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1話


小さな窓が一つある四畳程度の質素な部屋。

ベッド一つにサイドテーブル。どちらも壁にピッタリと角を合わせており、ベッドに関してはシーツにシワすらもない。それだけでこの部屋の主の性格を窺える。


そこから薄い扉を一枚隔てた先にはユニットバスがあり、一人暮らしをするには不便がないが、友人が一人でも泊まれば狭いくらいだ。


そんな部屋には目を引く銀白色の髪を持ち、緑色の瞳を黒縁の眼鏡で隔てた端正な顔立ちの男が立っていた。この部屋の使用主に相応しく杓子定規な印象を受ける冷たい瞳の彼は、なんとも居心地が悪そうにその顔を歪めている。

 それもその筈。

ユニットバスには一人の女。陽の光を束ねた錦糸の髪は後頭部で一つの団子のように纏められ、照明の光をちらちらと揺らす。二人の関係を恋人かと考えるかもしれないが、まったくもって色はない。


なぜなら───




「ぅ゛ッ、おぇぇぇっ!!」



その金髪紫眼美少女はおもっきしゲロっていたからである。



洗面台にオロロロロ…!!と勢い良く吐瀉物を押し付ける様は見ていて…痛々しいを通り越して最早芸人。

 しかしながら本人は至って真面目だ。

額に脂汗を浮かべているせいで髪が肌にへばりついている。

 ぅ、ッう、とある程度吐き終わった彼女は口をゆすいでから肺の奥から長い長い息を吐いて頭を上げた。




「いやぁ、悪いね毎度毎度」

「……構わない」



口元を手の甲で拭くと、男に力なく笑いかける女の名はアイリーンである。



アイリーンはこの国で一番大きな学園である王立学園に通っている。

 十六〜十八歳の紳士淑女が集う名門中の名門。そんな学園に籍を入れているのは、彼女があまりにも優秀だったからである。


孤児院の出自ではあるが、人徳のあるシスターが勉学の機会を与えてくれた。様々な知識を惜しみなく受けたアイリーンはメキメキと能力を付け、貴族に劣らないだけの知力を得た。そして、シスターに背中を押されて試験を受け、学園を首席で合格。


まるでシンデレラストーリーのようだが、それもその筈。彼女は紛うことなきヒロインだからだ。



乙女ゲームをご存知だろうか。

いや、今時知らない人の方が少ないだろう。主人公であるヒロインが色々な男と出会い、好感度を上げ、待ち受ける困難を乗り越えながらハッピーエンドを迎える。そんなシナリオを持つゲームだ。


そのヒロインであるアイリーンになりたい人間は腐る程いるだろう。だがしかし、彼女には前世の記憶というものがあり、自身の状況をあまりよく思っていなかった。寧ろ


 クソみてぇだな


と、思っている。



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