第56話 最小師範さん
「いや!ちょっまっ!痛い痛い痛い!!」
俺は今、金髪の幼女に組み敷かれながら、腕をあらぬ方向へ曲げれている。
「男の子デショ、これくらい我慢デースよ?」
似非外国人の様なイントネーションにおっとりした喋り方で諭してくる。
「だけどその関節はそれ以上曲がらないですって!」
どう考えても曲がらない方向に腕が曲がっていく。
「大丈夫デースよ、私プロフェッショナルですカラ。それに杏香ちゃんから容赦するなと言われてマースので。ほら深呼吸デースよ」
畜生、師匠のせいで俺の関節はもう限界だぞ!
そう言えばこの人見た目は金髪幼女なんだが、師匠の昔馴染みでそれなりに歳
「ぎゃあああ!!!!」
嫌な音がして肘に激痛が走る。
「ごめんなサーイ、力加減を間違えマーシた。なんだが妙な事を考えていそうでしたので」
背筋が凍る。
全く目が笑ってないし、餓者髑髏より怖いんですけど。
というか俺の肘どうなってんの?なんか変な方向に曲がって動かないんだけど?これ戻るんですか?
「初日デースし、今日はこれくらいにしておきまショー」
やっと解放してもらえ、俺はフラフラになりながら立ち上がる。
全身の関節が悲鳴を上げててヤバい。
「小桜師範、ありがとうございました」
とはいっても礼儀は大切だ、俺は小桜さんへしっかりと頭を下げる。
「ふふっ、やっぱり貴方はいい子デースね」
そんな俺の頭を小桜さんはポンポンと撫でてくる。
何故かよく分からないが俺はこの人に気に入られているらしい。
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「助かりました天明さん、まさかこの島にお知り合いがいるなんて」
渡り廊下を歩いていると、居間の方から話し声が聞こえてくる。
この声は早瀬か。
「気にしなくていいぞ、行き先が厳島だとわかった時点で、源志をここに引き摺ってくる予定だったからな。」
なるほど、という事は宿が予約されていようとなかろうと、俺の運命は決まってたわけだ。
ダンジョン攻略が遅くなったのもあり、宿が取れなかった俺たちは、師匠の紹介で小桜さんの道場にお邪魔することになっていた。
「それでも、急に3人も増えてご迷惑なんじゃないかって」
「そんな事気にしなくていいのデースよ。元々門下生の為の寝る場所とかも用意していマースし、沢山人がいた方が楽しいデースからね」
さっきまで俺と一緒に歩いていた小桜さんがいつの間にか居間に入って早瀬さんにハグをしている。
「わっ、あ、その、はい、ありがとうございます。」
おお、あれは慌照れ早瀬さんだ。
まぁ、急にあの距離感で来られると誰でも照れるだろうけど。
「どうだ?乙珠の修行は」
乙珠というのは小桜さんの名前だ。
小桜乙珠さん、師匠の旧友で近接格闘術 Kozakuraの師範。
両親はアメリカ人だけど完全に日本に帰化しているらしく、小桜さんは日本産まれ日本育ちの生粋の日本人だとか。
「新鮮味があって中々面白いですけど、この有様ではあります」
あらぬ方向に曲がった腕を師匠に見せながら抗議の視線を送る。
「乙珠は関節の動きを熟知してるからな、そんな感じにもなるんだろ」
「いや力加減間違えたって言ってましたけど!?」
「どうせお前が失礼な事でも言ったんだろ」
くっ、当たらずとも遠からず。
「あっ、等々力くん、修行は終わったんだね、って!腕!腕!?」
今度は慌慌早瀬さんになってらっしゃる。
でも普通はああいう反応になるよな、この腕みたら。
「とりあえず今は痛くないから大丈夫、だと思ってる、多分、おそらく」
自信はないけど、だってこんな風になった事なんて1度もないからね。
「Kozakuraを短期間で習得して貰わないとナーノで、多少無茶に見えることもやりマースよ?寝たら治りマース」
小桜さんがそういうのならそうなんだろう。
どうやら1週間使って、俺の関節は大改造されることになるらしい。
「多少の無茶は上等です、これでも天明流の修行を耐え切りましたから。明日からもよろしくお願いします小桜師範」
俺は正座をして頭を下げ、小桜さんに例を尽くす。
「きゅーん、源志くんは本当にいいこデースね、杏香ちゃん、やっぱりこの子私にくだサーイ」
頭を上げたところを小桜さんに抱き寄せられる。
この過剰なスキンシップはアメリカ人の血なんだろうか?
というかきゅーんって自分で言う人初めて見たよ。
「ダメだ、そいつは冴が売約済みだからな、誰にもやらん。」
ん?冴って漆原さんの事か?
え?俺漆原さんに買われてたの?
「そこをなんとか、2倍、いえ3倍出しマース」
「いや、そもそも俺は誰にも買われてませんし売る気も無いんですが?」
「じゃあ私は4倍出します!」
おっと?何で早瀬さんがここで乗ってくるんだ。
「いや、あの早瀬さん、だから俺は別に」
「ほう?家の冴と張り合おうってのか、いい度胸だな」
全く人の話を聞こうとしないんだけどこの人たち。
そもそも別に俺はどこにも売ってないんだけどな。
ああでもあれか。
「強いて言えば俺を買ってるのって胡貴だな、実質的なパトロンだし。」
「あ?俺がどうしたって?」
たまたま居間の前を通りかかった不幸な通行人が声を掛けてくる。
やれやれ、俺じゃあるまいしこんなタイミングで通り掛からなくてもいいのにな。
「……胡貴、すまん」
3匹の肉食獣の目が獲物を捉えて離さない。
「おい源志てめぇ、何に巻き込みやがった!」
「俺が聞きたいよ」
読んで頂きありがとうございます。
お前ダンジョン探索してねぇなとか、言わないでください。
次回はまた探索しに行くと思うので!




