【第6話「禁忌の力」】
神殿跡の深部には、闇を孕んだ気配が蠢いていた。
崩れ落ちた石壁の隙間から漏れる淡い光は、血に濡れた戦場を覆うように冷たく青白い。
俺――アルド・レイヴァンは、双剣を携えながらその光の中を進んでいた。
「ここに……何かが眠っている」
低く呟く声が、暗い回廊に吸い込まれる。
フィアナが一歩、俺の隣に立つ。
紫の瞳が、神殿の奥を見据えていた。
「禁忌の力……それは、触れてはならないもの。それでも……必要なのですね」
その声には迷いと決意が交じっていた。
「運命を超えるためなら……どんな力でも使う」
双剣を握る手に、熱い血潮が脈打つのを感じる。
運命に翻弄され、何度も地に伏した。
だが、立ち上がるたびに強くなるのは、この想いだけだった。
瓦礫の隙間から、ぼんやりとした光が溢れている。
その光はまるで、俺たちを試すように瞬いていた。
レイナが剣を握り直し、茶色の瞳を鋭く光らせる。
「禁忌の力……あんた、本気で使うつもりなの?」
その声は少し揺れていた。だが、俺は頷く。
「この力なくしては、ジルには勝てない。運命を超えられない」
その言葉に、レイナは何かを飲み込むように目を伏せた。
「……あんたが決めたなら、私もついていくわ」
奥へ進むたび、空気は重く淀む。
血のような匂いが微かに漂い、闇の気配が肌を刺す。
けれど、その先にこそ答えがあると信じていた。
「フィアナ。お前は……怖くないのか?」
問いかける俺に、フィアナは微かに笑む。
「怖いです。でも……あなたが諦めない限り、私も決して退きません」
その言葉に、胸の奥で何かが静かに燃え上がる。
(俺は……俺たちは、運命を超える)
瓦礫の奥に、古びた祭壇があった。
そこに封じられた禁忌の魔導書が、淡い光を放ちながら眠っている。
その光は、俺たちの影を不気味に揺らしていた。
一歩近づくたびに、心臓が強く打つ。
この力を手に入れれば、もう後戻りはできない。
「行こう。これが……俺の戦いだ」
双剣を握り、祭壇へと歩を進める。
フィアナとレイナが、その背を支えるように並び立つ。
夜明けの光はもう届かない。
だが、この闇の中でこそ――俺たちの真価が試される。
(第6話前半 終わり)
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"【第6話「禁忌の力」後半】後半
祭壇の前に立ち、俺は静かに息を吐いた。
その光景は、まるで時の狭間に閉じ込められたようだった。
古びた魔導書は黒い革の装丁で、血のような紅い紋が刻まれている。
指先を触れようとするたび、全身の血が逆流するような感覚に囚われた。
「アルド……それは、本当に……」
フィアナの声が震えていた。
だが、その紫の瞳は、俺の決意を確かめるように真っ直ぐに見据えていた。
「運命を超えるために……俺は、恐れない」
低く呟き、魔導書に手を伸ばす。
指先が触れた瞬間、冷たい力が俺の身体を貫いた。
(これが……禁忌の力か……!)
心臓が高鳴り、世界が歪む。
視界の端で、フィアナが祈りの言葉を紡いでいる。
レイナの瞳が、痛ましげに俺を見つめていた。
だが、俺は目を逸らさない。
魔導書の頁が風にめくられ、黒い文字が浮かび上がる。
その文字は血のように赤く、意味を成さない呪詛の言葉だった。
しかし――確かに、そこに力が眠っているのを感じた。
「アルド……!」
フィアナが一歩、俺に近づく。
その声は祈りにも似て、俺の耳に深く響いた。
「大丈夫だ。俺は……負けない」
声は震えていたが、確かな光を帯びていた。
眩暈のような力が身体を蝕む。
冷たい闇が、骨の髄まで染み渡るように広がっていく。
だが――その中心に、確かな炎があった。
(俺は……この力を、必ず支配する)
魔導書から溢れる闇の気配が、周囲を蝕み始める。
レイナが剣を構え、険しい表情を浮かべる。
「アルド、無理はするな……!」
その声に、俺は微かに笑みを浮かべた。
「大丈夫だ……これは……俺の力になる」
双剣を握り直す。
その刃に、魔導書の呪詛が黒い焔のように絡みつく。
痛みは鋭く、全身を灼くようだった。
だが、その痛みすらも力に変えていく。
「アルド……あなたは……!」
フィアナの声が震える。
だが、俺は頷いた。
「信じてくれ。これは、俺にしかできない戦いだ」
闇の焔が双剣に宿り、世界の色が歪んで見えた。
それは、かつてないほどに鮮烈な力の感触。
視界に映るのは、仲間たちの顔。
俺が背負うものは、もう迷いではない。
「俺は……運命を超えるために、禁忌すらも超える!」
叫ぶ声が、神殿跡に響いた。
双剣の刃が黒く輝き、魔導書の頁が全て開かれる。
風が唸り、空気が震える。
その中で、俺の意志だけが確かに光っていた。
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