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第6話 最弱のモンスター

「おら!気を抜くなよ!」


 師匠の拳が腹に深々と刺さり、体は後方に弾き飛ばされる。


 しかし、もう血反吐はぶちまけない。

 師匠の拳はしっかり掌で受け、攻撃の流れに身を任せ自ら後ろへ飛び退いたからだ。


 俺は受身を取ると、直ぐに師匠へ目を向ける。

 師匠も攻撃の違和感には気づいてるはず、必ず追撃をしてくる。

 だから、俺はそこへ左拳を置いておけばいい。


 師匠の視線の直線上に置くことで、拳の距離を錯覚させる。

 こういう場合、距離を図るために左手で攻撃してくるだろう。

 俺の拳を避けるために体は右に傾き死角が出来る。


 ここまでお膳立てが出来れば、いくら早い師匠の攻撃でも避ける事は容易、どころか反撃ができる。


 師匠の拳を掴むと、勢いに負けて体が流れる。

 それを利用し蹴りを放つ、完璧に捉えた。


 そう思ったのだが、俺の蹴りを師匠は軽々と掴んでみせる。

 そしてそのまま俺の体は持ち上げられ、勢いよく背中から叩き落とされる。


「ゴフッ!」


 背中を強打し肺の空気が抜ける、衝撃とともに体の中で弾けるような嫌な音が響き、下半身の感覚が無くなった。


「一丁前に反撃が出来るようになって来たがまだまだだな。まぁだが、2ヶ月間耐えた事は褒めてやるよ」


 師匠に褒められるなんて、明日は雨だろうか。

 それにしても、2ヶ月も経ったのか。

 キツかったが、振り返ってみればあっという間の出来事だった。


「明日からは応用訓練を始める、ストレッチしてしっかり休んどけよ」


 師匠は俺の口に回復薬を突っ込むと、稽古場から出ていく。


 俺は起き上がると師匠に言われた通りストレッチをはじめた。


 少し伸ばそうとするだけで体は悲鳴をあげるが、ストレッチをしないと明日酷いことになるのは目に見えている。


「2ヶ月か。師匠としか戦ってないせいで全然強くなった実感がないんだよな。ちょっと引き締まったのは分かるけど、見た目もそこまで変わってないし」


 腕を触ってみると確かに筋肉はついているが、腕の太さは何なら細くなっているくらいな気がする。


 そう言えば師匠の腕も細いが、ゴリラ以上にパワーがある。

 確か師匠はレベル99だと何かの雑誌で見た覚えがある。

 やはりステータスの差は中々埋められないのだろう。


 そんな事を考えながらストレッチを終え、今日はもう休むことにした。



 △ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼



 今日も今日とて腹がはち切れそうになる朝食を済ませた1時間後。


 珍しく最初から稽古場に呼ばれていた。


 稽古場に入ると師匠の横に見覚えのある人が立っている。


 金髪オールバックにグラサンの男。

 ギルドで話しかけてきた人だ。


「おいおいマジかよ、レベル上限1のボーズじゃねぇか。なるほど、それで俺が呼ばれたって訳か」


 金髪男はパチンと指を鳴らすと、合点がいったとばかりに俺を指差してくる。


「師匠、この方は?」


 初めて会った時もそうだが、この人からは胡散臭さしか感じない。

 とはいえ、この人が紹介してくれなければ、今こうして師匠に師事を仰げてなかったのも事実。

 そう考えると、そんなに悪い人では無いのだろう。


「俺は御子神 光亮(みこがみ こうすけ)ってんだよろしくな、光亮さんとでも呼ぶといい。しかし、まさか2ヶ月も姐さんの修行に耐えれる奴が居るなんて、お前もしかしてドMってやつか?」


 さっきのは無しだ、やっぱりこの人はダメな人かもしれない。

 俺のどこがドMだって言うんだよ。


「こいつは馬鹿だが使える奴だ、便利屋とでも思って一応仲良くしておけ」


 俺の心を見透かしたかのように、師匠はそう言ってのける。

 しかし便利屋と言われてもピンと来ない、まさか今日はこの人が訓練の相手ということだろうか。


「ひでぇぜ姐さん。だがまぁ、俺と仲良くしといた方が良いってのは事実だと思うぜ?」


 そう言うと胸ポケットから何やら三角錐の小さなガラスを取り出す。

 水色をしたそれは、よく見ると中に何か入っているようだった。


挿絵(By みてみん)


