第76話 最早針の莚なんて生温い
「ほら源志くん、もっと沢山食べないと力が出ないよ?これも美味しいから食べてみてよ、あーん」
そんなことを言いながら、漆原さんがフォークの先に刺したローストビーフをこちらに差し出してくる。
その瞬間、ガタリと椅子の動く音が一斉に響き、周囲がざわつき始める。
それもそのはず、ホテルの朝食会場にいるのは、その殆どがクラン《秩序之番人》のメンバーたちだ。
その殆どが、漆原さんに何らかの好意的印象を持っていて然るべきだ。
牽制しあってか女性すら遠慮して一緒の部屋に泊まらないくらいなのだから、そんな人たちの前で漆原さんからフォークを差し出されようものなら、何が起こるかは明白だ。
そう、俺は今会場内の殺気を一身に受けている。
最早針の莚なんて生温い。
漆原さんから離れたら確実に殺られる。
「いやぁ、今日はなんだか食欲が無くて」
寧ろこれだけの殺気を受けながら平然と食事ができる奴がいるとすれば、余っ程の自信家か馬鹿のどちらかだろう。
「私のローストビーフが食べられないってこと?」
態とらしく拗ねた様子を見せながら、ローストビーフを口に押し込んでくる。
「ちょっつっむがっ」
仕方がなく押し込まれた物を食べるが全く味がしない。
もしかしてダンジョン攻略できるまでこのペースなのか?
モンスターに殺されるのが早いクランの人達に消されるのが早いか……不安になってきた。
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「これより熱田ダンジョン攻略を開始する、いつも通り上層は隊列を維持しながらも最短で進める、このダンジョンを攻略することの重要性については前日説明した通りだ、各自気を引き締めるように」
「「「我ら秩序之番人の名にかけて!!」」」
風間さんが喋り終わると共に、秩序之番人名物の掛け声が響き渡る。
いやぁ、生で聞くとこんなに迫力あるんだな、ちょっと鳥肌が立った。
「おい風間!部外者が混じってるぞ、どういうことだ?隊列が乱れる、控えてくれるかな」
そう言って赤色に染めた髪をツンツンにワックスで固めた、まさに熱血系の見た目をした男が俺の前まで歩いてきて立ち止まる。
これまた面倒な人に絡まれたものだ。
秩序之番人の魔法部隊長、冒険者ランキング第4位、穂高 蓮翔、その圧倒的なまでの火力を誇る火炎魔法で全てを焼き尽くす。
付いた二つ名が《炎帝》。
日本で2番目に強い魔法使いだ。
「よせ蓮翔、それは漆原の客人だ、俺も許可を出している」
風間さんがフォロー?を入れてくれているけど、それって言いましたよあの人、まぁ別に良いけど。
「光、せめてそういう事は事前に伝えてくれないか?今回の任務の重要性を1番理解してるのはお前だと思ってたんだけどな」
険悪とまでは行かないまでも、穂高さんは納得していない様で、風間さんに苦言を呈する。
と言うか、風間さんもさっき今回の攻略が重要って言ってたけど、なんか俺の知らない事がありそうだな。
漆原さんの昨日の一言もある。
もしかして師匠も一枚噛んでるのか?
「昨夜決まった事だ、それの実力は俺が保証する、少なくとも守る必要は無い。こちらに敵意がなくモンスターを倒してくれるモンスターとでも認識しておけ」
おう、とうとう人の事モンスター扱いし始めたよ。
でもまぁ、自由にやっていいとお墨付きを貰ったようなもんだと思って前向きに捉えよう。
実際の所、渋谷ダンジョンの下層を探索しつつも、誰一人かけることの無く攻略を続けているクランとの探索ともなれば、油断は出来ないが安全度合いは一人で探索するより断然高い。
いい方向に考えよう、でないとやってられない。
「光が許している以上、着いてくるのは勝手だが、自分の身は自分で守るんだな」
穂高さんはそう言い残して部隊の方へ戻っていく。
なんと言うか、見た目の割に律儀な人だ。
「順次ダンジョンに突入する」
話が終わるや否や、光の号令のもと順次転移ゲートで1階層へと移動を開始する。
他の探索者もいるが流石に割って入ろうとする人もおらず、若干パレード味すら帯びている中、俺も漆原さんに着いて転移陣をくぐった。
転移した先の風景に俺は少し驚く。
こういうダンジョンが日本にも数は少ないが存在すると聞いてはいたが、実際目の当たりにするとではこうも違うか。
「凄いな」
ある程度舗装された10m程の幅がある砂利道、頭上には空が広がり、左右にはまばらに植えられた松。
道はあるものの、所謂フィールド型のダンジョンだ。
「その反応、源志くんはこう言うタイプのダンジョンは初めてなんだね」
横にいた漆原さんが俺の反応を見て話しかけてくる。
「あぁ、こういうダンジョンがあるってのは聞いたことあったけど、日本のダンジョンの殆どが迷宮型だしな、本当にダンジョン内かと疑いたくなるな」
疑いたくはなるが、直感的にここがダンジョンだと言うことは理解できる。
なんと言うか、ダンジョン特有の雰囲気を感じるからだ。
「そっか、それなら警戒の仕方が今までのダンジョンと少し違うから、気をつけた方が良いよ」
「警戒の仕方?」
「例えばモンスターの殆どは左右の松林や上空から襲ってくるから、頭上の注意も怠れないとかね。ほら、噂をすれば」
漆原さんが指さす方向に目を向けると、青い空に黒い鳥のような何かが複数体羽ばたいている。
「モンスター、黒烏を確認!」
斥候部隊から声が上がる。
俺はその声に合わせて戦闘態勢をとるが、周りを見ると誰一人武器を取っていない。
「第2魔法隊、下級魔法用意!放て!!」
「「ファイアボール」」「「アクアスピア」」「「ウィンドカッター」」
穂高そんの号令と共に無数の魔法が上空に放たれ、一瞬にして元の青空へと変えられてしまった。
「これは……俺の出番は無さそうだな」
読んで頂きありがとうございます。
さあ、秩序之番人とのダンジョン攻略がついに始まりました。
源志くんは果たして消されずに生き残ることが出来るのか!?




