第65話 最早手遅れな状況
「嘘……でしょ」
早瀬さんがあまりの絶望的な状況にへたり込む。
無理もない、可能性はあると思っていたが実際に見るのとではやはり違う。
水織姫によって作られた核を中心に水が形を作り色付く。
橙色の着物を着た、橙織姫とでも呼ぶべき存在が姿を現す。
戦力差は歴然。
千國は傷こそ塞がったものの、意識は戻っていない。
「₪ **Я▢∈$≦@Щ⊂∞・:#」
「⊂▢*≦*・#:@ξ&▢∈・⊂≦∞#*&:$*⊂∞#Я₪ "」
「:・∈*´.。´#Щ:→б☆ю→<>」
この状況を乗り切る打開策、考えろ。
幸い相手は何か話し込ん出て襲ってこない。
「……撤退する」
今思えば、もっと早く決断するべきだった。
俺達なら大丈夫だという傲りがどこかにあった気がする。
まだ間に合うだろうか、逃がしてくれるだろうか。
ここで逃げられさえすれば、次の攻略時には通常の川姫に戻っているかもしれない。
「俺が殿をする、空は重いかもしれないが千國を頼む」
空からサブナイフを回収し、両手にナイフを持って構える。
「等々力くん?」
急にどうしたのかとばかりに早瀬さんが俺の顔色を伺っている。
「早瀬さんも早く立って、今回の試験内容は一週間以内にこのダンジョンを攻略することで、一度も撤退が許されてないわけじゃない、生き延びさえすればチャンスはある」
「そうじゃなくて、1人じゃ無理だよ」
「何とかなるさ」
根拠なんてどこにも無い、強いて挙げるとすれば相手が何かしら俺に執着していそうということくらいだろうか。
「全員撤退!」
この状況じゃ仕方ないと思ってくれたのか、早瀬さんもゆっくりと後退してくれる。
空も一生懸命千國を引き摺って運んでくれている。
「#"・₪ ▢&≦*∞*@」
どこに行こうというの?
そんな風に言っているように聴こえた。
その言葉と同時に水織姫がこちらに手をかざすと、どこからともなく現れた水瓶から水弾が放たれる。
躱すと後ろが危ない、迎え撃つ。
そう思って咄嗟にナイフで水弾に応戦する。
「ッ!」
余りの威力にナイフが弾き飛ばされる。
サブナイフを回収しておいて良かった、織姫達相手に武器無しは絶望的過ぎるからな。
「&б"₪ .Я∈:」
またも水弾が放たれる、さっきより小さくて早い、しかもこれは!
手元からサブナイフが弾き飛ばされる。
完全に武器を狙ってきた。
武器が無くなれば何もできないと分かっているのか。
まともに殿すら務められないのか俺は。
水織姫の掌はまだ俺へ向けられている、どうやらここまでのようだ。
せめて、皆は逃げてくれ!
「空ちゃん!!」
放たれた水弾が俺を撃ち抜く刹那、早瀬さんの声がしたかと思うと身体に衝撃が走る。
「ギャッ!」
俺の目の前で、空が水弾に撃ち抜かれる。
嘘だろ?だって空は千國を咥えて運んでいて、そりゃ、俺は殆ど時間を稼げてないけど、だって、駄目だろ。
空が俺の代わりに傷付いたら、何のために俺は!
「空っ!!」
ぐったりと倒れた空に駆け寄る、早く回復薬を飲ませないと!
回復薬は……無いんだった。
「ああクソ!!なんだこれ!何だよクソが!!」
自分の不甲斐なさに腹が立つ、空をこんな風にしたヤツらに俺は何も出来ないのか?
腸が煮えくり返る。
感情が抑えられない。
「俺の……オレ……ワタ……」
右手が熱い、怒りが伝わってくる。
聴こえてくる。
カワレ。
カワレ。
……カワレ!!
「ワタシノムスメニナニヲスル!!!」
そこで俺の意識は途切れる。
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「ワタシノムスメニナニヲスル!!!」
喉から発せられているとは思えないほど、恨みの籠った音。
等々力くんなの?
見る見るうちに等々力くんの体が白と黒の毛で覆われていく。
その模様はまるで空ちゃん見たいだ。
「ガルァァァアアア!!!」
等々力くんの咆哮を聞いて足が竦む。
まるで本当の虎の鳴き声の様だ、弱者を屈服させ萎縮させる。
「え?」
次の瞬間には信じられない光景が目に映る。
水織姫の四肢が一瞬にして消し飛ばされている。
余裕綽々だった織姫達の表情が変わった。
『こ……愚……ざい……!』
やっぱりダメ、織姫達の心を読もうと試してみてはいるけど、ノイズが酷くて聞き取れない。
四肢を消し飛ばされた水織姫の周りに水が集まり、少しづつ回復しているように見える。
他の織姫2人は等々力くんに攻撃し始めるが、等々力くんはいとも容易くその攻撃を避けていた。
等々力くんが強いのは知っている、けれど何かおかしな事が起きているのは確かだ。
さっきまで強く繋がっていた等々力くんとのパスが切れた感覚が分かる。
正確には、切れたことで分かるようになった。
「ガァァァ!!」
等々力くんの声と共に金属が砕けるような音が響く。
水織姫は淡い光を放ち消えていく。
速すぎて目で追えなかったけど、どうやら水織姫を倒したようだ。
って、いつまでも等々力くんの戦いに見とれている場合じゃなかった。
「空ちゃん!大丈夫?」
回復薬は無いけど、せめて簡単な手当だけはしないと。
そう思って私は空ちゃんの元へと駆け寄る。
体に触れてみるとゆっくりだけど動いているのが分かる。
良かった、気絶しているだけみたい。
そっと空ちゃんを抱えようとした時、私は自分がミスをおかしたことに気がつく。
それはそうだ。
空ちゃんを連れ去ろうとする人間を等々力くんが許すわけなかった。
「ガルァァアアア!!」
あっ、私……死んだかも。
読んで頂きありがとうございます!
空ちゃんを傷つけたくない!傷つけたくない感ががががが。




