Ep01 DIVE ─出会い─
暗い部屋、床に散らばる空のエナジードリンク。
かすかに聞こえるファンの音。
うっすらと光っているVRゴーグルを斜めがけにしたまま眠りこくっているだらしのない女の名は『十依黒子』いわゆるただのゲーム廃人。訳あって休学中。
寝相によりゴーグルは頭から離れているが、ゲームは起動し続けている。
そう、常時オンラインを続けている状態であり、最近の総オンライン時間は現実での滞在時間をゆうに超えている。
「ぐーす、ぴー。ぐーすー。ぴー。」
ゴーグルを付けたままの彼女は朝10時だと言うのにまだ起きないのであった。ゲームの中、現実共に。
──時は2022年、化学の進歩による娯楽の発展、飛躍的なクオリティーの向上によりVRゲーミングシステムを確立。
その革新的な技術力を存分に発揮したこの大人気ゲーム「Doragon・gate・online」*略して『Dgo』
キャッチコピーは『──〜龍の扉を開き、未来を穿つ〜これは君の世界だ』と、壮大なものである。
煌びやかな世界を舞台に強大な龍を皆で協力し、戦力を拡大させ共闘する新作VRMMOだ。
そう、彼女もこの世界に魅せられ。自分だけの世界を手に入れた1人であった──。
今日もそのボスキャラを倒すべく己の戦力増強の為、再びログインを開始する。
──……フィイイン。
Now Loading……
Loading……
「……10時か、……ふぁ。よく寝た……よし。戻るか」
離席していたプレイヤーの再接続を確認。
ワールドの再構築、Re:dive開始します。
フォォン。
何も映っていなかった暗闇から、まるで現実のような世界へとダイブが完了する、衣装もダルダルだった服からゴシック調の黒ロリィタ服へと衣装もこの世界のスキンにチェンジする。
◇ ───────────── ◆
□『アーテル』【超重の大鎌使い】
▫─────────────────▫
・種族:『ヒューマン』
▫:Lv50(最大)
・ステータス*
・HP/199
・SP/75
VIT【125】+45(アイテム効果)
STR【158】+54
AGI【99】+54
DEX【132】+48
INT【89】+42
▫─────────────────▫
・パートナープレイヤー(空欄)
・契約獸(ドラドラ)シルバワイバーンLv50(最大)
◇ ───────────── ◆
場所は寝る前まで居た荒野『サンド・タウン』獰猛な魔物や武器クラフトに必要な素材が取れる、厳選スポット。そう黒子は作業に疲れ果て寝落ちしていたのである。
まだ眠たい脳を無理やり起こし、ぽわぽわとした口調で黒子は独り言を呟く。
「素材……まだまだ全然足りないや。続き……やろう」
目の前に映る、次元の裂け目の様なポータルに触れようとすると【ゲート】と言う選択肢が出てくる。
──……▽ このゲートにアクセスしますか?
・『はい』・『いいえ』
迷わず『はい』を選択。
フォオオン。
『サンド・タウン』第5ポータル【65層】
昨日まで攻略していた所までが自動的にロードされスポーンする。
「ええと、何と何が足りないんだっけな」
──フィン。
ドロップさせたい物を確認するため、アイテムボックスを表示させる。
「……ふむぅ、黒色ハガネがまだまだたりてないと。まあボスは倒したし鉱山ステまであと少しだったよね……よっし、めんどくさいけどやりますか。」
小柄なその身体で身軽にひょいっと、ダンジョンの下の階層へと続く穴へ飛び込んでいく。すると。
グギャギャッ!!
『ポイズン・スコーピオン』の亜種がうじゃうじゃと沸いて出てきた。
「目的はこいつらじゃないんだけどな……。全部で8体か」
───ブォオン!
アイテムメニューを起動すると、アーテルはそこからメイン武器では無いサブ武器である短剣を選択。雷撃を纏った高レベルスキンの短剣が出現する。
「こいつらにSp消費が激しい大技を使うまでもないかな。」
──バチ、バチチッ。
『ギュ!!ギュギャギャッ!?』
瞬間、光のような速さで複数の敵を正確に捉え、脳天に一撃即死のクリティカルヒットを叩き込んだ。
──スッ。
バタッ、バタバタ。
モンスターの死体が次々に転がり落ち、アイテムへと変換され自動的にアイテムボックスへ収納される。
「……お『上質毒針』か……そこそこレアだけど……。う〜ん、私は要らないけど。これもギルメンの為に持って帰るとするかな。」
「ふぅ、携帯アイテムボックスの許容量もう少し増やして欲しいなぁ。」
「ま……。これも次の『大型アップデート』待ちかな。」
そうこう独り言を呟いていると、目的の物がドロップする階層へと到着する。
* ──第5ポータル【66層】
「よいしょっ……お、ここか。」
落下した先は先程の階層よりマップが広く大きなステージへ出た。
彼女が求める武器クラフトに必要な鉱石がここで手に入るのだ。
この階層までたどり着くには高難易度設定されているボスモンスターを6度は狩らねばならない上級ダンジョンであった。
──が、今日やっとたどり着いたのである。
目的である鉱石はうじゃうじゃと壁に眠っている。
「さて、ちゃっちゃと採掘して帰るかな」
ズ、ズサッ。
ズサッ。
「っし!! 取れたっと。」
「黒色ハガネがこんなに……く、くふふ。ここまでこのダンジョンを掘った甲斐があったな。やはり、当たりポータルだった……。」
現実で寝不足なせいかいつもは常時死んだ目をしているアーテルであったが、目的のアイテムがたんまりと眠るこの特殊ポータルを発見した今、この瞬間彼女の目は光に光っていた。
「よし、こんなにたんまりバッグに詰ればあとは帰るだけ……。」
─── フォン。
メニューウィンドを開き、『ダンジョンから離脱する』コマンドを決定しようとしたその時である──。
「きゃあああああああ!!!」
「たぁすけてぇええええ!!!!」
ぷるぷると震えながら少女はアーテルへと助けを求めてくる。
「……こんな階層に人?……嫌な予感。聞かなかったことにして帰ろう」
と思った矢先、トラブルのオーラを纏っているであろうそれの視界に入ってしまい声をかけられる。
──がしっ。
息を切らし、アーテルを捨て犬のようなくりくりした目で見つめ彼女はこう話す。
「ひ、人!? ちょ、ちょっとでいいんで話しを聞いて下さい……」
「げ……。」
(私、こう言うのノーって言えない性格なのよね)
──くすっ。今日は、厄日かしらね。
アーテルと名の知らぬ少女の出会いがこの物語の始まりである──。