まだ『隠された物語シークレット・ルート』が存在している」


「あら、そうなの? テツちゃんなら、きっと見つけ出すと思っていたわ」

 ユウは、テツトの隣に座り、そっとその肩に頭を預けた。


 テツトは、これまで「世界の余命」という数字に怯え、残酷な結末を回避することばかりを考えていた。だが、アリアたちの戦いを見て気づいたのだ。この物語を救う鍵は、記述者と戦うことではなく、記述者が遺した「美しき未完成」を、自分たちの手で「最高の一章」へと書き継ぐことにあるのだと。


「……アキ、イツキ、マサル。……シュカやネガイ。……あの子たちが帰ってきたとき、自慢できるような武雄にしてみせるさ。……なあ、オユウさん。……僕たちの物語は、ここから面白くなる」


「ええ。……楽しみね、テツちゃん」

 ユウの微笑みは、もはや秘密を隠すためのものではなかった。


 彼女の瞳の奥、黄金の文様が優しく脈動し、武雄と鹿島を繋ぐ「光の道」を静かに照らし出す。

 

 中学三年のアキとシュカ。

 同級生であり、姪と叔母。

 彼女たちが鹿島の浜辺で笑い合っている姿は、決して過去の記録などではない。それは、この戦いの先にある「最高の結末」への、眩しい道標。


 地下センターのメインモニター。


 『Remaining storyline: 8%』。

 数字は減っている。だが、その隣に新しく表示された『Potential Expansion: 80%』の青い文字が、物語の無限の広がりを予感させていた。


「……よし。……第4サイクル、作戦開始だ。……ターゲットは、武雄の地下に眠る『失われた原稿ロスト・アーカイブ』。……みんな、謎解きの時間だぞ!」


 テツトの明るい声が、武雄の街に響く。

 記述者への、最高の皮肉と反撃。

 それは、世界を誰よりも愛することで、物語の主権を奪い返す。

 中毒的なまでに美しい「再起動」の旋律が、今、武雄の夜空に鳴り響こうとしていた。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

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