第84話 最強キラー
「ガルム、貴方たちだけは、もう絶対許したりなんかしないわ!!」
視線の先でヘラヘラと笑っている男を睨みつける。
「怖いねぇ、太陽に睨まれちまったよ。で?許さないってどうするんだぁ?」
前髪で目は見えないが、ニヤけた顔が癇に障るわ。
「こうするのよ、神速!!」
スキルで加速し、亜人達を置き去りにする。
そして男の喉に剣を突き立てる。
「速い速い、だけど残念だったねぇ、いくらレベル99でも人間の速さなんて亜人と比べたら遅いんだよなぁ」
その切っ先は男に届くことはなく、身を盾にした亜人に突き刺さる。
「なんで、そこまで」
倒すと決めても、どうしても刃が鈍る。
「こいつらはそうやって育てられてんだよ、人間様を命に変えて守るのが仕事ってなぁ。人間と違って死を怖がらねぇ、なんて都合のいい化け物なんだろうな」
死を怖がらない?
そんな訳ない、現にこんなに苦しい顔でこちらを見てる。
助けを乞うように、縋るように。
「この外道……っ!剣がっ」
身を盾にした亜人が、自ら刃を深く刺していく。
その手で剣を握り込み、離すまいと血を吐きながらもがく。
「いい子だ、そのまま押さえておけ」
男がヘラヘラと笑いながら、剣を抜きこちらに近づいてくる。
亜人に刺さった剣は抜けそうもない、このままでは切られる。
仕方なく剣を手放し男と対峙する。
「武器がなくなっちまったな?天明流、だったか?それも使えねぇとなりゃ、翼をもがれた鳥の様みたいなもんだ」
無警戒に剣を振りかざす男の姿に呆れる。
「それで私が戦えなくなると思われてるなら、心外にも程があるわ」
振り下ろされた剣を避け、カウンター気味に拳を食らわせる。
「効かねぇなぁ?」
「そんなっ」
殴った感覚は確かにあった、にも関わらず男はケロッとした様子で笑みを浮かべている。
「俺は空気を操れるんだぜ?分かるだろ、空気の層を上手く作れば、今のテメェ程度の打撃なら止められるんだよなぁ」
「なるほどね、それならこう言うのはどうかしら?」
詠唱破棄、光魔法、ライト!
相手の文字通り目の前に光の玉を生成する。
「がっ!目がッ!!このクソ女が!!」
男が適当に振り回す剣を目掛けてカウンター気味に手刀を落とす。
しかし、その手刀は何故か空を切る。
「あははっはーはっは!いやぁ、笑えるねぇ、まだ勝てると思って頑張っちゃってさ」
急に振り回す剣の起動が変わり、確実にこちらに向かってくる。
「……っ!どうやって」
咄嗟に避けたと思ったが、頬にひりつく様な痛みを感じる。
触れると指先がうっすらと血で汚れる。
「空気を操るってのは意外と万能でよぉ、敵の位置なんかも分かるし、空気の層で剣の長さを錯覚させる事だって出来るんだよなぁ。教えてあげちゃう俺ちゃん優しいだろぉ」
にやけづらがムカつく、けど本当に強い。
今の攻撃で間合い自体は測れた、後は動きを予測すれば回避は出来る。
だけど攻撃手段が無い。
私の光魔法は攻撃には使えないものばかり。
正直厳しい状況ね。
「それにしても本当に最強とは名ばかりだな、あんたの死んだじぃさんも浮かばれねぇってもんだ。出来損ないだと思ってたやつの方が、折角連れてきたレベル99より強いなんてよぉ」
……なんで、この男が、その話を知ってるの。
「その話をどこで聞いたの」
感情に任せて男を睨みつける。
「おお、怖い怖い、感情的になってるぜぇ、お嬢ちゃん?なんで漆原家の人間しか知らない話を知ってるんだろうねぇ〜、不思議だねぇ、何でだろうねぇ。……動揺しすぎだぜ。後ろだよ」
言われて初めて後ろに気配があることに気づき瞬時に振り返る。
目前まで迫っている亜人の攻撃を何とか回避するが、何故かその途端、体に力が入らなくなりその場に倒れ込む。
「これ……は?」
身体に上手く力が入らない。
さっき切られた場所の感覚が特にない事を考えると……毒?
「流石にレベル99かつ天明流ってとこか、俺や亜人が動ける程度に空気を薄くして、弱った状態で毒が体内に入ってもしばらく動くんだからよ、流石に焦ったぜぇ。まぁでもこれでテメェをボスのとこまで運べるぜ、その前にちょっとくらいなら遊んでもバレねぇかなぁ」
下卑た笑みを浮かべながら男がゆっくりと近づいてくる。
あぁ、本当に最悪だ、こんな事ならちゃんと天明流の修行をさせてもらうんだった。
それはきっと、叶わなかっただろうけど。
源志くんは、そう都合良く助けに来てくれたりしないよね。
「ギャウギャウギャ、ギャウギャウ」
空ちゃん!?
「チッ、まだクソ猫がいるんだったぜ」
何とか声のする方向へ顔を向けると、男との間に空ちゃんが立ちはだかっている。
「ギャウギャウ!!」
「あ?獣の言葉は通じねぇっての、おいゴミ共、こいつはテメェらで何とかしとけよなぁって……は??」
男のニヤケ顔が崩れる。
そう言えば、いつの間にか周りが静かだ。
それに思い返してみれば、男との戦闘中に介入してくる亜人も、段々と減ってきていた。
まさか。
辺りを見渡すと、そこには無数の亜人の死体が転がっている。
「おいおい、やってくれたなクソ猫、どうしてくれんだよ。いくら沢山いるっていってもよぉ、ここまで戦闘できるようにするのに結構時間がかかるんだぜ?」
さすがの男も、この階層にいた全ての亜人を殺されたとなれば、気が気ではないらしく。
苛立ちを顕にしている。
「ギャッ」
そんなことは知らないとばかりに空ちゃんが声をあげる。
そっか、空ちゃんにとっては、亜人が無理矢理従わされてるとか、そんな事は関係ないんだ。
ただ、殺意を向けて襲ってくる敵を殺してるだけ。
何やってんだろ私。
ダンジョン内はそういう場所だった。
人同士だって場合によっては殺し合いをする。
そんな当たり前なことを忘れてたなんて。
「覚悟しろよクソ猫、亜人風情の調教なんぞ、朝飯前だってことを教えてやるよ」
「ギャウ!!」
読んで頂きありがとうございました。
2週間程お休みをしてしまい申し訳ありませんでした。
続きをちゃんと書けたことに安堵しつつ、
お待ちしていただいた読者様方に、
謝罪と感謝をさせていただきます。




