13:Suite / Overlapping Boundaries
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
県立第2SS学園の放課後は、少しずつ、しかし決定的に変質していた。
教室の窓から見える御船山の稜線は、時折テレビの電波障害のように激しく揺らぎ、その向こう側にあるはずのない白銀の巨塔が陽炎のように透けて見える。
「……また、深度が上がってるわね」
カノンが、教科書の端に投影された仮想モニタを指先で弾いた。
彼女の網膜には、常に戦域のデータが流れている。弓道部での修練によって研ぎ澄まされた彼女の視神経は、もはや現実と第2層の境界を瞬時に見分けるようになっていた。
「ええ。……でも、不思議だね。みんな、あの空の異変に気づかないふりをしてる」
アリアが、隣の席でノートを閉じて呟いた。
『UNILATERAL-VOID』の影響は、現実世界の人々の認識さえも書き換え始めている。日常という強固な記述が、不当な空白を「ただの天気」や「目の錯覚」として処理しようとする、奇妙な安定状態。
「ふん、鈍感な者たちは幸せですわね。……けれど、わたくしたちは違いますわ。この世界の品性を守れるのは、選ばれたわたくしたちだけですもの!」
ワカが胸を張り、扇子で空を仰いだ。彼女の黒髪が、境界の揺らぎから漏れ出す「情報の風」に揺れる。
「……ワカ。あんまり目立つなよ。テツトさんに怒られるぞ」
カナタが苦笑しながら、水筒の甘酒を一口飲んだ。
実家の古社で培われた彼の「清め」の感性は、日常に混じり始めたエコーの不浄を最も敏感に感じ取っていた。彼の周囲だけは、情報の濁りが抑えられ、静謐な空間が保たれている。
四人のスマートフォンが同時に、重厚な通知音を鳴らした。
『ECHO-SWARM detected. 市街地東部、住宅密集区に浸食を確認。……四重奏、直ちに出撃せよ』
テツトの冷徹な、しかし信頼を込めた指令。
アリアは三人と視線を合わせ、力強く頷いた。
放課後のティータイムは、今日もお預けだ。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




