第64話 最後の回復薬
「強すぎんだろ」
攻撃に転じた緑織姫の強さは尋常じゃない。
一撃一撃が致命傷になると分かるほどの威力。
そんな攻撃が死角から確実に急所を狙って飛んでくる。
霧になった姿を目で追いかけ、戻る瞬間を予測し、その上で急所狙いだとわかっているから辛うじて対処出来ているものの、いなしきれずにダメージは負わされる。
手持ちの最後の回復タブレットを取り出して口に含み、苦味を我慢しながらゆっくり口の中で溶かしていく。
苦いが文句は言っていられない。
戦いながら後方支援の2人から回復薬を補充しているが、それもそろそろ尽きかけてきた、少しも無駄に出来ない。
「千國くん、右前方10m!」
早瀬さんの声が響いている。
どうやら千國は早瀬さんの指示で戦っているようだ。
攻撃は受けている様だけど、こちらと違って相手にも確実にダメージを与えている。
千國が勝つのは時間の問題だろう。
「ギャウ!」
問題はこっちだ。
正直空のおかげで何とかなってるだけだ。
空がスピードで翻弄してくれているのに、肝心の攻撃役である俺に火力が足りない。
俺が気を引いて空に攻撃させたいが、それもスピード不足でって、俺完全に足手まといだな。
スキルを使うか?
でもこの状況で急に緑織姫が弱くなったら、流石に引率の教員に不審に思われるよな。
背に腹はかえられ無いか。
一応チラッと師匠の方を見ると、お前嘘だろ?って顔で見られた。
うん、やっぱり使うのは無しだな。
多分俺と空だけで何とかなるって事なんだろう。
考えろ、考えろ、何がある。
スキルのない俺に出来ること。
天明流の呼吸がそこそこ、Kozakuraの柔軟性がそこそこ、光亮さんから教わった知識、大学の授業、空との信頼、近くで見た漆原の戦い方。
あるもの全部使って勝つ、意地を見せろ等々力源志!
「空!俺が隙を作る!」
「ギャ!」
緑織姫との距離を詰める。
どことなく小馬鹿にしたような雰囲気にイラッとするが、冷静に呼吸を整える。
こっちだって毎日毎日欠かさず呼吸の練習をしてんだよ、才能は無くても多少は身につく。
俺の努力を舐めるなよ!
少しでも早く少しでも長く少しでも多く、一呼吸での酸素供給量をあげる、擬似的に天明流の呼吸の最高状態へと持っていく。
そんでKozakuraの柔軟性があれば、肉体の可動域ギリギリを使って速度をませる。
光亮さんから教えてもらった目線の誘導、相手を睨みつけている状態から、一瞬だけ空の方へ。
空は脅威だ、あんたも見るよな?
人型である以上視界も人型と同じ、死角はある。
「似非天明流!白夜!!」
一撃目の攻撃が避けられる、だが体勢は崩した!
白夜は一撃目の攻撃の勢いをそのまま次の攻撃に載せる技、若干理論は違うが、身体の柔軟性を活かして振り子の様に次の攻撃、次の攻撃と速度と威力を増していく。
当たる!
そう思った瞬間、緑織姫が霧化して回避してくる。
まだだ、今までの傾向から次に移動する場所を予測しろ、勘でも何でも良い。
似非天明流は呼吸に負担がかかる、連続で技を繰り出せるのはあと1回。
思い出せ、最速の動き、踏み込み、霧から戻る!
「似非天明流、旭日!」
全身のバネを完璧に連動させる、俺の記憶に鮮明に残る、最速の一撃!
タイミングドンピシャ!いける、当たれ!!
渾身の一撃は空気を揺らし、緑織姫のギリギリを掠めていく。
息がッ!限界の肺に一気に空気が流れ込み、身体の力が抜けていく。
だけど。
「ギャウギャウギャ、ギャウギャウ!!」
完全にこちらに気を取られた緑織姫の核に、空の渾身の一撃が叩き込まれる。
物凄い音を響かせながら緑織姫が吹っ飛んでいく。
「ナイス空!って、さっき殴って無かったか!?直接触ったら何が起きるか!」
「ギャ」
俺が焦っていると空はひょこっと立ち上がり、ナイフを握りしめた右手をこちらに見せてくれる。
……え?空さんって道具掴めたの?
あっ、よく見たら親指で器用に支えてる。
そうか、空は人間と白虎の特徴を兼ね備えてるから、道具も持てるのか。
「って感心してる場合じゃなかった、織姫は」
緑織姫が吹っ飛んで水柱が上がった方を確認する。
若干霧がかってしまってどうなったかよく見えない。
徐々に霧が晴れていくが、緑織姫の姿が何処にもない。
あの一撃で倒せた、のか?
それにしては消滅の時の光が無かったような。
「千國くん!!」
早瀬さんの声を聞いて千國の方を急いで確認する。
そこには緑織姫の腕に腹を貫かれた千國がいた。
「千國!!」
俺は急いで千國の方へ駆け寄る。
俺たちが来るのを見て緑織姫と水織姫は顔を見合わせると、千國をその場に置いて少し離れていく。
どういう事だ?罠か?
何だっていい、取り敢えず千國を何とかしないと!
「早瀬さん、回復薬は?」
千國を抱えながら、同じく駆け寄ってきていた早瀬さんに声をかける。
「ポーション、最後の一本だから、完全には回復しないと思う」
それでも飲ませなかったら死んでしまう。
何より千國なしでこの戦況が乗り越えられるわけが無い。
俺は迷わず早瀬さんからポーションを受け取ると、ゆっくり千國の喉へと流し込んでいく。
傷口が淡く光って塞がっていく、しかし、ただ塞がっただけでそれほど回復はしていないだろう。
「おい、源志、まずいぞあれ」
胡貴がヤバい顔でどこかを指さしている。
その指の先に目をやると、水織姫が何やら近くの水を集めて核の様なものを作っていた。
核の様なもの、違う、あれは、核そのもの。
「やっぱり、まだ増えるのかよ」
読んで頂きありがとうございます。
起死回生の一撃、それでも届かない絶望。
万事休すか?それでも、源志達は諦めない。




