第78話 最悪過ぎて吐き気がする
「上層へ上がる階段が崩れ落ちてます!」
斥候部隊からの報告が入る。
あの爆発音はどう考えても異常事態。
しかし、風間さんの対応は流石としか言いようがなかった。
即座に全部隊に指示を出し、作戦立案の為に隊長格の人たちを呼び集める。
そこに届く第一報。
「どうやら奴らが動き出した様だな」
風間さんが顎に手を当て何かを考え始める。
「意外と早かったな、手を出してくるのは下層だとばかり思っていた」
穂高さんの方も予想外だったらしく、風間さんが指示を出すのを待っているようだ。
「先行すて情報たずまりますか?」
「早まるな服部、情報は必要だが相手も厄介なお前を最初に始末したい筈だ、確実に罠を貼っているだろう。中層で仕掛けてきたのは、ホームグラウンドだとしても下層の不確定要素を消しきれないからか、それとも暗に誰も逃がさないとでも言うための宣戦布告か。どの道このまま隊列を崩さずに下層まで攻め込む方がいい、作戦通りいくぞ」
うわー、何か始末とか罠とか宣戦布告とか、嫌な単語が聞こえてくる。
つまりこれはあれだ。
ここ熱田ダンジョンはガルムが拠点としているダンジョンで、俺が巻き込まれているのはギルドとガルムの抗争って事か。
つまり、俺に求められるのは対人戦闘。
最悪の場合、スキルを使って漆原さんを守れと。
逆に言うと、ガルムはそれ程までの組織。
少しだけ不安になる。
人の死を招いたことはあるが、俺は自分の手で人を殺した事は無い。
相手は人殺しを厭わない連中、ならその差は必ず命取りになる。
俺は、やれるのか?
漆原さんを守る為なら?
「源志くん?」
不安が顔に出てしまっていたのだろう。
漆原さんが心配そうにこちらを覗き込んでいた。
俺は息を吐いて深呼吸をする。
「大丈夫だ、ありがとう」
漆原さんは必ず守る。
あの日そう誓ったんだ、しっかりしろ俺。
「総員傾聴!敵もしかけてきた、これより先は間違いなく厳しい戦いになるだろう。敵はガルム、人もモンスターも玩具としか思っていないような連中だ。しかもモンスターより狡猾で残忍、人の形をしただけの畜生だと思え、一瞬の迷いが命取りになる。我々には使命がある、ダンジョンを攻略し続け人類を救う使命が。我々に求められるのは完全なる勝利のみ、敗北もそうだが辛勝も許されん!だが諸君らにはそれだけの実力があると私は知っている。ここから先はいつ休めるかも分からん、警戒は怠るな、しかし、しっかりと休んでおけ、以上だ」
「「「我ら秩序之番人の名にかけて!!」」」
いやはや、これがカリスマ性と言うやつか。
演説一つで全員の目付きが変わった。
ここからは下層、鬼が出るか蛇が出るか。
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11階層を見た瞬間、何となく気分が悪くなる。
中層まではなんと言うか神聖な場所と言った感じがしたのだが、ここの階層は濁っている。
穢されていると言った方がニュアンスとしては正しいだろうか。
空気は重苦しく、どんよりとした曇り空が広がっている。
どこからとも無く獣か人か分からない鳴き声が響き渡っている。
何だこの胸騒ぎは。
「等々力くん、データベース内に存在するどのモンスターとも鳴き声が異なります。このモンスターはいったい?」
輝夜がそんな不穏なことを口にする。
相手にテイマーでもいるのか?
いや、だがテイマーは希少過ぎて殆どいないはず。
「前方よりモンスター多数!」
斥候から声がかかる。
「モンスター、ワーウルフ?」
そんな声が聞こえてくる。
ワーウルフ?このダンジョンに?
ワーウルフなんて基本的には西洋ダンジョンにしかいないはずじゃ。
あれ?
……違う。
ガルムが使役してるのは……。
微かに霧で霞む竹林から飛び出してきたのは、二足歩行の狼、その見た目はどうにもバラバラで、狼に寄った個体も居れば、人に寄った個体もいる。
共通点は同じデザインの首輪をつけていることだけ。
「まさか……」
嫌な予感がする。
人に近い個体の表情が物語る。
生きようと必死で、恐怖に歪んでいる。
「第3魔法部隊、広範囲魔法用意!」
穂高さんが声を上げる。
「や、まっ……」
ガルムの話と目の前の状況、色んな点が線で繋がって、嫌な想像が頭を駆け巡る。
隣にいる空に目が行く。
山井夫妻の顔が脳裏に過ぎる。
「あそこにいるのは!モンスターじゃない!!」
「放て!!」
「「ファイアウォール!」」「「ウィンドウェーブ」」「「サンダーレイン!」」
号令と共に、一瞬にして走り寄る亜人達が、光の粒子になって消えていく。
膝から崩れ落ちる。
「源志くん、今のってもしかして」
声に反応して、そちらに目をやる。
漆原さんも気づいたのだろう、苦悶の表情を浮かべている。
俺は奥歯を食いしばる。
フツフツと怒りが湧いてくる。
「間違いなく、亜人だ。ガルムのヤツら、ここまで外道かよ」
自分達の手で自分達の都合のいいコマを産み出し、恐怖で支配し戦わせる。
「源志くん、空ちゃんの事を知ってる私には、あの子達とは戦えないかもしれない」
最悪過ぎて吐き気がする。
俺もあの子達とは戦いたくはない、しかし、その強さは空を見ているからこそ知ってもいる。
多分この先もっと強い亜人が控えてるのは間違いない。
「亜人達は極力無力化出来るように頑張ろう。俺達がやるしかない」
「ええ、それからガルムには、キツイお仕置きが必要そうね」
読んで頂きありがとうございます!
さて、亜人の存在を知っているのは極一部の人のみ。
ガルムが亜人を手駒にしているのは、純粋に強いから?




