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黎明創紀 APORIA-CODE  作者: 久遠 魂録


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18/33

18:Reminiscence / Distant Resonance

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

武雄の夜は、鹿島のそれよりも少しだけ、大気の密度が薄いように感じられる。


 地下センターの作戦室。テツトは、コーヒーの苦味で無理やり覚醒させた脳を引き摺りながら、コンソールの片隅に表示された小さな通知画面を見つめていた。それは、鹿島に残してきた長女、アキからのメッセージだった。


『お父さん、武雄の温泉はどう? こっちはシュカちゃんが釣ってきた魚をネガイさんが捌いてくれて、今夜は賑やかだよ。お母さんにもよろしくね。あんまり無理しないで』


「……フン、あいつら。相変わらず楽しそうにやってるじゃないか」

 テツトの口角が、ほんのわずかに、しかし優しく緩んだ。


 画面の向こう側、鹿島の地では、かつての物語を共に紡いだシュカやネガイが、自分たちの代わりに子供たちを見守ってくれている。その確信があるからこそ、彼はこの「バグ」に塗れた武雄の地で、孤独な戦いを続けることができるのだ。


「テツトさん、またアキちゃんからのメール? 独り占めは禁止よ」

 背後から、柔らかい風のような声が響いた。


 振り返ると、そこには夜食の差し入れを抱えたユウが立っていた。地下施設の無機質な蛍光灯の下であっても、彼女の栗色の髪は、まるで陽光を閉じ込めたように温かく輝いている。


「ああ、オユウさん。……ネガイやシュカが、またアキたちを甘やかしてるらしい。勉強の邪魔をしてなきゃいいんだがな」


「あら、いいじゃない。シュカちゃんもネガイちゃんも、あの子たちのことが大好きなんだから。……ねえ、テツトさん。いつか、武雄のこの騒ぎが落ち着いたら、また家族みんなで鹿島に帰りましょうね。祐徳さんの桜、またみんなで見たいわ」

 ユウが差し出したタッパーには、彼女が丁寧に作った唐揚げが並んでいた。

 テツトはそれを一つ口にし、噛み締める。家庭の味。それは、どれほど強力なメタ・コードであっても上書きできない、強固な「日常」という名の記述だった。


「……そうだな。……帰るさ。そのために、俺はここで不条理バグを焼き切っているんだからな」

 テツトの視線は、再びモニターへと戻った。


 そこには、武雄の美しい夜景を無慈悲に侵食する、巨大な『UNILATERAL-VOID』の警告灯。


 彼が守るべきものは、この街の景色だけではない。鹿島にいるシュカやネガイ、そして何より、自分たちの「続き」を待っている子供たちの未来そのものなのだ。


 ――同じ頃、武雄の市街地。

 アポリア04号機『ウーヴェルチュール』のコックピット内で、アリアは自身の心臓の鼓動を聞いていた。


 『S.Y.N.C.-L.I.Q.U.I.D』に満たされた感覚の海の中で、彼女はテツトから共有された「かつての記憶の断片」に触れていた。

「……鹿島。……そこにも、戦っていた人たちがいたんだ」

 アリアの網膜に、一瞬だけ、白銀の機体とは異なる「力強い光」の残像がよぎる。それはテツトが大切に保管している、シュカやネガイが駆け抜けたあの日々の記録ログ


『アリア、意識を散らすな。……次の波が来るぞ』

 テツトの声が通信機から響く。それは、先程の父親としての顔を完全に封印した、冷徹なエンジニアとしての声だった。


「わかってます、テツトさん。……私は、朝比奈愛莉彩。……この物語の続きを、私が書く!」


 武雄温泉駅のホーム。

 そこでは、空間そのものが「飽和(BOREDOM)」によって白く濁り、物質の境界線が消失し始めていた。


 今回のエコーは、これまでの幾何学的な形すら捨てていた。それは、街の風景をそのまま引き摺り込み、歪んだ鏡合わせのように再現する「記憶の怪異」。


「……っ、何ですの、これは! わたくしの美しい街を、こんな不細工にコピーして……! 許しがたい、万死に値しますわ!」

 ワカの05号機『カプリッチョ』が、紅金色の扇を広げて叫ぶ。


 彼女たちの前には、偽物の楼門、偽物の駅舎、そして、顔のない「偽物の群衆」が立ちはだかっていた。


「……ワカ、落ち着け。あれは、記述者が『新しい設定を考えるのが面倒になった』結果、過去のログを使い回している状態よ。……論理的な整合性がないわ」

 カノンが、01号機『エチュード』のアブソリュート・バイナリを水平に構える。

 

「……テツトさん、指示を。……あれを、どう『否定』すればいい?」


「……簡単なことだ。……偽物は、本物の『熱量』には勝てない。……カナタ、お前がその場所の『聖域(意味)』を再定義しろ。カノン、揺らぎの芯を撃て。アリアとワカで、不履行の記憶を一気に洗浄するんだ!」

 テツトの指示と共に、四機の巨神が同時に駆動した。

 

 カナタの02号機『インテルメッツォ』が盾を地に突き立てると、実家の古社から引き継いだ「清め」の波動が、偽物の街並みを激しく揺さぶった。

 

「……『不動の結界イージス・シェルター』! ……ここにあるのは、偽物の過去じゃない。俺たちが今、ここで生きている現在だ!」

 カナタの咆哮に応じるように、カノンの青い閃光が偽の楼門の核を貫く。

 崩れ去る虚像。その中へと、アリアとワカが飛び込む。


「奥義……『グロリアス・パージ』! ……みっともないコピーは、このわたくしが全て洗い流して差し上げますわ!」


「……そして、私が書き換える! ……リライト・ブレード、最大解放!」


 白銀と紅金。

 二つの旋律が重なり、武雄の空に巨大な「意味」の渦を作り出す。


 偽物の街は、光り輝く文字の蝶となって解け、本来の琥珀色の夕闇が、再び世界を塗り潰していった。

 戦いを終え、格納庫へと帰還する四機。

 アリアは、コックピットの中でふと空を見上げた。

 

 ――鹿島。

 いつか、この戦いが終わったら、テツトさんの言っていたあの街を見てみたい。

 

 アリアの小さな願いは、地下センターに届く通信ノイズの中に、静かに溶けていった。

 物語の余命は、刻一刻と削られ続けている。

 けれど、その絶望を押し返すだけの「絆の記述」が、今、武雄の地で確かに育まれていた。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

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