15:Suite / Eroding Silence
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
武雄の夜を支配していたのは、かつてないほど「冷たい」静寂だった。
駅前広場での激闘から数日。街の修復は完了したはずだったが、アサヒナ・アリアの網膜には、消えない残像がこびりついていた。
「……アリア。またボーッとして。羊羹が泣きますわよ」
ワカの声に弾かれたように顔を上げると、そこには不機嫌そうに扇子を動かすワカと、黙々と紅茶を注ぐカノン、そして静かに庭を眺めるカナタがいた。
放課後の部室。琥珀色の西日が差し込むこの場所だけが、今の彼女たちにとって唯一の「安全圏」のように感じられた。
「ごめん。……ねえ、みんな。最近、街の音が『薄く』なってない?」
「音?……物理的な周波数は安定しているわよ。ただ……」
カノンが眼鏡のブリッジを押し上げ、手元の端末を操作する。
「人々の感情指数が、異常なほど凪いでいる。怒りも、悲しみも、喜びさえも。……まるで、この世界そのものが、次の展開を拒んでいるみたいに」
「……『飽和的な退屈(SATURATED-BOREDOM)』、でしたっけ」
カナタが低く呟いた。実家の古社で不浄を祓う彼は、街全体に広がるその「無関心という名の毒」を、肌で感じ取っていた。
「テツトさんの言っていた通りだ。……記述者が僕たちの物語に飽きれば、世界は意味を失って消える。……今、起きているのはその前兆だ」
その瞬間、部室の床が激しく震えた。
地震ではない。空間の記述そのものが、乱暴に引き裂かれるような嫌な感覚。
『WARNING: LARGE-SCALE-ERASURE detected. 武雄温泉・楼門周辺の存在定義が、現在進行形で抹消されています』
テツトの切迫した声が、スマートフォンから響く。
アリアたちは顔を見合わせた。
「――お行きなさい! わたくしたちの思い出の場所を、みっともない空白にするなんて、万死に値しますわ!」
ワカの力強い一喝が、沈みかけていた空気を切り裂く。
四人はそれぞれの「旋律」を抱き、地下センターへと駆け出した。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




