第86話 最適な攻撃
「とりあえず戻るか、漆原さんもさっきの場所にいたんだよな」
『その筈だよ』
早すぎて制御できないため、魂纏を解除し、今通り過ぎた道を走って戻る。
少しすると、倒れて動けない漆原さんと傷だらけの空が目に入る。
「漆原さん!空!」
急いで2人の元へと駆け寄る。
「私は大丈夫、毒で体が麻痺してるだけ、空ちゃんをお願い」
自分もキツそうだと言うのに、漆原さんがそう提案をしてくる。
「わかった、空、回復タブレットだ、飲めるか?」
空をそっと抱き抱え漆原さんの方へ近寄りながら、
空にタブレット飲ませる。
「ギャウ……」
とりあえず傷は治ったようだが、まだ苦しそうにしている。
「魔力欠乏症よ、しばらく休めば治ると思うわ」
空は魔法が使えたのか、俺は自分の魔力で魔法を使わないから分からないが、魔力欠乏症は授業で習った覚えがある。
「漆原さんも早く解毒しないと」
漆原さんの隣に空をそっと下ろし、解毒タブレットを取り出し漆原さんへ飲ませる。
普段から各種タブレットを持つように、胡貴から口酸っぱく言われていた事が役に立った。
「おいおい、何してくれてんだ、人が折角追い詰めたってのによぉ」
声がした方向へ振り向きナイフを構える。
「さっきの攻撃で生きてるのか、大したタフさだな」
この状況で文句を言ってくるあたり、跳ね飛ばした敵なのだろう。
見る限りダメージはない。
回復していたとしても、あの一撃を耐えたということになる。
「人の事ボール見てぇにぶっ飛ばしておいて、言うことがそれかよ」
男は肩や首を回して気怠そうに文句を言ってくる。
「そいつは空気を操って壁を作ったり、武器の見え方を変えたりできるのよ、それから剣には毒が塗ってあるわ、気をつけて」
空気を操る能力か、厄介だな。
漆原さんや空がやられているということは、天明流の天敵と考えて良さそうか。
「たく、口の軽ぃ女だなぁ、ちょっとは黙ってられねぇのか?」
男の言葉に若干イラついている自分がいる。
ああいう手合いの口調は、相手をイラつかせるためにわざとやっていることもある。
思うにアイツはそのタイプだろう。
同じ土俵に乗ったら負けだ。
「安心して漆原さん、すぐに片付ける」
「はっはっは、王子様気取りですかぁ?似合ってねぇぞ?」
「ピエロの真似よりマシだろ?」
ニヤリと笑って見せると、男は面倒くさそうに舌打ちをしている。
どうやら俺の煽りはお気に召さなかったらしい。
「はっ、だったらこう言うのはどうだ?お前が王子様気取りで守ってるお姫様は」
男の言葉が終わる前に、俺はナイフで切りつける。
「おいおい、人の話は最後まで聞くもんだろがよぉ」
気怠そうにしながらも、俺の攻撃を剣でしっかり受け止めている。
「そんなに人の神経を逆撫でしようと躍起になる必要はねぇよ。二人を傷つけられた時点で、こっちは遠にキレてるからな」
呼吸を整え、力を込める。
「てめぇも天明流かよ、芸がねぇなぁ、酸素が薄くなるだけで弱体化するクソ流派がよぉ、俺には全く効かねぇんだよなぁ」
「似非天明流・奥義・炎陽!」
「だから効かねぇッぐふぁ……っ!!」
あの時見せてくれた、師匠の炎陽とは比べるに値しないほどの威力。
しかし、自分なりの解釈で再現には至った。
これなら空気の壁も関係なく、攻撃を通すことができる。
「これでも俺は空の兄弟子にあたるからな、才能はないと言われても、師匠の動きは1番近くで見てきたんだ、お前はきっちり、天明流で倒す」
てっきり空気を薄くしてくるかと思っていたが、そこまで問題なさそうだ。
寧ろ何だか調子がいいくらいだな。
「言ってろ、どうせ段々と苦しくなって、お前もそいつらと同じ末路を辿るんだからよ」
男は挑発するように漆原さん達を指さす
「源志くん、そいつは天明流の天敵よ、私も戦うわ」
「ギャウ……」
それにつられてか、2人とも立ち上がろうとする。
漆原さんも空も俺を心配してくれてるのだろう。
何より、あんな奴にいいようにされて、嘸かし悔しかっただろう。
「2人ともゆっくり休んでてくれ、天明流はあんな魔法だけの奴に負けないよ」
2人が安心できるように、少しだけ顔を向けてそう答えた途端。
隙ありとばかりに剣を振り回してくる。
「余所見してるてめぇがわりぃんだぜ、カッコつけておいて直ぐにやられるとかダサすぎるよなぁ」
なんだこいつ、剣を振り回しているだけで殆ど攻撃になっていない。
数度剣を避けて、試しに剣の腹に指を置く。
「似非天明流・極夜」
「はっ!だから俺の前で天明流は使えねぇ……って、んだこれ?剣が動かねぇ!」
あまりに素人な動き過ぎて殆ど力を入れる必要もない。
相手の動きに合わせてカウンター気味に力を入れ、動きを封じる。
「天明流を呼吸だけの流派だと思うなよ?筋肉の動きに成通するゆえに呼吸が大切だと知っている、だから呼吸を鍛える。そこに根幹があるだけで、全てが封じれるなんて思わないことだ」
「黙れこのクソがぁ!」
状況を打破しようと男が思いっきり力をかける。
「似非天明流・日暈」
相手の体勢を崩すと、簡単にその場に倒れ込む。
「クソッ、どうなってやがる、肝心の呼吸が」
倒れ込む男の顔面に向かって、拳を落とす。
空気の壁があるが関係ない。
力を内部へと伝えるように、炸裂されるイメージ。
「似非天明流・奥義・紅焔」
鈍い音を立てて男の身体が揺れる。
一瞬ビクリと身体が震えたかと思うと、男はそのまま動かなくなった。
「今のって……本当に天明流?」
漆原さんが珍しく驚いている。
「一応、俺なりの解釈で似せてるだけだどな」
何はともあれ、この階層もこれで突破かな。
意外と呆気なかったな。
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