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黎明創紀 APORIA-CODE  作者: 久遠 魂録


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27:Sonance / Boundary of Nocturne and Carol

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

武雄図書館を包み込んでいた「色彩なき静寂」が、一瞬にして爆ぜた。


 アポリア07号機『キャロル』が撒き散らす暴力的なまでのパンクロック。そして、06号機『ノクターン』が音もなく放つ、逆相関の絶対零度の静寂。この相容れない二つの旋律コードが、虚無のエコーという名の「巨大な音叉」の上で、激烈な摩擦を引き起こしていた。


「あー、うるせえ! コトネ、お前のその『すまし顔』の記述コードが一番鼻につくんだよ!」

 ワカキ・リツの尖った声が、通信回線に火花を散らす。キャロルのチェーンソー剣『バースト・エッジ』が虚無の芯を強引に削り取り、そこへ紅い火花を吹き付ける。リツの戦い方は、記述者ライターによる消去デリートそのものを、己の熱量で力ずくで書き戻そうとする無謀な反逆だ。


「……リツ。あなたの音は、この世界の欠落を埋めるにはあまりに野蛮すぎる。……夜想曲ノクターンに、不純物は必要ありません」

 ミマサカ・コトネの冷徹な、しかしどこか情緒を含んだ声が重なる。


 紫紺の機体、ノクターンが宙を舞う。花魁の着物を模した装甲が、虚無の残像を切り裂くたびに、空間に微かな鈴の音が響く。それは、リツが暴き出したエコーの核に対し、一滴の毒のように「存在の否定」を染み込ませる、死の旋律だった。


「……っ、二人とも、やめて! 喧嘩してる場合じゃないよ!」

 アサヒナ・アリアの04号機『ウーヴェルチュール』が、白銀の光を纏って二人の間に割り込んだ。リツの爆音とコトネの静寂。その両極端な波形に挟まれ、アリアの感覚同期シンクロ率は限界近くまで跳ね上がっていた。


「テツトさん! リツちゃんとコトネちゃんの波形が、お互いを拒絶し合ってる! このままじゃ、エコーを倒す前に、アポリア同士が自壊しちゃう!」


 地下センターの作戦室。テツトは、脂汗の滲む額を拭う暇もなく、コンソールのスライダーを狂ったように操作していた。モニターには、六機の巧機アポリアが描く、かつてないほど巨大で、かつてないほど不規則な六角形の波形が表示されている。


「……『不協和音ディソナンス』か。……いいか、アリア! 整合性を取ろうとするな! 彼女たちのズレそのものを、君の旋律で包み込め! カノン、カナタ、ワカ! 全員で、この『狂った合奏』を補強しろ!」


「了解。……論理的な整合性は、既に破綻しているわね。……けれど、このカオスを数式にするのは、嫌いじゃないわ」

 タチバナ・カノンの01号機が、藍色の光軸を空へと放つ。

 

「おーほっほっほ! 品性のない演奏ですわね! けれど、このわたくしが指揮棒を振れば、全ては高潔な舞台の余興へと変わりますわ!」

 ナナミ・ワカの05号機が、紅金の扇を全開にし、戦場全体を浄化の粒子で包み込む。

 

「……アリア、俺が盾になる。……お前の『歌』を信じろ」

 タケル・カナタの02号機が、巨大な盾を地に突き立て、全機を虚無の圧迫から保護する「聖域」を再構築した。


「……うん。……リツちゃんの熱も、コトネちゃんの静けさも。……全部、私が書き換える!」

 アリアは目を閉じた。

 

 ――ヴォォォォォォォン!

 

 ウーヴェルチュールのヴォーカル・コアが、限界を超えた白銀の輝きを放った。


 リツの爆音を、コトネの静寂を、カノンの論理を、カナタの信頼を、ワカの高潔を。


 アリアはそれら全ての矛盾を、無理やり一つの『序曲ウーヴェルチュール』へとリライトした。


「……奥義……『シンフォニック・リライト』!」

 六色の光が、巨大な螺旋となって天を突いた。

 武雄図書館の空に鎮座していた「音叉」が、その圧倒的な存在証明の熱量に耐えきれず、内部からガラスのように砕け散った。

 

 色彩が、爆発的に街に戻ってくる。

 消えていた星々が、夜空に再びその場所を定義マッピングされ、図書館の静かな灯りが、本来の暖かさを取り戻した。

 

「……ハッ。……まあ、及第点ってとこかな。……あんたのその『押し付けがましいお節介』、悪くないぜ、アリア」

 リツが、不敵な笑みを浮かべてキャロルのスラスターを絞った。

 

「……不本意です。……私の夜想曲を、これほど騒がしく汚されるなんて。……けれど、命を繋ぐためには、この程度の不協和音も受け入れるべきなのでしょうね」

 コトネもまた、紫紺の袖を翻して、月夜に静かに佇んだ。


 戦いは終わった。


 だが、地下センターのテツトの目の前、メインコンソールの数値は、残酷な現実を突きつけていた。


『Remaining storyline: 10%』


「……ついに、一〇の大台を切ったか。……『記述者』の興味が、死の淵まで近づいている」

 テツトは、震える手で愛妻ユウの写真を握りしめた。

 

 一方、緒妻邸。

 ユウは、台所の窓際に立ち、空を舞う六色の蝶の残滓を見つめていた。

 彼女の手には、鹿島に送るための、生活用品や食料品が詰まった箱。

 

「……ああ、綺麗ね。……でも、あんなに強い光を放ったら、アリアちゃんたちの翼が保たないわ」

 ユウは、そっと自身の胸に手を当てた。

 そこには、三姉妹の長女として、そしてこの世界の真の記述主権マスターとして秘められた、膨大な「真理」のエネルギーが、静かに脈動している。

 

「……テツトさん。……あなたは、アリアちゃんに『交響曲』という過酷な未来を背負わせようとしているけれど。……それより先に、私にできることは、まだあるはずよね」

 ユウの瞳が、一瞬だけ、琥珀色の空を貫き、鹿島でシュカたちと笑う子供たちの姿を捉えた。

 娘のアキと、ユウの末妹であり叔母にもあたるシュカ。

 同級生として共に過ごすあの子たちの時間を、決してバグの海に沈めさせはしない。

「……ネガイ。シュカ……もう少しだけ、あの子たちを頼むわね。……お姉ちゃんは、もう少しだけ、ここで『ママ』と『オユウさん』を演じてくるから」

 ユウの微笑みは、夜の帳の中で、不自然なほど完璧で、そしてどこまでも深い悲しみを湛えていた。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

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