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第67話 最たる願い

 橙織姫の周りに勢いよく水が流れ込む。


 その奔流は渦を巻きながら天高く舞い上がり、絶望へと姿を変えてゆく。


 螺旋は収縮し、徐々にその姿を顕す。


 それは古来より超自然的な力そのものとして描かれる存在であり、蛇のように長い体は透明な鱗を煌々と輝かせ、鹿のような立派な角を持ち、髭をたなびかせる。


 龍だ。


 日本では水や天候を司る神として知られている。

 まさに他のモンスターとは格が違う存在。


 あぁ、そうか。

 織姫は私たちがその名を聞き取れなかっただけだ。


「こんなの、どうしたらいいの」


 あまりの事に弱音が口からこぼれ落ちる。


「ははっ、龍ですか、存在はするのではと言われていましたが、私も初めて見ましたよ。流石にこれはどうしようも無いかもしれませんね」


 小森(こもり)先生も初めて見たと言うように、龍は伝説上の生き物として知られてはいるが、その姿をダンジョン内で目撃したという話は聞いたことがない。


 強さは完全に未知数。


 しかし大天狗や鬼の強さから考えると、その強さは言うまでもない。


 それに比べてこっちはまともに戦えるのは小森先生くらい。

 吉原(よしわら)くんと私は完全に戦力外でしかない。


 ……逃げたい。


 何もかもかなぐりすてて逃げてしまいたい。


 もう無理だよ。

 勝てっこない。


「吉原さん、早瀬(はやせ)さん、私が何とか時間を稼ぎます、その内に逃げなさい。誰かがこのことを伝えなければ、こうなった以上全滅だけは避けないと行けません」


 そうだ、厳島ダンジョンに龍がでるとギルドへ誰かが報告しないと、次の被害者が出てしまう。

 そう、私は生きないと駄目なんだ。

 逃げて良いんだ。


「んな事出来るわけないだろ!さっきは俺がいても足手まといだった!俺が逃げる事で他の奴らも逃げられる可能性があった!だから逃げた!でも今は違ぇ!こいつらを、源志(げんし)を見殺しにするくらいなら!ここで一緒に死んでやらぁ!!」


 どうして、そんなことが言えるんだろう。

 吉原くんは死ぬのが怖くないの?


「吉原さん、君の魔導技術はきっとこれからも多くの人々を救うでしょう。だから逃げなさい」


「あ?俺は落ちこぼれなんだろ?」


「そう言えば、初日にそんな事を言ってしまいましたね。ここ数日の探索の様子を見ていれば分かります、落ちこぼれなわけが無い。今はしっかりとあなた方の資料に目を通し直しましたので分かっています。すみませんでした。」


 吉原くんがその言葉をきいて、悔しそうに舌打ちをする。


「さぁ!行きなさい!」


 先生が龍へと走りよる。

 そして一閃。

 攻撃は無慈悲にも硬い鱗に阻まれる。


 そして一撫で、ただ尻尾でそっと撫でられただけで、先生は私達より遥か後方へと吹き飛ばされた。


 駄目だ、最初から逃げれるわけも無かった。


 死ぬんだ。


 ここで。


 龍は身体を大きくうねらせながら、次の獲物へと狙いを定める。


 その矛先を向けられたのは、もう倒れて動かなくなっている等々力(とどろき)くんだ。


「いや……止めて」


 高校の頃の思い出が蘇る。


 入学式の日から等々力くんは少し浮いていた。

 冒険者になると高らかに宣言し、皆に笑われていた。

 冒険者なんてステータスに依存する職業だ。

 ステータスもまだ分かっていない段階で冒険者を目指している人は殆どいない。


 だけどそんな嘲笑を彼は一切気にすることも無く。

 ただひたすらに努力を続けた。


 そんな姿が眩しくて、いつも目で追うようになって、何時しか私は、彼に恋をしていた。


 彼がレベル1だったという噂が流れてきても、私は、私だけは等々力くんを信じた。

 レベル1でもきっと、等々力くんは東冒大に入学するって。

 そして本当に等々力くんは努力して東冒大へと入学してしまった。


 信じてよかったと思った、これで彼の努力をまた傍で見ることができると嬉しくなった。


 けれど私は弱かった。


 サポートスキルは発現しても、肝心の攻撃スキルが一向に現れない。


 攻撃出来なければレベルは殆ど上がらない。

 私は直ぐに落ちこぼれになってしまった。


 冒険者ランキングを駆け上がっていく等々力くんとは大違いだ。


「等々力は……凄いの……私とは違う。こんな所で死んでいい訳ない!死なせていいわけないの!!私の好きな人を!殺さないでよ!!!」


 吉原くんに選んでもらった新たな武器、私に合うようにチューニングされた魔導ライフルの引き金を何度も引く。


 魔石の魔力が尽きる度に、ここに来るまでドロップした魔石を全部使って、何度も何度も何度も魔力弾を龍へと打ち込む。


 しかし、龍は何事もないかのように等々力くんへと近づいていく。


「嫌だ、嫌だよこんなの……どうして止まってくれないの……どうして効かないの。誰か、助けてよ、(そら)ちゃん、千國(せんごく)くん、天明(てんめい)さん、小森先生、誰でもいいから、等々力くんを助けてよ」


『お願いします。私の大好きな人を、助けて!!』


『その思い、しかとこの魂に刻みつけた』


 何処からか声が響いた気がした。


 それは私があまりにも懇願したことで聞こえた幻聴だろうか?


 それとも、私のスキルに誰かが反応したのだろうか?


 周囲を伺っても誰も居ない。


『ここです、私も……大好きな人を助けたい』

読んで頂きありがとうございます!


早瀬さん!頑張った!

多分恋って人を変える力があると思うんですよね。

変わろうと変わりたいと願う気持ちは、きっと奇跡を起こす。

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