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黎明創紀 APORIA-CODE  作者: 久遠 魂録


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16/33

16:Conflict / Saturated Void

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

 楼門の上空。そこには、形を持たない「虚無」が鎮座していた。


 これまでのような幾何学的なエコーではない。それは、背景の空を不自然に歪ませ、周囲の色彩を吸い取っていく、巨大な「空白の染み」だった。


「何よ、あれ……。攻撃目標が定まらないわ。……レーダー上には、何も存在しないことになっている」

 カノンの01号機『エチュード』が、アブソリュート・バイナリを構えたまま困惑の声を上げる。


「物理的な実体がないんじゃない。……『そこに存在する意味』が消去されているんだ」

 カナタの02号機『インテルメッツォ』が、イージス・レゾネーターを最大出力で展開する。


 虚無から放たれる「退屈」の波動が、盾を叩く。それは衝撃ではなく、パイロットの意識を泥のように重くし、戦う意志を奪おうとする精神的な重圧だった。


「……くっ。……身体が、動かない……。……もう、どうでもいいって……思っちゃいそうで……」

 アリアの04号機『ウーヴェルチュール』が、高度を落とし始める。


 白銀の装甲が、虚無の毒に侵されて鈍い灰色に変色していく。

「甘えを捨てなさい、アリア! あなたは、あの白銀の翼を何のために得たのですの!」

 紅金色の光が、アリアの視界を強引に焼き払った。


 ワカの05号機『カプリッチョ』が、ノーブル・マスカレードから極彩色のパージ光線を全方位に放射する。


「退屈だなんて言わせませんわ! わたくしがいるこの場所が、世界で最も華やかで、最もドラマティックな舞台なんですもの! ――観客ライターが飽きたなら、わたくしの優雅さで、その目を抉り出して差し上げますわ!」

 ワカの圧倒的な自尊心が、凍りついていた空間の記述を強引に再起動させる。


 その一瞬の隙を、アリアは見逃さなかった。


「……ありがとう、ワカ。……そうだよね。……終わらせたくないって思う気持ちが、私たちの武器なんだ!」

 ウーヴェルチュールのヴォーカル・コアが、限界を超えて明滅する。

 アリアはマイク型長槍を高く掲げ、自分の中に眠る「続きを望む歌」を、銀の刃へと変えた。


「奥義……『V.O.I.C.E.・レゾナンス』、フェーズ・リライト!」

 銀の閃光が、透明な虚無の芯を捉えた。

 「意味を失った空間」に、アリアの意志が新しい「意味」を刻み込んでいく。

 

 ――ズゥン!

 透明だった怪異が、初めて悲鳴を上げるようにして形を成した。


 それは、未完成の原稿が真っ黒な墨で塗りつぶされたような、無惨な姿。 


「カノン、今!」


「……了解。……論理的整合、完了。……消えなさい」

 カノンの放った青い光軸が、形を得た怪異の核を、今度こそ正確に撃ち抜いた。

 

 虚無が霧散し、楼門に元の朱色が戻ってくる。


 四機の巨神は、荒い息をつきながら、再び動き出した街の風景を見守った。


 だが、地下センターのテツトは、モニターに表示された不気味な文字列から目を逸らすことができなかった。


『SYSTEM NOTICE: The Writer is losing interest. Remaining storyline: 20%.』

「……残り二〇パーセント。……この物語の余命か」

 テツトは震える手で、デスクの上のユウの写真を伏せた。

 

 その頃、緒妻邸では。

 ユウが、窓の外で消えていく銀の蝶を見つめて、そっと呟いた。


「……頑張って、アリアちゃん。……テツトさんも。……夜ご飯、少し豪華にして待っているわね」


 その微笑みは、不自然なほどに美しく、完成されていた。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

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