第89話 最弱の拳
「つっても、俺はガルムの2代目であって、1代目はとっくに消されてるがな」
これが、漆原家の闇。
「なるほど、それで師匠はあんなに強いのか」
なんと言うかしっくりきた。
空の強さを思えば色々納得がいく。
多分、天明流の真髄は亜人が使うことにこそあるのだろう。
疲れ知らずにほぼ全力で戦うなら、基礎の能力が高ければ高いほど強くなる。
それこそ、純粋な鬼との亜人ならその強さは計り知れない。
「は?何言ってんだてめぇ、今の話聞いてなかったのか?人のフリしてるそいつは、4分の1がバケモノだって話をしてんだよ、おツムがよぇにもほどごあんだろ」
??
ハデスの言っていることがよく分からず、俺は周りの人の様子を見る。
俺の言葉に呆気にとられてこちらを見ている漆原さん、とりあえず笑顔でも返しておこう。
後は、何か苦虫を噛み潰したような顔をしている風間さんに、漆原さんに対して失望の眼差しを向ける服部さん。
あぁ、なるほどな、服部さんみたいな反応を俺に望んでたのか。
「悪いけど、こんな綺麗な人捕まえて、バケモノだって言えるほど、俺は自分の容姿に自信ねぇよ」
「は?」「え?」「はぁ?」
ん?
あれ、何かまた間違えたか?
「このふとはモンスターどの混ずりものなんずよ?わんどば騙すてふととすて過ごすちゃーんずよ?分がってらんだが?」
服部さんが凄い顔でこっちを睨んでくる。
その瞳の奥には、私は間違っていないと怯えるような感情が見え隠れてしている。
そんな気がした。
「騙すって、別に漆原さんがモンスターとのクオーターだったら関係を考え直すのか?」
「当だり前だ、だって人間でねんだよ?」
あぁ、やっとこの人達が何を言っているのか理解できた。
……そんなことか。
「人間じゃないと仲良くできないなんて、そんな事ねぇよ。俺は空と超仲良しだし、漆原さんはやっぱり綺麗でちょっとお茶目で意外と抜けてる仲良くしたい女性だよ。そもそも、俺だって挨拶の時に自分は人間ですなんて言わねぇし」
「源志くん」
「ちっ、興醒めだ、畜生どもと仲良くしてぇクズがこんな所にもいるなんてよ。余興は終わりだ、テメェらゴミ掃除の時間だ、こいつらぶっ殺してババァの首を取りに行くぞ」
ハデスの合図と共に黒服達が一斉に襲いかかってくる。
目の前の黒服が懐からナイフを取り出し突き立ててくる。
そのナイフを受け流し、拳に力を入れカウンター気味に振り抜く!
が、その拳は空を切る。
なんだ?今の感覚、まるで別人の身体を動かしてるみたいだ。
よく見ると漆原さん達も黒服相手に苦戦を強いられている。
「言ったろ?ここは俺の城だ、この城の中では俺がルール、俺こそが王!どれだけ強いやつを集めようと、この城の中では関係ねぇ!」
自分のテリトリーでルールを敷けるスキルってことか。
厄介だな。
「オラァ!!!」
皆が苦戦するなか、千國の声が響き渡る。
鬼化によるフィジカルで黒服たちをバタバタとぶっ飛ばしているようだ。
こういう時、あいつは本当に頼りになるな。
それから空も輝夜もいつも通り戦っている。
漆原さん、服部さん、風間さんの不調、空と輝夜と千國はいつも通り、そして俺の感覚の違い。
何だそれ?
一体どんなスキルなんだ。
敵の攻撃は避けれる、だけど攻撃が上手く当たらない。
違和感が凄すぎて正確に敵を捉えられない。
何かのデバフなのか?
なら、いつもより早く動くまで!
そう思った途端、足がもつれて床を転がる。
「等々力くん!」
いち早く俺の窮地に気づいた輝夜が、俺に迫る黒服をぶっ飛ばしてくれる。
「悪い輝夜、助かった」
「等々力くんを守るのが私の使命ですので」
役に立てた事が心底嬉しいのだろう、輝夜の声色がはねている気がする。
しかし輝夜の何がそこまで彼女を突き動かすのだろうか?何にしてもちょっとむず痒い気分になる。
っていかんいかん、戦闘に集中しないと。
「ちっ!効かねぇ奴が1人と1匹と1体!アイツらから先にたため!」
クソッ、ここまで来て足手まといかよ!
いや、俺にも役に立てることはある。
「一視同仁」
黒服を捉えるようにしながら、スキルを発動する。
これで形勢逆転!
「おいおい、どうしたよ、まさかの不発か?」
ハデスが面白いものを見たとばかりに手を叩いて笑っている。
スキルを使っても状況が変わらない。
黒服たちの動きは乱れることなく、こちらが徐々に押されてきている。
「まさかのこいつら、全員亜人なのか?」
それならば皆がこれだけ押される理由も分かる。
「は?んなわけねぇだろ、俺の城の中で檻に入れてねぇ亜人は1匹もいねぇんだよ!あんな足で歩き回られちゃ、汚くて仕方ねぇぜ」
じゃあ、なんで俺のスキルが効かないんだ?
俺のスキルは対象を自分と同じレベルにする能力。
適応されないのはレベルがない場合と、範囲外にいる時くらい。
範囲は間違いなく入っている。
ここにいる黒服全員が不与者と言う可能性もない訳では無いが、それでここまで押されるとは思えない。
じゃあどうして……。
いや、可能性がまだある、相手のスキルだからそんなことは無いだろうとそもそも考えもしなかった。
俺は立ち上がると黒服へと殴りかかる。
いつもよりゆっくり。
踏み込み、腰の捻り、拳。
一挙手一投足を意識しながら、ジャブの感覚で、右拳を黒服の顔面目掛けて叩き込む。
一見弱そうなその一撃は、黒服がこちらの動きに反応するよりも早く、顔面へと到達する。
その瞬間、弾けるような炸裂音と共に、黒服は鼻血を撒き散らしその場に倒れ込んだ。
読んで頂きありがとうございます!
源志くんはね、やっぱり源志くんなんですよね!
どこか他の人とは感覚が違う、でもそんな所が憎めない!




