【第9話「決戦の幕開け」】
夜明けの赤い光が、世界を薄く照らし始めていた。
闇に包まれた魔導の迷宮を抜けた俺たち――アルド・レイヴァン、フィアナ、レイナは、再び戦場に立っていた。
空気は重く、剣戟の音が遠くから響く。
血と鉄の匂いが満ちる戦場は、運命の決戦を予感させる静寂を湛えていた。
「アルド……ジルが待っているはず」
フィアナの声は静かで、それでいて鋭かった。
紫の瞳に映る決意に、俺は深く頷く。
「わかっている。これが……全ての始まりだ」
双剣に纏う黒い焔は、未だに疼き続けている。
だが、その痛みはもう恐怖ではない。
力に変わる確信へと昇華されていた。
レイナが剣を肩に乗せ、口元に笑みを浮かべる。
「やっとあいつと決着がつけられるのね。いいじゃない、燃えてくるわ」
その瞳には、恐れではなく戦士としての昂ぶりがあった。
戦場の空気を切り裂くように、黒衣の影が現れる。
紅い外套を翻す男――ジル・カリス。
その瞳は、血のように紅く光っていた。
「来たか、アルド。お前の足掻きの終わりを見届けてやる」
その声は冷たく、底知れぬ力を孕んでいた。
「ジル……お前を超えるために、俺はここまで来た」
双剣を構え、息を整える。
この戦いに、もう迷いはない。
俺はこの瞬間のために、全てを賭けてきた。
フィアナがそっと祈りの言葉を紡ぐ。
レイナが剣を構え直し、口元を引き締める。
仲間の気配が、背中を押す。
(俺は……もう誰も失わない)
ジルがゆっくりと剣を引き抜く。
黒い刀身が空気を裂き、戦場に鋭い音が響く。
「さあ……見せてみろ。お前の双剣の真価を」
その声に、俺は双剣を握り直す。
黒い焔が刃を覆い、世界の音を遠ざけていく。
「これが……俺の答えだ」
息を吐き、双剣を振り上げる。
紅い瞳と黒い焔が、戦場で交錯する。
その瞬間、世界は再び動き出す。
紅い外套を翻し、ジル・カリスは黒い剣を構えていた。
その瞳は氷のように冷たく、どこまでも深い闇を宿している。
俺――アルド・レイヴァンは、双剣に黒い焔を纏わせ、その視線を真正面から受け止めた。
「アルド……気をつけて」
フィアナの声が、戦場の静寂を震わせる。
その瞳には恐れよりも、祈りと決意があった。
レイナは剣を肩に乗せ、口元に薄い笑みを浮かべる。
「やっと決着の時ね。絶対に……負けない」
仲間の想いが、俺の胸を熱くする。
「ジル……これが、俺たちの運命の決着だ!」
声を張り、双剣を構える。
黒い焔が刃に絡み、冷たい光を帯びる。
その光が、戦場を赤く照らす血の色に溶けていった。
ジルの唇が薄く歪む。
「面白い……その目だ。俺を退屈させるなよ、アルド」
その声に、胸の奥が鋭く疼く。
けれど、恐れはない。
俺はこの戦いのために、全てを捧げる覚悟を決めていた。
足元を踏みしめ、俺は踏み込む。
双剣を振るう。
その軌跡が、世界の色を裂くように鋭い。
ジルの黒剣が応えるように弧を描き、火花を散らす。
鋼の叫びが戦場を支配し、血の匂いが濃密に広がる。
(これが……俺のすべてだ)
一太刀ごとに、全身の力が奪われていく。
それでも、剣を振るうたびに確信が深まる。
俺は、誰かに託されるだけの剣士じゃない。
この双剣に、俺自身の運命を刻むためにここにいる。
ジルの瞳が微かに揺れる。
その視線には、わずかに驚きと――何か遠い痛みがあった。
「なぜだ……なぜお前は、そこまで抗える……」
その問いに、俺は声を張った。
「誰かに託された命がある。誰かの想いがある。だから……俺は抗う!」
双剣を握る手に、仲間の声が響く。
フィアナの祈りが、背を押す。
レイナの剣戟の音が、俺を奮い立たせる。
「俺たちは……運命を超えるために戦っているんだ!」
渾身の力で双剣を振り下ろす。
ジルの剣とぶつかり合い、世界が一瞬、無音に包まれる。
火花が散り、血の匂いが濃くなる。
だが、俺は決して退かない。
ジルの剣がわずかに軋む。
その瞬間、俺の瞳に迷いはなかった。
「ここで……終わらせる!」
声を絞り出し、双剣をさらに振り抜く。
その一太刀は、運命を斬り裂く旋律そのものだった。
血飛沫が戦場に咲き、ジルが僅かに後退する。
その瞳には、確かに俺の存在が映っていた。
「アルド……お前……!」
その言葉は、戦場の風に溶けていく。
俺は深く息を吐き、双剣を構え直す。
戦いは終わらない。
だが、この一瞬で確かに感じた。
俺たちは、運命を超えられる。
仲間と共に、この戦いを生き抜く限り――。
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