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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

誘惑

「考え直さない?本当にいいの?」



服をはだけ、少年に白磁の様な肌を視せる

木々から差し込む光が、それを澄んだ色に照らした

「僕の事、好きにして良いんだよ?」


彼の肌もまた同様に透き通るものだったが、柔らかな手触りを感じさせる彼に比べ、僕のそれは彼より少し大人びたシルエットを帯びている

経験則から言えば、少しだけ年上じみた僕の姿は彼の好みであるように思えた


普通であれば、僕のような存在による誘惑は人間に抗えるものでは無い

しかし、少年の意思は変わらなかった


「『不審な者と口をきくな』と親から言われているんです」


「他に用が無いのなら失礼しますね」


人間には、稀に僕の誘惑が通用しない個体が存在する

だが、今回に限ってはそうであって欲しくなかった



見立てが確かなら、彼はとても良い味わいの魂を持っている


僕は飢えている訳では無い

それでも渇いた砂漠の旅人が水を求める様に、彼が食べたかった

今を逃せば、次はいつこんな上質な人間に出会えるか解らない


「そうなんだ」

でも、こういう事は駆け引きだ

(いたずら)に自分の気持ちを知られたくはない


「まあいいや、僕の躰が欲しくなったらいつでも呼んでね?」


機会はまだある

僕はひとまず森の暗がりに立ち去った様に装い、彼の様子を見守る事にした



しばらく様子を伺っていると、異常な光景に出くわす事になった


少年が周囲の様子を伺ったあと、歩いて川に入っていく

すぐに彼の小さな躰は膝まで浸かり、次の瞬間には胸まで水に沈んでいた


人間が服を着たままこんな事をする時は、理由はただ一つだ

僕は彼から見つかってしまうのを承知で飛び出すと、濡れる事を厭わず川に入り、少年を羽交い締めにした


「止めろ!」

大きな声を出してから、ふと我に返る

──僕は今、たかが人間の生死に必死過ぎではないだろうか?


「……ええと」

呼吸を整える、気を鎮める


「せめて、何でこんな事をしているのか話してくれないかな?」

そして彼を水から引き上げた


「話したくありません」

ずぶ濡れのまま、少年が言う


僕は、服を乾かす事や家まで送る事を提案したが、彼はそれを拒否すると「あまりしつこいと人を呼びますよ」と続けた



だが、その後も少年の危険な行動は続いた

毒蛇に自分を噛ませたり、わざと熊の巣に入ったり、高い所から身を投げようとしたり…


その都度、僕は彼を助けた

彼は助けられる事それ自体は拒否しなかったが、理由について語る事は無かった



「そろそろ僕たち、もう他人じゃなくなったよね?」


「何でこんな事をするのか、話してくれないかな?」

すっかり太陽が沈み始める時間、僕は144回目の救助を終えたあと、彼に改めて理由を尋ねていた


少年は1日を通し、むすっとした表情を続けていたが、聞いた瞬間に涙が彼の頬を伝うのを僕は視た


「兄が…」


「このままでは、兄が家を継いでしまうんです」


「僕の方が優れているし、こんなにも美しいのに…」


違和感


少し引っかかるものを感じたが、せっかく彼が話してくれている

僕は考えを差し挟まない事にした


「今日1日を通して、貴方が人間で無いこと、僕の事が好きな事は解りました」


「僕はこの通り美しいので、それも無理もない事と思います」


「そこでお願いしたいのですが」


「兄を消して頂きたいのです」


やはりか


なんとなくそんな気はしていたが、それでも僕の中に「相手の人間性を信じたい気持ち」が存在していた

今回は、残念ながらそれが判断を曇らせてしまっていたようだ


その後、少年は2つの要求を僕に語った

一つは「家を継いで遺産を手にするため、不思議な力で兄を殺して欲しい」という事、そしてもう一つは「失敗した場合、自分の関与は生命に替えても隠し通して欲しい」という事…


僕は引き換えに彼の魂を要求したが、「計画成功の暁には検討させて頂きます」という回答が得られただけだった


アンフェアさに嫌気が差した僕が交渉を放棄しようとすると、彼は着ていた服をはだけ「本当に良いんですか?」と上目遣いに僕を視た


「あと少しで、僕の事を好きに出来るのに」


今日は感情の忙しい日だ


僕は複雑な気持ちになった

彼の行動には浅ましさを率直に感じたが、自分がそれに抗えない事も解る

こんなにも自らが「欲しい」と感じた人間が、自分の事を道具の様に考えていた事も惨めだったし…


せめてもの抵抗として、僕は彼の頬に片手で触れると、顔をくっつきそうなほど近付けて言った


「駆け引きは止めにしようよ」


「それより僕、君と仲良くなりたいな?」


少年の口から「あっ…」という声が漏れた

それきり彼は頬を赤く染めると、濡れた眼をして僕から視線を逸らす

予想していなかった事だが、好機と言って差し支え無かった


「お互いに、持ち帰って検討する時間を持とう」

屈んで彼の瞳を覗き込む


「また明日、会おうね?」

そして僕は、彼の唇に自分のそれを重ねた

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