第58話 最強空ちゃん快進撃
「やれ、早瀬!」
苦戦を強いられる演技をしながら、千國が大型の雷獣を搗ち上げ叫ぶ。
それを合図に放たれた魔力の弾丸は、無防備な雷獣の眉間を貫いた。
「空」
俺が小声で呼びかけると空は頷いて走り出す。
俊敏さを活かした空の攻撃は、まさに最後に攻撃を仕掛けたかのように見えるタイミングで到達する。
光の粒子になって消えていった雷獣からは、何も落ちることは無い。
「ほう、流石に多少手こずったようですが、大型の雷獣も撃破しますか、落ちこぼれ集団の割には少しはやるようですね」
引率の教員がそんな風に話しているのが耳に届く。
どうやらスキルを使った事はバレていないようだ。
一安心していると空が駆け寄ってくる。
「よしよし空、良くやった」
そうやって撫でるふりをしながら、空の口からあるものを取り出す。
そう、大型雷獣のレベル1の魔石だ。
こうして俺達は雷獣の魔石が落ちたこともバレず、何の違和感も持たれずにレベル1の魔石を手に入れることに成功した。
「それじゃあ、先に進もう」
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3階層への階段はその後すぐに見つかった。
基本的には階段近くや転移陣の近くに強敵がいることが多いから時間の問題だとは思っていたが、これなら3階層の探索もそのまま出来そうだ。
「ギャウギャウ!」
2階層ではあまり役に立てなかったのもあってか、空も気合は十分のようだ。
というより寧ろ気合いが有り余りすぎて、1階層の頃の千國並に敵をボコボコにして進んでいる。
「ギャ」
「等々力くん、この辺りもかなり罠が多いみたい、気をつけてね」
「ああ、気を付けるよ」
分かっていた事だが3階層に入った事で一段と罠は多くなった。
罠のレベルも上がってきているようで、1階層の時の様な油断は命取りになる。
とは言え、これだけ空に教えられながら罠を避けていれば、何となくは罠の位置が分かってくる。
そんな俺を嘲笑うかのように、何かがハマり込む様な鈍い音がしたと思うと、駆動音と共に四方から槍が伸びてくる。
「あっぶ!!」
危機一髪全ての槍を回避した俺は、何とも間抜けな格好で動けなくなる。
「たくよ、テメェはどうしてそう何度も罠を発動させなけりゃ気がすまねぇんだ?」
呆れ果てた表情で千國がこっちを見ながらそんな事を言ってくる。
「待て待て、信じられないかもしれないけど、今回はまじで俺じゃねぇよ」
自分の行動を振り返れば疑われても仕方がない。
なんなら何故か俺にしか槍が伸びてきていないのだから、状況だけ見れば間違いなく俺が罠を発動させたように見えるだろう。
だが、今回に関してはマジで冤罪だ。
「悪ぃ源志、俺だ」
後ろから胡貴の申し訳なさそうな声が聞こえてくる。
ここまで持ち前の頭の良さからか、一度も罠に引っかかる事なく着いてきていた胡貴も、流石に3階層ともなればそうは行かなかったということだろうか。
いや、違う。
何とか首を回して胡貴表情を見て理解した。
明らかに疲れている。
それで思考力が落ちたのか、それともバランスを崩したのか。
何にしろダンジョン攻略になれていない胡貴にとって、このペースでしかも難易度もそれなりに高い階層を歩くのは、相当神経を使うのだろう。
……ただの運動不足の可能性もあるけど。
「大丈夫か胡貴?疲れたなら少し休もう。早瀬さん、近くにセーフルームっぽいところあるかな?」
「どうかな、今まで見つかってないから、そろそろあっても可笑しくないけど」
早瀬さんはそう言ってマップを確認し始める。
「いや、大丈夫だ。今までの2つの階層から考えると、そろそろ転移陣か下に降りる階段があるはずだ。下手に脇道に逸れるよりそっちを探した方が効率的だ」
「わかった、だけど呉々も無理はするなよ」
ダンジョン攻略は基本的に無理をしてもいいことは無い。
休む時間をしっかりとるのも大切だ。
「で?テメェはいつまで変なカッコしてんだ?」
「動けねぇんだよ、好きでこんな格好し続けてるわけねぇだろ。助けて貰っても良いですか?」
「タクッ、仕方ねぇな」
面倒くさそうにする千國に槍を折ってもらい、何とか脱出出来た。
それからもしばらく空の快進撃は続き、あっという間に下へ続く階段と転移陣が見つかった。
「2日目にして3階層を突破、どういう事だ?落ちこぼれじゃないのか」
転移陣をアクティベートをしているとそんな声が聞こえてくる。
どうやら若干とはいえ引率の教員の鼻を明かせたようだ。
実際は千國や空の手柄で、俺は殆ど何もして無いけどね。
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「それで等々力くん、話ってなに?」
小桜さんの道場に帰ってきた後、俺たちは居間に集まっていた。
「明日の探索なんだが、休みにしないか?」
俺の提案に早瀬さんや胡貴は驚いた様子を見せる。
「まっ、妥当な判断だろ。そういう話なら俺はさっさと休ませてもらうぜ、じゃあな」
「おう、おやすみさん」
もう興味は無いとばかりにさっさと出ていってしまう千國の背中に一応声をかけておく。
「俺のせいか?」
真剣な顔で胡貴が問いかけてくる。
「俺とお前の仲だ、気を使っても仕方ねぇから言うが、半分くらいはそうだ」
「等々力くん」
早瀬さんが文句言いたげに名前を呼んでくる。
だがまぁ、ここで無駄に気を使っても胡貴の為にならない。
「と言っても、1日目の罠でたまたま早く進めたことと、3階層の空の快進撃のおかげで休める時間が出来たってのも事実だ」
「ギャウ!」
俺の膝の上で寝転がっていた空が誇らしげに声を上げる。
「というわけだから、気にせず身体を休めてくれ」
「分かった」
完全には納得できていない様子だが、胡貴はそう返事をしてくれた。
読んで頂きありがとうございます。
こういう時、はっきり言える程の信頼関係って憧れますよね?
ませんか?……そうですか。




