25:Conflict / Blasting Carol
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
「ハッ、何が『聖域』だよ! そんなお行儀の良い記述で、この『退屈』が殺せると思ってんのかよ!」
通信回線を切り裂くリツ――ワカキ・リツの嘲笑が、アリアたちの脳内に直接叩きつけられた。
アポリア07号機『キャロル』。
それは、白銀のウーヴェルチュールや紅金のカプリッチョが持つ「様式美」を真っ向から否定するような、暴力的なまでの熱量を孕んだ機体だった。漆黒のレザーを思わせる質感の装甲に、スタッズを模したスパイクが全身に散りばめられ、背面のスラスターからは紅い残像が稲妻のように溢れ出している。
「リツ、勝手な真似はよせ! ……キャロルの同調率はまだ不安定なんだぞ!」
地下センターから響くテツトの怒号を、リツは鼻歌交じりに聞き流した。
「不安定だから良いんじゃねえか。……世界の余命が残り十四パーセント? 記述者が居眠りしてんだろ? なら、叩き起こしてやるのが、パンクの流儀だろ!」
キャロルが加速する。
武雄図書館の芝生広場に鎮座し、周囲の「意味」を吸い取り続けていた巨大な音叉型のエコーに対し、リツは回避どころか真正面から突っ込んでいった。
「……っ、リツちゃん、危ない! そこは色彩が消えてる……!」
アリアの声が届くよりも早く、キャロルは色彩を失ったモノクロームの領域へと突入した。
カノンが狙撃できず、カナタの盾さえも砕かれた「無」の空間。だが、リツが操る07号機は、その空白を「不協和音」で強引に塗りつぶした。
「奥義……『バースト・キャロル』! 全てのスピーカーを最大にしろ!」
キャロルが構えたエレキギター型の長大なチェーンソー剣が、空間の「静寂」を物理的に切り刻んだ。
ギャリギャリと耳を劈く電子音が、図書館の静寂を暴力的に破壊する。それは「正解」を導き出す書き換え(リライト)ではない。ただひたすらに「私はここにいる」という強烈な律動を叩きつける、存在の咆哮。
「――グ、ギャアァァァァァァ!」
形を持たないはずの虚無のエコーが、初めて実体を持って悶絶した。
色彩のなかった空間に、リツの放つ暴力的な「紅」が、スプレーアートのように吹き付けられていく。
「……信じられない。……計算不可能な乱数だけで、記述の剥落を押し戻している……?」
カノンが01号機のコックピットで絶句した。
彼女が信じる論理的な否定を嘲笑うように、リツは「ただの無茶苦茶」で世界を繋ぎ止めていた。
「おーほっほっほ! 品性の欠片もありませんわね、リツ! けれど、その泥臭い執念だけは、わたくしの高潔な舞台の『スパイス』として認めて差し上げますわ!」
ワカが05号機のバインダーを展開し、リツが作り出した「意味の綻び」を逃さずパージ粒子で洗浄していく。
アリアもまた、震える手で操縦桿を握り直した。
リツの戦い方は、アリアたちが築き上げてきた「秩序ある防衛」を壊すものだ。
けれど、その破壊こそが、今、死にかけた世界に新しい鼓動を与えている。
「……私も、負けてられない! ……ウーヴェルチュール、再起動!」
白銀の機体が、リツの紅い稲妻に呼応するように輝きを増した。
だが、その激闘を静かに見つめる「もう一つの影」が、図書館の影に佇んでいた。
APORIA-06:Nocturne。
紫紺の着物を模した装甲。そのパイロット、ミマサカ・コトネは、静かに目を閉じていた。
「……騒がしい。……リツ、あなたは相変わらず、世界の『音』を聴こうとしない」
コトネの低い、鈴を転がすような声が通信に紛れ込む。
「コトネ! お前もさっさと降りてこいよ! この『音叉』、一人じゃあ芯まで焼き切れねえ!」
「……いいえ。……夜想曲に、無駄な音は必要ありません。……テツト様、開門許可を。……この街の眠りを守るため、一撃で終わらせます」
地下センターで、テツトが苦渋に満ちた表情で承認ボタンを押し込んだ。
「……第3サイクル、変奏開始。……コトネ、頼むぞ」
図書館の屋上から、紫紺の影が音もなく舞い降りた。
それはリツの爆音とは対照的な、絶対的な「静」の制圧。
物語の余命、残り十三パーセント。
武雄の夜は、二人の新星の加入によって、より混沌とした、しかし熱い旋律へと加速していく。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




