【第8話「魔導の迷宮」】
神殿跡を抜けた先に広がる古の魔導遺跡は、まるで世界の記憶そのものだった。
崩れかけた石の回廊には、見えざる魔力の残響が渦巻いている。
冷たい空気が頬を刺し、胸の奥に微かなざわめきをもたらす。
俺――アルド・レイヴァンは、フィアナとレイナを伴い、その迷宮の入り口に立っていた。
双剣に纏う黒い焔は、未だに俺の腕を灼くように疼く。
だが、その痛みは覚悟の証。
俺は決して退かない。
「ここが……魔導の迷宮」
レイナが小さく呟く。
茶髪が冷たい風に揺れ、その茶色の瞳が鋭く輝く。
「ここに眠るのは、ただの遺物じゃない。お前の運命に関わるものだ」
俺は頷く。
フィアナは静かに祈りの言葉を口にしながら、紫の瞳を迷宮の奥へと向けていた。
「この迷宮の奥には、古の力が眠っているはず。ですが……それは同時に、試練でもあります」
その声には、震えと確信が同居していた。
足元に広がる石の階段を、一歩ずつ降りていく。
薄暗い回廊に、双剣の光が淡く揺れる。
俺たちの呼吸の音だけが響く。
まるで世界が、息を潜めて見守っているかのようだった。
「フィアナ……お前はどうして、そこまで俺を信じる?」
俺の問いに、フィアナは一瞬だけ瞳を伏せ、そして俺を見つめ返す。
「……信じたいからです。運命に抗うあなたを。私自身が……そうでありたいから」
その言葉は、戦場の祈りのように胸に届く。
俺は小さく頷き、前を見据えた。
闇の中で、微かに光る何かがあった。
黒い焔に照らされた石壁に、古の紋章が刻まれている。
指で触れると、冷たい石が微かに震えるような気がした。
「ここから先は……もう後戻りはできない」
レイナが剣を握り直し、口元に笑みを浮かべる。
「後戻りなんて、誰も考えてないでしょ?」
その笑みに、俺は小さく笑みを返す。
(ああ……俺たちは、進むしかない)
双剣を握り直し、石の階段を降りていく。
闇の奥から、微かな声が聞こえた気がした。
それは、運命の深層から響く囁きのようでもあった。
石の回廊を進むたびに、空気はさらに重く淀んでいく。
古の力が、まるで迷宮そのものの意思のように息づいていた。
双剣を携えた俺――アルド・レイヴァンは、その気配を肌で感じながら歩を進めた。
「アルド……この先に、何が待つのでしょう」
フィアナの声は小さく、それでも確かな決意を孕んでいた。
紫の瞳に映るのは、迷いと祈り。
その瞳に、俺は微かに笑みを浮かべる。
「どんな運命が待っていようと……俺たちは進むしかない」
レイナが剣を握り直し、茶色の瞳を細める。
「運命なんて、踏み越えるだけだよね。アルド」
その言葉に、俺は頷く。
奥へ進むごとに、迷宮の石壁は赤い光を帯び始める。
まるで血のような光が、俺たちの影を濃くする。
双剣を構える手に力がこもる。
(運命……俺は、その鎖を断ち切る)
闇の奥に、突如として浮かび上がったのは仮面の男――ノワール。
灰色の髪に覆われたその姿は、闇の中でも鮮烈だった。
「……来たか。双剣の継承者よ」
その声は低く、どこか冷たい。
だが、俺の心は揺れなかった。
「ノワール……お前は一体、何者だ」
問いかける俺に、ノワールは微かに笑みを浮かべる。
「お前の運命に絡む者……そして、この世界の深淵を知る者」
その言葉は謎めいていたが、俺には確信があった。
この男を超えなければ、運命の鎖は断ち切れない。
「ならば……超えてみせる。俺は、もう迷わない」
双剣を握り直し、ノワールに向かって一歩踏み出す。
その瞬間、世界が震えたように感じた。
赤い光が爆ぜ、闇の迷宮がその姿を変える。
「アルド……気をつけて!」
フィアナの声が、俺の背を押す。
レイナも剣を構え直し、鋭い視線をノワールに向ける。
その気配に、俺は確信した。
この戦いは、ただの試練ではない。
俺たちの存在そのものを問う戦いだ。
ノワールの瞳が闇に溶けるように細められる。
「ならば見せてみろ。双剣の運命を背負うお前の力を」
その声に応えるように、俺は双剣を構え直す。
「行くぞ……フィアナ、レイナ!」
声を張り、闇に立ち向かう。
黒い焔を纏う双剣が、深淵の赤い光を切り裂く。
その瞬間、世界の音が消えたように静まり返る。
だが、俺の心は確かだった。
この迷宮の深淵を越えて、俺は運命を超える。
その誓いが、双剣に宿る黒い光をさらに強くする。
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