第60話 最下層への道
「今日は4階層攻略だな。で、なんでこいつはへばってんだ?」
ダンジョンの入口で千國が身体を解しながら疑問をぶつけてくる。
「まぁ、羽目を外しすぎたって訳じゃねぇのは確かだな」
「大丈夫?等々力くん。昨日一日中修行してたって聞いたけど」
「ギャウギャウ」
他の皆は心配してくれている様で、空も労うように足をふみふみしてくれる。
空だって昨日は修行で大変だったろうに、いい子だなぁ。
「変な事してねぇでさっさと行くぞ」
千國がそれだけ言ってさっさと転移陣で移動してしまう。
相変わらず可愛げが無いぜ、まぁ可愛げを出されても反応に困るけどな。
△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼
4階層まではすぐにたどり着いた。
斥候を空、前衛を千國と俺、索敵と後方支援の早瀬さん、そしてそのサポートを胡貴。
最早このパーティでの探索も慣れたもので、いい感じの緊張感を持って探索ができている。
「前方から敵の反応、結構強そうだよ」
早瀬さんの索敵も完璧で、直ぐに全員警戒態勢を摂る。
威嚇するかの様な唸り声を上げながら、角の生えた熊がゆっくりと近づいてくる。
「鬼熊だ!かなりパワーがある。千國以外は気をつけろ」
鬼熊はその巨体と剛腕で、巨大な岩をも容易く動かす怪力を持つモンスターだ。
鬼化した千國なら兎も角、他のメンバーは一撃食らうだけでも致命傷になりかねない。
「テメェも下がってていいんだぜ?ヘロヘロ野郎」
畜生腹立つ!
けど昨日の訓練後から身体に上手く力が入らないから助かるは助かるんだよな。
言い方があるだろ!とは思うが。
千國が鬼化して突っ込んでいくと、鬼熊も吠えながら走り出す。
2人がぶつかり合うと、物凄い衝突音が響く。
「どんなパワーでぶつかったらあんな音が出んだよ」
胡貴が耳を押えながらボヤいている。
そう言いたくなるのも分かる。
何も知らない人が聞いたらどこかで事故でも起きたのかと勘違いしそうな音だ。
「うおりゃァァア!!」
しばらく相撲でもするかのように取っ組み合ったかと思うと、気合いの咆哮を上げて千國が鬼熊を投げ飛ばす。
正直信じられない。
早瀬さんも驚きすぎて目を丸くしている。
「等々力くん、鬼熊って相当強い筈だよね」
「ああ、でも千國の方が鬼としての格が上みたいだな」
どうやら1日休んだことで千國は絶好調、鬼熊程度軽くあしらえてしまうらしい。
とは言っても流石に鬼熊もタフな様で、投げ飛ばされても直ぐに立ち上がる。
が、先程とは違って随分と警戒している。
流石に下層のモンスター、知能もかなり高いようだ。
「来ねぇならこっちから行くぞ」
千國が鬼熊に向かって走り出し、その勢いのまま殴り掛かる。
しかし、その拳は空を切り、鬼熊が千國の股をくぐり抜けこちらに走り寄ってくる。
「ッ!スキルかよ」
「嘘!小さくなった!?」
千國を交わした鬼熊は直ぐにまた大きくなり、勢いのまま突っ込んでくる。
どうやら千國を脅威と捉え、先にこちらを潰しに来たようだ。
「舐められたもんだな」
俺はナイフを構えるが、やはり上手く力が入らない。
クソっ、関節が緩くなりすぎて骨が無くなったみたいだ。
仕方ない、こうなったらカウンターを狙うしかない。
タイミングを合わせて1歩、前に踏み出した途端、いつも以上に股が開いてバランスが崩れる。
不味い!
これマジで死ぬ!
