第7話 最初の約束と卒業式
季節は過ぎて真冬の寒さも落ち着いてきた頃。
「そこまで」
師匠の声が稽古場に響く。
あれ程苦戦したユニークとも互角以上に渡り合えるようになった。
「今日の訓練はここまでだ。飯食って風呂入ったら早めに休め」
最初の2ヶ月以降、基礎訓練から応用や座学にシフトした。
ちなみに座学は何と光亮さんが教えてくれている。
色々為になりそうな雑学も混じえて教えてくれるので、中々面白い。
だから一応、死ぬほどキツい訓練は無くなっていたのだが、訓練自体は夜までびっしり、夕方で終わることは今まで無かった。
「何キョトンとした顔してんだ、ボーズは明日卒業式だろうがよ、晴れの日に遅刻なんざ洒落になんねぇぜ」
一瞬光亮さんの言っていることが理解出来ずにいた。
そういえば明日は3月1日、高校の卒業式だ。
「でも俺って卒業までの間ここから出れ無いんじゃ、てっきり卒業資格だけ貰うものかと」
そもそも、最後の半年間全く顔を出していない学校の卒業式に参加するってのは、何か変な感じがする。
「確かに卒業するまでここを出ることを禁止するとは言ったが、さすがに卒業式当日に外に出たから出禁だなんて鬼畜な事は言わねぇよ、こう言う節目の行事はちゃんと参加しとけ」
師匠はそう言って稽古場から出ていった。
どの道、卒業証書を取り行く必要はあったから、ついでに卒業式に出ておけばいいか。
その日は言われた通り早めに床につくことにした。
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冬の透き通る様な空気の中、俺は電車に揺られて久しぶりの学校へ向かった。
別に不登校だった訳では無いが、半年も時間が開けば気まずさも一入だ。
幸い教室までの道でクラスメイトに会うことは無かったが、だからこそ教室の扉が無駄に重く感じる。
意を決して扉開けると、騒がしい教室が少しだけ静かになり、こちらに気づいた数人がコソコソと喋っている。
気にしてもしょうがない。
俺は自分の席だった方へ視線を向けると、そこには別のクラスメイトが座っていた。
ともすれば席替えでもあったのだろう。
さて、どうしたものか。
「等々力くん、おはよう。えっと、久しぶりだね」
立ち止まっていると顔馴染みの女子が声をかけてきた。
「おはよう早瀬さん」
早瀬 結月さん、このクラスの委員長で、俺とは高校3年間同じクラスだったこともあり少しばかり話をする間柄だ。
「先生から聞いてるよ、急に学校に来なくなったからびっくりした」
早瀬さんは再会を喜んでくれているのか、そんな風にはにかむ様な笑顔を浮かべている。
なんかちょっと安心する。
「俺も休むつもりはなかったんだけど色々あって。ところで俺の席ってどこかな、前の席から変わってるみたいでさ」
どうもさっきから周りから好奇の目を向けられていて落ち着かない。
とりあえず座って落ち着きたいところだ。
「等々力くんの席なんだけど」
「ある訳ねぇだろ?てめぇみてぇなクソザコの席がよ」
早瀬さんの言葉を遮って、大きな声が聞こえてくる。
この声にも聞き覚えがある、面倒事の匂いがぷんぷんしてくる。
「あー、俺1度職員室に顔を出して来ようかな」
光亮さん曰く、こういう時は逃げるに限る。
「おいおい何無視してんだ雑魚のクセによ」
ズカズカと大柄の男子が近づいてくる。
確か名前は千國 琥翔だったか、こういう時『無視してないよ』何て否定すると、輩の思うつぼらしい。
「一緒に行くか千國?職員室」
光亮さん直伝、必殺会話不成立。
説明しよう、必殺会話不成立とは読んで字のごとく、会話を成立させないことで相手の戦意を喪失させることができるのだ。
「あ?行くわけねぇだろ」
千國の答えに俺はわざとらしく肩を竦めてみせる。
「そうか。早瀬さん、良かったら付き添い頼めるかな」
こう言えば自然に早瀬さんを教室の外に連れ出すことが出来る。
どうも教室内の雰囲気がおかしい、早瀬さんなら何か教えてくれるだろう。
「え、あ、うん」
急に話を振られて少しばかり動揺している早瀬さんと共に教室を出る。
すると教室内から机が倒れるような音が聞こえ、複数人の男子の宥めるような声が聞こえてくる。
「なんかあった感じ?」
職員室への道ながら、沈黙に耐えかねて俺は元々聞こうとしていたことを切り出してみる。
「千國くんも夏休みに冒険者登録をしに行って、ステータスが凄く高かったらしいの。でもあの素行だからか、弟子入りしても上手くいかなかったみたい。何人かに破門にされた所で噂が立って、結局師匠が見つから無かったらしくて。夏休み明けで学校に来たら、等々力くんの事を知って、その頃には冒険者界隈で君のステータスのことも少しだけ噂になってたから、多分それで」
早瀬さんのおかげで、何となく話が見えてきた。
俺は師匠を探すために何人もの人にステータスを見せたから、随分噂が広がっているようだ。
クラスメイトからの好奇の目はそのせいだろう。
千國が絡んで来たのも、自分よりも弱い俺が一丁前に師匠を見つけて、その上卒業式だけ参加しようとしているのが気に食わなかったのだろう。
なんとも傍迷惑な話だ。
「なるほど、教えてくれてありがとうな」
まぁ、適当な理由をつけて職員室に居させて貰って、卒業式が終わったらさっさと帰ればいいか。
「ううん、これくらい全然。そう言えばその、等々力くんは冒険者になれそう?」
少し遠慮がちに早瀬さんが問いかけてくる。
俺のステータスの噂が広まっているなら、聞きたくもなる質問だよな。
「ああ、何とかね。いい師匠……うん、いい師匠と出会えてさ」
日々の訓練を思い出し、ちょっと言い淀んでしまったが、普通に考えても間違いなくいい師匠だ。
実際、出会えてなければ俺は冒険者を諦めていただろうし。
「そっか、良かった。……信じて良かった」
ボソリと早瀬さんが呟くが、上手く聞き取れなかった。
聞き返してみるが、なんでもないとはぐらかされてしまう。
まぁ、こういう時は追求しても仕方ないか。
「職員室、着いたね。それじゃあまた」
最後まで早瀬さんは俯き加減なのが気になったが、まぁ、声はそこまで落ち込んでるって感じじゃないし大丈夫か。
「ああ、久々に話せて良かったよ、また」
そう言って挨拶を交わすと、早瀬さんはそそくさと離れていく。
ちょっと無理に連れ出したのが良くなかっただろうか。
などと考えていると、急に立ち止まりこちらを振り返る。
「多分、またすぐ会えるよ」
そんな風に笑いかけてくれる早瀬さんの笑顔に少しドキッとする。
何となく彼女の頬が赤らんで見えるのは気のせいだろうか。
俺が動揺していると、その内に早瀬さんは去ってしまう。
またすぐ会えるか、まぁ、うちの高校は割かし近所から通ってる人が多いから、たまにすれ違ったりとかはするかもな。
そんなこんなあって卒業式は無事に過ぎてゆき、帰り際にまた絡まれるかもと思っていたが、千國の方がすぐに帰っていたようで、肩透かしに終わった。
ちょうど良かったので仲の良かった友人何人かに挨拶をしてから、俺は帰路に着くことにした。
読んで頂きありがとうございます。
いやはや、いい感じの子が出てきましたな。
直ぐ会えるってのはどう言うことなのか。
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