第61話 最下層の揺らぎ
「どうかな早瀬さん」
翌日になり、再度4階層を進み最下層へと続く階段の前までたどり着く。
「大丈夫そう。等々力くんの読み通り、やっぱり敵意感知の影響だったみたい」
昨夜皆に俺の懸念を伝え、早瀬さんには階段の近くでは敵意感知のスキルを使わないように指示をしておいた。
その結果、階段にたどり着いても昨日のように苦しむ様子はない。
「皆、やっぱり昨日話した通り、この先にはそれだけの敵がいるみたいだ、覚悟して進もう。」
俺の言葉に全員が無言で頷いた。
階段を降りていくにつれ、心のざわつきが大きくなっていくのを感じる。
どうも今までとは何となく違う気がする。
東御ダンジョンで最下層は経験しているが、その時はここまでの嫌な感じはしなかった。
それだけ厳島ダンジョンのボスは強いということなのだろうか。
「何だが神秘的な雰囲気の場所だな」
ひび割れた石段を一段ずつ降りるたび、足元からひんやりとした冷気が立ち上ってくる。
壁の上の方には縄が掛かっており、そこから何やら白い紙が微かに揺らめいている。
確かに神秘的と言われればそんな感じがする。
「まさか胡貴から神秘的なんて言葉が飛び出してくるとは」
「あ?俺が言っちゃ悪りぃかよ」
俺が驚くと胡貴が若干不機嫌そうな声色で答える。
「等々力くんの言いたいこともわかるかも、吉原くんって神秘的とは一番対極にいるような人な気がするし」
俺たちのやり取りを聞いて、早瀬さんが同意してくれる。
胡貴は科学を極めすぎてて数字以外何も信じていなさそうな気がするんだよな。
「神秘的って表現はあながち間違いじゃねぇがな」
胡貴が何か言いたそうな顔をしたが、意外にも千國がそんなことを言い始める。
「と、言いますと?」
「100年前とかのダンジョンがない頃には、こういう雰囲気の場所が日本中に点在してたらしい。そういう場所では色々祀ったりしてたとかなんとか、まぁ、たまたま人から聞いただけだから本当か嘘かは知らねぇがな」
何とも不思議な話だ、ダンジョンのない頃にもダンジョンの様な雰囲気の場所があった?
いや、ダンジョンが寧ろ真似をしているのか。
そんな事を話しながらも警戒は怠らずに降りていくと、不思議な広い空間にたどり着く。
どうやら最下層にたどり着いたらしい。
足を踏み入れた途端、壁沿いに並ぶ人の背丈程度に石が積まれた塔に火が灯る。
石が敷かれた道の先には、何やら大きな板を2本の柱で支えられた巨大な門の様な建造物が鎮座し、その手前には獅子を象っているような2匹の像が、何かを守るようにして並べられている。
何故だろうか?あれを潜ってはいけない気がする。
あれは多分、俺たちのための入口じゃない。
「皆、何となく嫌な予感がする。道から逸れて進もう」
他のメンバーはあまり感じていない様子だったが、俺が言うならと一応建造物の横を通り抜けて進む。
「ギャウゥゥゥ……」
しばらく進むと空が急に立ち止まり、何もいない場所に向かって唸り声をあげる。
「空ちゃんが何かあそこにいるって、皆警戒して!」
早瀬さんに言われ俺もナイフを構え直し、空が唸る先を見据える。
空間が揺らぎ、その場所にだけ霧が立ち込める。
それは徐々に人の形を成していき、青色の着物を着た女性が現れる。
その顔には影がかかり、表情を確認することは出来ない。
だが何故だろうか、何となく、俺を見て……微笑んだ?
そんな不思議な感覚に陥った瞬間だった。
俺の心が叫ぶ。
あれはヤバい!!!
相手から伝わってくる圧倒的な存在感に押しつぶされそうになる。
格が違う。
間違いなくあれは出会っては行けない存在だ。
何かおかしい事が起きている。
元々聞いていた情報ではボスは3体存在するはずだが、目の前にいるのは1◻︎だけだ。
何だ?何が起きてる?
ここにいるボスは、川姫と言う精気を吸い取ってくる厄介なモンスターが3体のはず。
だけど何となく分かる、この御方は川姫では無い。
兎に角、今は目の前の敵に集中しなければ。
圧倒的な存在感に震える身体を止めるため深呼吸をする。
「皆、何かイレギュラーな事が起こってることは確かだ、でも頑張ろう。」
気の利いた事は言えないが、俺の言葉で皆も決意を固める。
多分逃げられない、戦うしか道は残されていない。
「ハッ!言われなくても分かってんだよ、悪鬼羅刹!!」
千國の身体が瞬時に鬼へと変貌し、敵に向かって走り出す。
「クラフト"金棒"!くらいやがれ!!」
続けざまにスキルを発動し、手元に現れた金棒を握りしめ、思いっきり振り抜く。
だがその攻撃は相手の身体をすり抜け、まるでダメージが通っていないようだ。
「@#uf'?……Я∞#……我……₪ おり姫@≦:&$」
!!
喋った?
「等々力くん、今、織姫って名乗らなかった?」
「分からない」
くそ、分からないことが多すぎる。
織姫?確かにそんな風に聞こえたような気もするが。
それより、千國の攻撃がすり抜けた方がヤバい。
「空!千國に加勢をするぞ、強さが分からない、攻撃は極力避けるように」
空に指示を出しながら織姫へと走りよる。
相手の攻撃を警戒しながらも、すれ違うようにしてナイフで一閃。
何だ?斬った手応えが全くない。
ナイフを見ると若干湿っているようにも見える。
まさか、身体が水でできているのか?
物理無効か?いや、切り裂いた場所から少しだが水が流れたような痕がある。
攻撃を続ければ、いずれは倒せるはずだ。
だが、何でさっきから織姫は攻撃してこないんだ?
読んで頂きありがとうございます。
厳島ダンジョン最下層到着、何やらやばい事になっているようですね。
※直接的な表現は避けたつもりですが、一応補足しておきます。
この作品は小説家になろう様の注意書きの通りあくまでフィクションです。
50年前にダンジョンが出現して分岐した世界という感じで書いていますが、あくまでもファンタジーとしてお楽しみください。




