第85話 最速最短の一撃
「ぎゃうぎゃうぎゃ!ぎゃうぎゃ!!」
「はっ!当たらねぇよんな攻撃はよぉ」
空ちゃんの攻撃をいとも容易く交わしている。
しかし、それも最初の一撃のみ、徐々に加速し威力を増していく連撃が、男を捉え始める。
「くそ、んだこの攻撃」
男も持っている剣で応戦するが、確実に空ちゃんが押している。
あの動きを私は知っている。
でもどおして?空気が薄いせいで、空ちゃんだって天明流は使えないはず。
だけど紛れもなくあれは、天明流奥義白夜。
「鬱陶しんだよこのクソ猫が」
男は思いっきり息を吸ったかと思うと、何やら魔法を発動する。
その途端、空気はさらに薄くなり、呼吸をするだけでも物凄く苦しい。
「ギャァァア!!」
空ちゃんが咆哮をあげると、勢いよく風が吹き荒れる。
あれって、風魔法?
「はぁ!?なんで亜人が魔法使えんだよ!」
男の驚きもわかる、亜人にはレベルが無い。
それはスキルが無いのと同義。
魔法はスキルが無ければ発動しない。
その常識を空ちゃんは何らかの方法で打ち破った。
どうやったかは分からないけど、空ちゃんの風魔法で空気が循環し呼吸が少ししやすくなっている。
「空ちゃん、そいつの剣には毒が塗られてる、魔法で間合いも変えてくるから気をつけて!」
おかげで動けないまでも声は出せるようになった。
「ギャウ」
空ちゃんは短く返事をしながら男に飛びかかっていく。
「余計な事吹き込みやがって、だけどよ、よく考えりゃ俺は無理する必要ねぇんだよなぁ」
私たちを追い詰めただけの事はあるようで、この状況でも自分がすべき事を理解し、男は防御に徹し始める。
空ちゃんは確かに天明流を使える状況を作り出した。
でもそれは、空ちゃんが魔法を使っている間だけ。
魔力が切れれば状況は元通り。
実際、天明流を使いながら戦っているというのに、空ちゃんは確実に疲れてきている。
「せっかく空気が吸えるってのに、呼吸が乱れてるぞクソ猫ちゃん」
時間が経つにつれて空ちゃんの動きが遅くなっていく。
冷静さをかいていた、いや、欠かされていたと言うのが正しいのだろう。
いつもの私なら少しの違和感でも毒に気づける。
そうすれば解毒薬を飲んで終わりだった。
違う、そうじゃないでしょ漆原冴!
今まだ、空ちゃんは戦ってる、私に出来ることはまだあるはず。
今出来ることを考えないで、過去に縋って何になるのよ!!
「我が道を照らせ、光魔法」
「小細工だろうがさせねぇよ、空気魔法」
降り注ぐはずの光が遮断される。
これ程までに相性の悪い相手と当たるなんて、いや違う、きっと最初から私がここに来ると分かってたんだ。
イレギュラーだったのは空ちゃんの存在、それも……。
「はぁ、やっと大人しくなったか。どうやったかは知らねぇが、亜人がもし魔法を使えたとしても、あんな勢いで魔法を使ってたら、直ぐに魔力は尽きちまうよな」
空ちゃんが苦しそうにその場にへたり込む、間違いなく魔力欠乏症だ。
何らかの方法で無理やり自分の中の魔力を使ったんだろう。
必要な魔力も使ってしまい、強烈な倦怠感に襲われる。
魔法を使い始めた人がよくなる症状だ。
「逃げて空ちゃん!私の事は良いから!空ちゃんならまだ逃げられるはず!」
「……ギャ!」
魔力のない状態で、立ち上がるのも辛いはずなのに、まるでそんなの関係ないとばかりに、その四肢で大地を踏みしめる。
「たく、亜人の分際で人様に楯突いてんじゃねぇよ」
そんな空ちゃんの腹を男は思いっきり蹴り飛ばす。
ゴロゴロと転がった先で、空ちゃんはまた立ち上がり、男を睨みつける。
「もうやめて!狙いは私なんでしょ!空ちゃんはもう戦えない!お願い!何だってするから!もう空ちゃんを傷つけないで!」
「何だってするか、いい響きだねぇ、だけど残念だったなぁ、テメェはもう物頼める立場でも無けりゃ。人様に牙向けたクソ猫は、死んで詫びなきゃいけねぇんだよ!」
お願いやめて、誰か助けて。
「源志くん!!」
「……テ……リュおう義!きょクッ……」
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「急ごう!案内を頼む輝夜」
直ぐにでも漆原さんを助けに行くべきだ。
「お待ちください」
走り出そうとした俺を輝夜が止める。
「現在空ちゃんが交戦中ですが、普通に走ったとして間に合わない可能性があります」
「ならどうする、輝夜なら間に合うか?」
輝夜のブーストはかなりの速度だ、あれなら間に合うんじゃないか?
「申し訳ありません、先程の戦闘とマッピングにより、魔力の回復が間に合っていません、もし私が行ったとしても間に合うだけになる可能性が高いと考えます。ですので、等々力くんが先行してください」
「俺?だけど輝夜の案内が無いと最短でつけないんじゃ」
「パスを繋げますのでそれは問題ないかと、それから風間さん、すいませんが等々力くんへの強化をお願いします」
パスって何だ?
とか聞いてる時間は無さそうだな。
「良いだろう、この状況であればそれが最適だ。漆原を頼む」
風間さんは良くも悪くも効率的なのだろう。
どうやら俺のスピードが試される様だ。
それなら。
「魂纏」
俺は白虎の力を顕現させ、走る準備をする。
『等々力くん、聞こえる?今から漆原さんの所まで最短で案内するから、良く聞いてね』
急に頭の中で早瀬さんの声が響く、え??どうなってんだこれ?
『後で説明するから、今は急いで』
まるで心が通っているみたいな現象に少し驚くが、まぁ、後で説明してくれるならそれでいい。
「すぐに追いつく、それまでにやられるなよ。できる限り早く!」
「分かってますよ、輝夜、皆の案内は頼んだ!」
1歩踏み出す、その瞬間、周りの景色を置き去りにする。
速すぎて目が追いつかない。
『すぐに右!』
早瀬さんの指示で一気に右へ曲がろうと試みるが、勢いがつきすぎて曲がりきれない。
『等々力くん、私を信じて、指示通りにお願い、今の速度もちゃんと計算に入れるから』
頼もしいな、早瀬さんは。
『右左!斜め右、下に下がる階段、左右右、真っ直ぐ旭日!ストップ』
「似非天明流奥義!旭日!!」
いつもの感じで旭日を繰り出し、ゆっくり止まる。
「なんか今俺、もしかして誰か跳ねた?」
多分だけど何かに攻撃が当たった気がする、
一瞬だったが、事故の寸前にゆっくりものが見える感覚で、人の顔が見えた気がした。
読んで頂きありがとうございます!
超爆速源志くんによる旭日、
事故って怖いですね。
皆さんは呉々も安全な速度で走りましょう。




