【第4話「黒衣の騎士」】
薄曇りの空が、血のように赤く染まりつつあった。
夜明けの光がようやく顔を覗かせたその時、俺――アルド・レイヴァンは王都へと向かう街道を、フィアナと共に歩んでいた。
空気は冷たく、湿った泥の匂いが足元から立ち上る。
その匂いは、戦の残響のように俺の胸を締めつけていた。
「……静かだな」
双剣を腰に携えながら、俺は低く呟いた。
フィアナはそっと横顔を見せ、夜明けの光に瞳を細める。
「嵐の前の静けさです。ジルは必ず、ここで動く」
その声には迷いがなかった。
俺は頷き、足を止める。
森の影から、鋭い視線を感じ取っていた。
剣を握る手に、微かに力が籠もる。
「来る……」
次の瞬間、黒衣に身を包んだ男が影から現れた。
漆黒の鎧、紅の外套。
その顔には冷たい微笑みが浮かんでいる。
「やはり、来たか。ジル……」
俺の声は低く響く。
「久しぶりだな、アルド」
ジル・カリスの声は、風を切るように冷たい。
その紅い瞳が俺を射抜き、過去の記憶を抉る。
「お前が立ち上がるのを、待っていた」
フィアナが一歩前に出る。
「私たちはもう、お前に屈しない」
その言葉に、ジルは薄く笑うだけだ。
「巫女の加護か……無駄だ。運命は変わらない」
双剣を引き抜く。
刃が光を帯び、戦場の空気を切り裂く。
(負けられない。この男に、全てを奪わせはしない)
胸の奥に刻んだ誓いを思い出しながら、俺はジルに向かって踏み込む。
剣戟の音が、夜明けの静寂を切り裂く。
俺とジルの双剣がぶつかり合い、火花が散るたびに周囲の空気は震えた。
血の匂いが漂い、足元の泥は赤黒く染まる。
戦場とは、命と誇りが交わる場所。
それを知っているからこそ、俺は退けない。
「アルド、お前のその目……いつまで抗うつもりだ」
ジルの声が、俺の耳に冷たく響く。
双剣を受け止める腕が軋む。
けれど、倒れない。
目の前の男は、俺の宿敵。
この戦いを越えなければ、未来はない。
「俺は、抗い続ける……誰かのためじゃない。俺自身のためだ!」
声を吐き出すたびに、全身が熱くなる。
剣士としての意地と、双剣に刻まれた誓いが俺を支えていた。
フィアナの祈りの声が背後から微かに届く。
その声が、俺の心に静かな力を与えてくれる。
(俺は、一人じゃない……)
再び踏み込む。
双剣が空を裂き、ジルの刃とぶつかる。
火花が散り、世界が鋼の音だけに染まる。
その音は、運命の鎖を切り裂く予感すら含んでいた。
「ふふ……面白い。やはり、お前は俺を退屈させない」
ジルの紅い瞳が細められる。
その笑みに潜む狂気を感じ取りながらも、俺は怯まない。
「俺は……この剣で未来を切り拓く!」
剣を振るたび、痛みが腕に走る。
それでも、剣を振り続ける。
誰かに託された想いも、失った仲間の声も、この双剣に宿っている。
フィアナが、一歩踏み出す。
その瞳には、揺るぎない意志があった。
「アルド……共に戦いましょう!」
声は祈りのようであり、宣誓のようでもあった。
(ああ……お前がいる。だから、俺は負けない)
胸の奥に熱が宿り、双剣を握る手に力が漲る。
剣戟の響きが、夜明けの空に鳴り響く。
ジルが僅かに口元を歪める。
「ならば……運命すらも試してみろ!」
その刃が、再び迫る。
だが、俺は退かない。
双剣の重みは、俺の決意の証。
一太刀ごとに、未来を刻むように。
一太刀ごとに、運命を断ち切るように。
その刃はまだ未完成だ。
けれど、確かに俺は生きている。
この世界に抗い、俺自身の旋律を奏でるために。
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