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黎明創紀 APORIA-CODE  作者: 久遠 魂録


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11/33

11:Fragment / Echo of Elegia

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

 武雄の夜空は、不気味な静寂に支配されていた。

 駅前広場を埋め尽くしていた『ABUSIVE-LOGOS』の罵声が、突如として止んだ。それは、より深淵な「悲しみ」が、周囲のノイズさえも吸い込み始めたことを意味していた。


「……何、これ。……悲しい。……すごく、悲しい」


 アポリア04号機『ウーヴェルチュール』のコックピット内で、アリアは自身の胸を掻きむしった。

 神経接続用インナースーツを通じて流れ込む、名状しがたき喪失感。

 目の前に浮かび上がったのは、巨大な「破れたベール」を全身に纏ったエコー。

 その顔にあたる部分には、ひび割れた「泣き顔の仮面」が嵌め込まれている。


『ERROR: 03-ELEGIA. Trace detected.』


 アリアの網膜に、警告ではない、祈るようなメッセージが走った。


「テツトさん! このエコー……昨日までのアイツらとは違う! 殺意じゃない、何かを……何かを訴えているみたい!」


「……っ! アリア、離れろ!」


 通信回線の向こう側、テツトの声がかつてないほど激しく昂った。

 地下センターのメインモニターには、欠番であるはずの03号機――『エレジア』の波形が、敵機と完全に一致して表示されていた。


「テツトさん、これって……!」


「いいから離れろ! それは『記述に失敗した痛み』そのものだ! 触れれば、君の精神記述まで道連れにされるぞ!」


 だが、警告は遅すぎた。

 泣き顔のエコーが、細長い「腕」を伸ばす。それは攻撃ではなく、迷子になった子供が誰かの裾を掴むような、弱々しくも逃れられぬ動き。


『……どうして、最後まで、書いてくれなかったの……?』


 脳を直撃する、震えるような少女の声。


「――おやめなさい! そのような醜い未練、わたくしが許しませんわ!」


 紅金色の閃光が、アリアと怪異の間に割り込んだ。

 ワカの05号機『カプリッチョ』が、扇状のバインダーを全開にし、物理的な衝撃波でエコーを弾き飛ばす。


「ワカ! ダメ、傷つけないで!」


「アリア、目を覚ましなさい! それは既に物語を断絶された『死体』ですわ! あなたまでその影に引きずり込まれて、武雄の続きを誰が書くというのですの!」


 ワカの厳しい言葉が、アリアの思考を繋ぎ止める。

 後方からは、カノンの精密な牽制射撃が降り注ぎ、怪異の周囲に展開された「悲しみの障壁」を一枚ずつ削ぎ落としていく。


「アリア、落ち着いて。……あのエコーのコアには、不完全なメタ・コードが癒着しているわ。……『不履行(FAKE-FULL-PAYMENT)』。……それをリライトしない限り、私たちは前へ進めない」


「カノンの言う通りだ、アリア。……大丈夫だ、後ろには俺がいる」


 カナタの02号機が、その巨大な盾をアリアの正面へと据えた。

 神主の家系に伝わる静かな祈りが、盾を通じて「聖域」を形成し、泣き顔の怪異が放つ精神的な冷気を遮断する。


「……皆。……そう、だね。……ごめん、もう大丈夫」


 アリアは、震える手で『ウーヴェルチュール』の操縦桿を握り直した。

 悲しみは、消し去るべき敵ではない。

 それは、正しく「完結」させてやるべき、かつての自分たちの物語なのだ。


「ウーヴェルチュール、リブート! ……『不履行』を『約束』へ書き換える!」


 白銀の長槍、リライト・ブレードが、今までで最も透き通った輝きを放った。

 アリアは、巨大な泣き顔の仮面へと肉薄する。

 それは戦いではない。

 一度は捨てられた物語への、最初で最後の「抱擁」。


「……次は、ちゃんと……最後まで書くから。……だから、おやすみなさい」


 銀の刃が、エコーの核心を優しく貫いた。

 

 爆発は起きなかった。

 怪異は、何千もの光り輝く「文字の蝶」となって、武雄の夜空へと解けていった。

 泣き顔の仮面が崩れ落ちた一瞬、アリアの目には、自分と同じような制服を着た少女が、静かに微笑んで消えていくのが見えた気がした。


 戦いが終わった。

 駅舎のノイズは消え、人々の記憶からは「不自然な現象」だけが、OS『YUI』のパッチによって消去されていく。


 地下センター。

 テツトは、誰もいなくなったモニターの前で、一人、震える手を隠すように組んでいた。


「……すまない。……アリア、……そして、エレジア」


 彼の目線の先には、古びた物理的な鍵。

 それは、かつて彼がこの物語を「始めた」時に、ユウと共に手にした思い出の象徴だった。


 一方、緒妻邸の台所。

 ユウは、鼻歌を歌いながら、テツトの好物である唐揚げを皿に盛っていた。


「テツちゃん、今日は少し顔色が良くなって帰ってくるといいな。……あ、また変な雲。……でも、星が綺麗だから、明日もきっと良い日ね」


 ユウが窓の外、光り輝く文字の蝶が消えていく夜空を見つめ、無垢に微笑んだ。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

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