29:Conflict / Dissonant Requiem
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
武雄神社の三千年の歴史を刻む巨楠が、悲鳴を上げているように見えた。
その周囲、本来は神聖なまでの静寂に包まれているはずの空間が、今、TVの砂嵐のようなノイズに覆い尽くされ、現実の色彩が一方的に「漂白」されている。
「テツト! 敵の記述深度、さっきの音叉の比じゃないわ! ……私たちの機体の存在定義さえ、強引に『書き損じ』として処理されようとしてる!」
カノンの01号機『エチュード』が、アブソリュート・バイナリを構えながら絶叫する。
虚無の中心に現れたのは、巨大な「穴」そのものだった。
それは攻撃を放つのではない。ただそこに「存在する」だけで、周囲のあらゆる意味、歴史、そして愛された記憶さえも、無へと変換していく、絶対的な『不履行(FAKE-FULL-PAYMENT)』。
「……『不抜の加護』! ……くっ、聖域が、消えていく……! 俺の信頼が、記述の根底から引き剥がされる……!」
カナタの02号機が盾を突き立てるが、その盾さえもがピクセル状に崩落し、透明な虚無へと呑み込まれていく。
「ハッ、そんなお利口な記述が通じる相手じゃねえって言ってんだろ! ……リツ、行くぜ!」
紅い稲妻、ワカキ・リツのキャロルが超高速で虚無へと突撃する。
「……待ちなさい、リツ。……その穴は、あなたの爆音さえも吸い込む深淵よ。……今の私たちには、この空の『悲鳴』をなだめる旋律が足りない」
コトネの06号機『ノクターン』が、静かに鉤爪を構えた。
その時。
通信回線のノイズの向こう側から、これまでにない、重厚で叙情的な「韻律」が流れ込んできた。
『――Yo。……退屈な記述、塗り替えるフレーズ。……この街の魂、まだ終わらせねえ。……サヤカ、入るよ』
武雄の夜空に、巨大な「スピーカー」を内蔵した多目的兵装が、雨のように降り注いだ。
アポリア08号機『ラプソディ』。
パイロット、タケウチ・サヤカ。
彼女の放つラップの韻律が、消えかかっていた武雄の記述に、新しい血肉のような活力を強引に注入していく。
『……そして、私も。……この世界の痛みに、終止符を。……レクイエム、起動』
さらに背後から、漆黒の巫女装束を纏った巨神が舞い降りた。
アポリア09号機『レクイエム』。
パイロット、トミオカ・ヒビキ。
彼女が巨大なギター型兵装を掻き鳴らすと、戦場に魂を揺さぶるような重厚な「響き」が満ち溢れた。
物語の余命、残り九パーセント。
八機の巧機が集結し、武雄の夜は、不条理な「空白」を焼き尽くすための、最も激しく、最も悲しい合奏へと突入していく。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




