第73話 最強のお世話係?
「面倒なのに見つかっちゃった……」
隣で漆原さんがボソリと小さな声で呟いた。
「聞こえているぞ、漆原」
そう言いながら近づいてきた背の高い男性は、眼鏡を軽く上げながら呆れた表情をみせる。
俺はこの人を知っている。
漆原の所属するクラン《秩序之番人》のクランマスター。
名前は確か、風間 光
「明日からダンジョン攻略だ、移動の疲れを残さない為にも身体を休めるよう全体指示を出しているというのに、クランの顔でもあるお前が率先して破ってどうする、直ぐに部屋にもどれ」
淡々とした口調で漆原さんへ指示を出している。
助かったと思う反面、なんかモヤッとする。
ん?なんで今俺はモヤッとしたんだ?
「分かってるわよそんなこと、言われなくてももう戻ります。行こ、源志くん」
漆原さんはそういうと、すっと俺の手を取って歩き出す。
「うぇ?ちょっ、漆原さん?」
この流れでまだ俺を連れてこうとしますか貴女。
ちょっとというかかなりビックリなんですが。
「待て、誰だその男は」
まぁそうですよね、止めますよねそりゃ。
「源志くんだけど、それが?」
「それがもクソもあるか、いや待て……源志、等々力 源志か、なぜ貴様がここにいる」
何かこの人無駄に高圧的だな。
「熱田ダンジョン攻略のための拠点にホテルを探してただけです」
「そういう事、源志くんも明日からの探索に参加するから」
「え?」「なに!?」
どこからそんな話が湧いてでたんだ?
漆原さんの言葉に驚いて、俺も風間さんも声を上げる。
「何故貴様まで驚く」
「初耳だからですけど?」
風間さんは訝しげな目でこっちを見てくるが、そんな目で見られても困る。
「漆原、独断行動は弁えろと何度言えばわかる」
風間さんは眼鏡を外し、目頭を押さえている。
どうやらこれまでも相当振り回されていると見える。
「別にいいでしょ、源志くんは実力だってあるし、冒険者ランキングだって風間さんより上なんだから」
うーん、認めてくれるのは嬉しいが、正直俺のスキルを知らない人との行動は面倒だ。
今回はサクサク攻略を進めるために一視同仁を使っていくつもりだったしな。
「確かに俺の冒険者ランキングは6位、そいつの方が一つ上ではあるが、ランキングは指標にはなっても実力の証明にはならん。そもそも実力があったとして、そいつの参加はギルドメンバーの士気にも関わる。却下だ」
うん、まともな判断だな。
俺も正直クランレベルでの大規模な探索はしたことが無いから、どう動けばいいのかも分からずに足でまといになる可能性もある。
「分かった、じゃあ源志くんが風間さんと戦って勝ったら一緒探索する、これでどう?」
何が、これでどう?なんだ。
「はぁ、それでお前の気が収まるなら仕方がないか、着いてこい」
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ギルドのホテルには冒険者達が泊まることを想定して訓練場が設けられている所も多い。
特に大規模ダンジョンがある場所はそれなりに大きな施設が用意されている事がしばしばある。
「おいおい、なんの騒ぎだ?」
「何かランキング5位と6位が戦うらしいぞ」
「5位って!秩序之番人の明察者だろ!?」
「いや、少し前に一気にランキングをあげた奴が今は5位だから、明察者は6位だよ」
「5位って誰だっけ?」
「ほら確か厄災って呼ばれてる奴だよ」
何処から聞きつけたのか、訓練場が人でごったがえしている。
てか、やっぱりメディアの露出が殆ど無いからか、俺の知名度ってこんなもんなんだなと少し凹む。
ランキングに入ってるのに知る人ぞ知るって何だか歪だよな。
「若干騒ぎになってしまったが、まぁいいだろう」
戦闘訓練用の舞台の上で、風間さんと向かい合わせになり立っている。
「源志くん!本気でやんないと怒るからね!」
セコンドみたいな形で舞台の外から漆原さんが檄を飛ばしてくる。
本気でと言われても、こんな大勢の前でスキルを使う訳にも行かないし、生憎ガントレットもロッカーに預けたままだ。
「ギャウギャウ!」
漆原さんに抱きかかえられた空も応援してくれている。
他のランカーと訓練で戦える機会も滅多に無い。
ここは胸を借りるつもりで思いっきりいこう。
丁度試したい事もあるしな。
「行きます!」
「どこからでも掛かってこい」
どうせやれる事は限られている。
小手調べとか言わずに全力でいこう。
天明流の呼吸プラスKozakuraの柔軟性!
「似非天明流・旭日」
思いっきり踏み込み拳を放つが、その拳は簡単に避けられてしまう。
そう簡単には行かないか。
「なるほど、それなりには早いか。だが俺に攻撃を当てるのは漆原でも難儀する、貴様に当てられるかな?」
は?人類最速の漆原さんが攻撃を当てるのに難儀するってどんな回避性能だよ!冗談だろ?
「リテヌート」
風間さんがそう呟いた瞬間、一瞬身体が動かなくなるような錯覚に陥る。
「っ!?」
その瞬間に回し蹴りをくらい、無防備のまま地面を転がることになる。
なんだ今の、リテヌート?魔法か?それともスキルか?
伊達に秩序之番人のギルドマスターは務めていないわけだ。
これならあれを試すのにもってこいだな。
ゆっくりと深呼吸をし、掌の魔石に意識を集中させる。
胡貴の研究施設を借りて、あの日から何度も試し、何とか少しだけ扱えるようになった俺の新技。
「魂纏!!」
読んでいただきありがとうございます。
なんと言うかこういうランカー同士の戦いっていいですよね。




