第47話 最愛の愛娘
「空〜」
「ギャーウ!」
俺が声を上げると玄関まで一目散に掛けてきて空が飛びついてくる。
「おい源志!テメェここ最近毎日の様に来やがって、お前が呼ぶとすっ飛んでくせぇで修行が止まるだろうが!」
空が師匠のところで修行をするようになってひと月くらい経っただろうか。
家に帰ると待ち侘びたとばかりに飛びついてくる空が居なくなると、やはり寂しさが出てくる。
「空はどんな感じですか?」
「昨日も聞いてただろ、そんな一日で変わらねぇ……と言いたいところだが、昨日と比べてまた一段と呼吸の精度が上がってやがる、もう2、3日もしたらお前よりも上達してるだろうよ」
まじか。俺は元々全く才能が無いと言われていたからよく分からないが、師匠が驚くほど空の成長速度は早いようだ。
「空は凄いな、よしよし偉いぞ」
「ギャー!」
顎の下を撫でてやると嬉しそうに甘えてくる。
「それにしても、本当に懐いてやがるな」
「多分空は、俺を母親だと思ってるんですよ」
俺は右手に埋まった魔石に触れながら、あの日のことを思いだす。
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千國の誤解が解けた後、渡されたポーションをゆっくりと飲ませる。
壁に叩きつけられた傷も治り、弱々しかった呼吸も少しずつ正常に戻っていく。
「良かった、一先ず安心か?」
だがどうしたものか、目を覚ました時に俺がいると暴れだして危ないだろうか?
しかしこのまま放置する訳にも行かないしな。
そうこう考えているうちに女の子の目が薄らと開く。
とりあえずゆっくり離れよう。
「ギャー」
そう思って屈んだまま少しずつ距離を取ろうとしている所で、まるで行かないでとでも言うかのような鳴き方で呼び止められる。
仕方ない、暴れだしたらその時はその時だな。
「もう大丈夫だぞ」
言葉を発した瞬間だった。
さっきの鳴き声が嘘かのように飛び上がると、俺から距離を取り唸るように威嚇をし始める。
しかしそれも少しの間だけ、まるで寝ぼけていましたとばかりに首を傾げると、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
そして執拗に右手に鼻を押し付けて匂いを嗅いでくる。
なんともくすぐったい感触だ。
「お前、急にどうしたんだ?」
顎の下を撫でてやると、まるでもっとしてくれと言わんばかりに頭を擦り寄せてくる。
まるで母親に甘えるように。
「そうか、右手の魔石は……」
俺の右手には多分、この子の母親の魔石がどういう訳か埋まっている。
それで俺を母親と勘違いしているんだろう。
「ギャウギャウギャウギャウギャウ」
何だ?急に何かを求めるように鳴き始めて……。
もしかしなくてもお腹がすいてるのか。
俺は鞄から携帯食料を取り出し目の前に置くと、誰かに取られる前にと急いで食べ始める。
「そんなに急がなくても誰も取らないぞ」
「ギャー」
相当お腹がすいてたんだろう、一瞬で食べ尽くしてしまい、もう少しくれとばかりにこちらを見て鳴く。
「うーん、衰弱しきった状態から余り食べさせるのもな。ダンジョンを出たらもう少し消化のいいのもをやるから、今は我慢だ」
いや待て俺。
ダンジョンを出たらって、何連れてくつもりになってるんだ。
「ギャウ!」
言葉が通じたのかは分からないが、返事をするかのように鳴き声をあげる。
くっ、可愛いなコイツ。
このままにもしておけないし仕方ない。
「着いてこい、えーと、どうせなら名前があった方が便利だよな。そうだな、瞳が綺麗な空色だし、今日からお前は空だ。」
「ギャウギャウ!」
歩き出すとしっかり後ろを着いてくる。
どうやら俺を母親だと思っているのは間違い無いようだ。
転移陣まで着いてきてくれたはいいが、空ってこのまま外に出られるのか?
まぁいい、駄目なら直ぐに戻ればいいしな。
一応転移の時に触れてた方がいいかもしれない。
「空、ちょっとごめんよ」
そう言って空を抱きかかえようとすると……。
伸びた……。
脇を抱えて持ち上げたのだが。
めっちゃ伸びた。
何これ、こんな伸びるの?ってくらい伸びてるんだけど、大丈夫かこれ?
「ギャウ?」
何?とばかりにこちらを不思議そうに見つめてくるのを見る限り大丈夫なんだろう。
転移陣に乗りロビーへ移動する。
どうやら問題なく一緒に転移できたのだが。
「ギャウ!ギャウ!ギャー!!」
ロビーに出た瞬間、空がものすごい勢いで暴れ始める。
たまたま抱きかかえているおかげで何とかなっているが、このまま騒ぎ続けられるとさすがにマズい。
「落ち着け空、大丈夫だ、大丈夫。怖くないぞ。」
ゆっくりと、落ち着いた声で語りかける。
しかし大勢の人の前に急に出てきたせいで相当びっくりしているようだ。簡単には落ち着いてくれない。
マズい、ギルドの職員も訝しげな目でこちらを見ている。
大事になる前にどうにかしないと。
「おう源志、そんな所で何やってんだ?」
この声は。
「すいません光亮さん、この子さっきまで大人しかったんですけど、大勢の人に驚いちゃった見たいで、何とかなりませんか?」
たまたま通りがかった頼れる兄貴分に、俺は一縷の望みをかける。
「訳ありそうだな、仕方ねぇ。『落ち着け!!』」
光亮さんがそう叫んだ途端、空の動きがぴたりと止まった。
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「あの時たまたま光亮さんが通りかからなかったら、面倒くさいことになってたのは間違いなかったです。」
「てことはなんだ?あの野郎もっと前からコイツのこと知ってたのか。」
俺にくっついている空を師匠が首根っこを掴んでひっぺがす。
「まぁ、そうなりますね。」
「と言うかお前、マジで最近コイツに会いに来すぎだぞ、仲間集めの方はどうなってんだ?」
師匠に睨まれて目をそらす。
もちろん声をかけなかったわけじゃない。
現状俺はスキルによるマイナスは打ち消すすべがあるうえ実績もそれなり。
とは言え何も知らない奴を仲間には出来ないから必然仲間の候補は絞られる。
直ぐに思い浮かんだのは2人。
1人は千國。
『何で俺がてめぇの仲間にならねぇと行けねぇだよ』
と、普通に断れた。
もう1人はもちろん早瀬さんだ。
『ごめん、私じゃ力にはなれないと思う、本当にごめんね。』
なんというか、ここしばらく会ってなかったが、随分と自信を無くしてしまっている様子だった。
大丈夫だろうか。
とは言え、どの道明日からしばらく関東を離れることになる。
気にかけようにも気にかけられない。
「仲間は何とかします。けどほら、明日から学生研修なんで、しばらく空と会えなくなるから補給しとかないと」
そう言って引っペがされた空の頭をそっと撫でる。
「いい子にしてるんだぞ空」
「ギャウ!」
あぁ、うちの愛娘が可愛すぎて離れるのが辛い!
「おら!修行の邪魔ださっさと帰れ!どうせ直ぐに会えるんだから惜しむな馬鹿弟子!」
いや、そりゃそんなに長く離れる訳では無いとはいえ、1週間は会えないんだぞ!
空ぁぁ〜かむばーっく!
読んで頂きありがとうございます。
これにて第3章は終わりになります。
次週より学生研修編が始まります!




