24:Conflict / Silent Domination
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
それは、今までのどの戦いとも、本質的に異なっていた。
武雄図書館の広大な芝生広場。そこに出現したエコーは、巨大な「音叉」のような歪な形をしていた。
耳を劈く咆哮(ABUSIVE-LOGOS)もなければ、幾何学的な物理攻撃もない。
ただ、そのエコーが微かに振動するたびに、周囲の「意味」が掃除機のように吸い取られ、空間から色彩と音が、そして重力さえもが剥ぎ取られていく。
「……っ、何これ……! 体が、意識が……自分が何をしようとしていたか、思い出せなくなる……!」
白銀の04号機『ウーヴェルチュール』のコックピットで、アリアは自身の記憶が泥のように溶け出す感覚に戦慄した。
『SATURATED-BOREDOM』の極致。
記述者がその存在を「描くのが億劫になった」部分から、世界が透明な空白(VOID)へと変わっていく恐怖。アリアの銀色の髪さえも、その輝きを失い、灰色に濁り始めていた。
「アリア、しっかりしなさい! ……カナタ、盾を! ……私の計算が、虚数に追いつかない……! 狙撃すべき座標が、定義から消去されているわ!」
カノンの01号機が、膝を突く。
精密な論理を誇る彼女にとって、意味を失った「無」は、弾丸を当てるべき実体さえも喪失させる最悪の天敵だった。
「……『不抜の加護』! ……くっ、聖域が、食べられていく……!」
カナタの02号機が展開した黄金の結界が、虚無の振動に触れた端からピクセル状に砕け散っていく。
信頼さえも、無関心の前では無力。
四重奏の旋律が、初めて絶望的な不協和音へと歪み、崩壊の淵に立たされた、その時だった。
『――ハッ。……いつまでその古臭い楽譜にしがみついてんだよ、テツトのジジイ』
通信回線に、脳を直接突き刺すような、尖った少女の声が乱入した。
――ドォォォォン!
武雄の夜空を、一閃の「紅い稲妻」が切り裂いた。
それは、アリアたちの機体とは一線を画す、圧倒的な速度と「不純な熱量」を持った影。
パンクなスタッズを全身に纏い、レザーの質感を持った漆黒の装甲を躍動させる、小柄だが凶暴なまでの機体。
APORIA-07:Carol。
「……キャロル!? ……リツ、お前……勝手に機体を!」
テツトの驚愕の声を、大音量のパンクロックが掻き消した。
「正解。……ワカキ・リツ、ここに降臨。……退屈で死にそうな世界に、爆音のプレゼントを持ってきてやったぜ。……アリアだか何だか知らねえが、そこをどきな、優等生。……本物の『不条理』ってやつを、今から私が叩き返してやる!」
紅い機体――キャロルが、重力を嘲笑うような超高速機動で虚無の音叉へと肉薄する。
彼女の手には、エレキギターとチェーンソーを融合させたような悍ましい兵装が握られていた。
武雄の空に、制御不能な「新星」たちが、不敵な笑みを浮かべてその姿を現した。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