「これまでの総仕上げとして、今日はモンスターと戦ってもらう。だがお前をダンジョンに行かせる訳には行かない、そこで使えるのがコイツのスキルだ」


 師匠がそう言いながら指示を出すと、光亮さんは水色のガラスを地面に投げ落とす。


 ガラスが割れると共に、中に入っていた物が徐々に大きくなり、禍々しい姿を現す。


 緑色の皮膚をし、二足歩行、両腕は地面につきそうなほど長く、体長は1mより少し大きいくらい、手には棍棒を持っていおり、耳は長く、その近くまで避けた口は邪悪そうな笑みを浮かべ、汚い牙を覗かせている。


 所謂、ゴブリンだ。


 1匹だけならダンジョンでも最弱に位置するモンスター。


「ボーズ、自分の幸運に感謝しな、俺は世界でも数少ないテイマー系スキル持ち、とは言え普通ならギルド外にモンスターは持ち出せない。だが、姐さん程の実力者の監視の元でなら、こうして外へ持ち出せる。つまり、ダンジョン外でモンスターと戦えるなんて超幸運なんだぜ」


 光亮さんはそう言うが、俺はここ数ヶ月で自分の幸運値の低さを嫌ってほど実感している。

 そんな幸運に感謝などできるはずがない。


「そんじゃさっさと始めようか、こいつは適当に捕まえてきたゴブリンだから殺しちまって構わねぇぜ、本気で戦って勝って見せろ。やれゴブリン、そのボーズをぶち殺せ!」


 指示を聞いたゴブリンが襲いかかってくる。

 と言うかぶち殺せってなんだぶち殺せって、殺されるなんて真っ平だぞ。


 振り回してくる棍棒を回避しながら、反撃の隙を伺う。

 正直師匠の攻撃と比べれば速さは屁でもない。


 痺れを切らして大振りになったゴブリンの攻撃を避け、腹に一撃拳を叩き込む。


「痛ってぇ!」


 拳に帰ってくる痛みに思わず声が出る。

 ゴブリンは腰巻しかしていない、腹部に防具は無いはず。

 にも関わらず鉄板でも殴ったのかと思うほど硬い。


 拳はやばい、これ以上殴ったらこっちの拳が先につぶれる。

 体勢を立て直し、今度は下から顎に向かって掌底を叩き込む。

 腕にズシンと重たい衝撃が返ってくる。

 相手の横凪の攻撃に対してカウンター気味に直撃、顎も捉えた、確実に効いているはず。

 しかしビクともしない、人と比べれば小さいはずのゴブリンが、この攻撃で吹っ飛ばないことに違和感を感じる。


「おいおい、ゴブリン相手に何やってんだボーズ」


 光亮さんの呆れ果てた声が聞こえてくる。

 冗談じゃない、これがダンジョン内で最弱のモンスターなら、俺は冒険者としてやっていけないということになる。


 ムキになった俺はゴブリンを思いっきり蹴りつける。


 冷静に考えれば完全な愚策、俺の蹴りはゴブリンに効かず、反動で俺は体勢を崩す。

 それを待っていたとばかりにゴブリンは棍棒を捨て、その軽やかな体裁きで膝蹴りを繰り出すと、その攻撃は的確に俺の顎を撃ち抜いた。

 途端、俺の体は宙に浮き一回転し地面に叩きつけられる。


 日々師匠の攻撃を受けていなければ、今ので殺られていた、それ程までに突き刺さる様な攻撃だった。


 俺は何とか立ち上がると、追撃を交わしながら息を整える。

 棍棒を手放したゴブリンは、それが普段の戦闘スタイルだと言わんばかりに攻撃にキレが増して行く。


「ユニークだな間違いなく」


  師匠の声が耳に届く、確かユニークはモンスターの中に稀に現れる、特殊個体だったはず。

 その強さは言わずもがな、俺では太刀打ちできない。

 ああ本当に、俺の幸運なんてこんなもんだよな、やっぱり!


 頑張っては見たものの、それから1分も経たずに俺の意識は刈り取られることとなった。

読んで頂きありがとうございます。

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