20:Conflict / Quartet Through the Void
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
武雄温泉・楼門。
その歴史ある建物が、今、巨大な「白い炎」に包まれていた。
それは熱を持たない炎だ。記述者がその場所に「飽きた」ことで、楼門を構成する色彩、質感、そして人々の記憶が、一方的に未定義の空白(VOID)へと上書きされていく現象。
「テツト! 敵影、認識できません! ……空間そのものが、私たちを『存在しないもの』として処理しようとしています!」
カノンの01号機『エチュード』が、アブソリュート・バイナリの照準を虚空に向けたまま叫ぶ。
今回のエコーは、形すら持たない。
ただ、周囲のあらゆる意味を奪い去る「無関心の渦」。
「……アリア、ワカ、カノン、カナタ! 全機、共鳴記述を固定しろ!」
テツトの怒号が、4人の脳内に直接響く。
「……いいか、世界が君たちを忘れても、君たちが世界を忘れるな! ……カナタ、お前の『信頼』で、この場所の定義を繋ぎ止めろ!」
「了解! ……実家の古社の神儀、今ここで展開します! ……イージス・レゾネーター、最大結界!」
カナタの02号機『インテルメッツォ』が、白く濁った大地に巨大な盾を突き立てた。
その瞬間、盾から放たれた黄金の波動が、崩落しかけていた楼門の輪郭を力強く「固定」した。カナタの守護は、単なる装甲ではない。それは、この場所が「武雄である」という強い肯定の記述だった。
「……俺がここにいる限り、思い出の一片も消させはしない!」
「――よく言いましたわ、カナタ! さあ、退屈な観客を驚かせて差し上げましょう!」
ワカの05号機『カプリッチョ』が、紅金色の扇を広げて急上昇する。
彼女はノーブル・マスカレードから、極彩色のパージ粒子を空へと撒き散らした。それは、無味無臭の虚無に対する、圧倒的な個性の暴力。
「奥義……『グロリアス・パージ』! ……美しくない空白なんて、わたくしが全て塗り潰して差し上げますわ!」
ワカの放つ光が、白く濁った虚無を強制的に色づかせる。
その一瞬の隙、虚無の「芯」が露出した。
「……アリア、今よ! 私が座標を零に固定する!」
カノンの01号機が、青い光軸を一点に集中させる。
アリアは、白銀の翼を全開にし、リライト・ブレードを構えた。
「……アキちゃん、イツキくん、マサルくん。……みんなが笑って帰ってこれる場所を、私は絶対に諦めない!」
アリアの脳内に、テツトの家族の絆が、そして自分を信じてくれる仲間たちの熱量が、最強の記述コードとなって収束する。
「……再起……開始! ……物語よ、その先へ進め!」
白銀の刃が、虚無の芯を縦一文字に切り裂いた。
――ガシャン!
世界が繋ぎ直されるような音が、武雄の夜空に響き渡る。
白く濁っていた空間が、一瞬にして本来の琥珀色の夜闇へと戻り、楼門の朱色がかつてないほど鮮やかに街を照らし出した。
戦いを終え、格納庫へと降下する四機。
アリアは、コックピットの中で自身の震える手を見つめた。
昨年起きた鹿島市での異常事態。そして、それを守り抜いた人達に、笑顔で会ってみたい。
アリアのその願いが、新たな「記述」となって、ウーヴェルチュールのヴォーカル・コアに静かに刻み込まれていった。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