鬼熊の拳が俺を捉え、身体にめり込んでいく。
「等々力くん!」
早瀬さんの声が聞こえた。
自分が注意を促しておいて、まさか足を滑らすなんて、そんなくだらない死因があるかよ。
「このクソ熊が!」
何とかナイフで目を切りつけると、鬼熊は怯んで距離を取ってくれる。
「源志、すぐ回復薬を」
慌てた様子で胡貴が回復薬を渡してくる。
「あ、いや、大丈夫みたいだ」
「大丈夫ってそんな訳ねぇだろ!鬼熊にぶん殴られたんだぞ」
「いや、だから、怪我はしてないって」
鬼熊に殴られた箇所にはかすり傷ひとつ無い。
「は?」
胡貴が困惑しているが、俺も驚いている。
今のは昨日一日中身体に叩き込まれたKozakuraの動きだ。
意識した訳じゃない、昨日の修行でたまたま身体に力が入らず、関節がゆるゆるになっていたおかげで助かった。
「話は後だ、まだ敵は倒せてない」
鬼熊が怒った様子でこちらを睨みつけてくる。
だけどあんな一発芸のようなスキルはもう通用しない。
あとは俺たちに一方的に蹂躙され、鬼熊は呆気なく倒れた。
「等々力くん、本当に大丈夫なの?」
戦闘後、探索を再開しながら早瀬さんが心配そうに声をかけてくれる。
「心配してくれありがとな、けど本当に大丈夫だ。なんと言うか、あれで上手く避けれてるんだ」
今回は無意識でたまたま避けれただけだが、実際Kozakuraの凄さが体感できたのは僥倖だ。
「そっか、良かった」
それからも鬼熊に何度か遭遇したが、特に苦戦することもなく先に進むことが出来た。
そして。
「ここが最下層に続く階段か」
何となく今までの階段とは雰囲気が違う気がする。
まるで全てを飲み込むような重い空気に心がザワつく。
「早瀬、大丈夫か!」
急に胡貴のそんな声が響く。
振り返ると早瀬さんが苦しそうに蹲っていた。
「早瀬さん!どうした!?胡貴、何があった!」
「分からねぇ、階段に近づいたら急に苦しみ出した」
「……ごめんなさい、なんだか急に……苦しくなって」
早瀬さんが苦しそうに言葉を紡ぐ。
「喋らなくていい、取り敢えずこの場から離れよう」
俺は倒れた早瀬さんを抱き抱えて急いでその場を離れる。
「……!?と、等々力くん!?」
名前を呼ばれて、早瀬さんの顔を見ると真っ赤になっている。
随分と苦しそうだ、早くこの場を離れよう。
取り敢えず先に見つけていた転移陣の前まで退避してきた。
「……ありがとう、等々力くん、もう大丈夫だから」
何やら慌てた様子で早瀬さんが腕から飛び降りる。
「大丈夫か、まだ顔が赤いし、無理しない方がいいぞ」
『お、お姫様抱っこっ!!等々力くん、急に心臓に悪いよ!』
早瀬さんの心の声が聞こえてくる。
あ。
あー、そういう事か。
「その、すまん早瀬さん、無意識だ」
「ううん、良いの、その、ありがとう」
心の声が聞こえてしまったと分かった様で、早瀬さんはさらに顔を赤くしている。
なんとも言えない空気になってしまった。
「ちっ、興が冷めちまった。今日はここまでだ」
千國がそういうとさっさと転移陣を使って帰ってしまう。
「取り敢えず俺達も帰ろう、早瀬さんの状態も心配だ。最下層の攻略は明日にしよう」
「ごめんなさい、私のせいで」
「どの道元々の予定でも攻略は明日だったんだ、気にしなくて大丈夫だ」
こうして俺達は転移陣を使って帰ることにした。
しかし、俺は少しだけ嫌な予感がしていた。
最下層には、早瀬さんが倒れてしまうほどの敵意を持った奴が待ち受けているのか?
読んで頂きありがとうございます。
次週、最下層攻略!
果たしてどんな敵が待ち受けているのか。




