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第44話 最奥の演武

「師匠、デートでは無いです」


 あまりの状況に思考が追いつかない。

 師匠がダンジョン最深部でドラゴンをぶん殴っていて漆原(うるしはら)さんのお母さん?


「えっ、デートじゃないの?」


 なんでそこで漆原さんが驚くのかな?

 俺の実力の証明の為にダンジョン攻略しに来てるんだよね?


「なんだ(さえ)の片思いか?おい源志(げんし)うちの娘のどこが不満だってんだ?あ?」


「いや不満なんてありませんよ、ってなんだこの流れ」


 何だこの流れ。


 そりゃ漆原さんからデートに誘われて断るなんて言う選択肢は無いですけどね?

 でも今日のこれはやっぱりデートではないと言うか?


 いや待て待て、そんな事よりドラゴンだよ!あれ?師匠と漆原さんが親子ってとこの方か?


「まぁ冗談はさて置き、丁度いいからお前らそこで見とけ」


 冗談か、師匠も冗談とかいうんだな。

 と言うか何が冗談なんだ?

 もしかして全部?


「2人ともそれなりに呼吸を使えているようだからな。お前たちが到達すべき天明(てんめい)流の真髄を見せてやる」


 師匠はそういうと起き上がったドラゴンの方へ、まるで散歩でもしているかのように近づいていく。


「天明流は呼吸を極めることで人間の限界へと迫る、その状態でただ闇雲に動けば直ぐに体力は尽きるし何より身体がもたない」


 確かに師匠の言う通りだ。

 最近少しずつ呼吸の感覚が掴めてきて分かったのだが、それだけでは如何なる時も疲れを知らずなんて状態にはなれそうにない。


「ならどうするか。答えは簡単、身体が壊れない動き方と力を使わずとも攻撃出来る手段を身につければいい」


 師匠の言葉に首を傾げたのは俺だけではなかった。

 隣にいる漆原さんも同様に首を傾げている。


「だから見せてやるって言ってるだろ。百聞は一見にしかずだ」


 師匠の呼吸音が変わる。

 少しだけだが呼吸が使えるようになったからか、師匠の呼吸がどれだけ研ぎ澄まされているのか何となく分かる。


 その間にも気が立ったドラゴンが襲いかかってくる。


「天明流・日暈(ひがさ)


 振り下ろされたドラゴンの爪をまるで蚊でも払うかの様に払い除ける。


 腕を外へ払い除けられたせいでドラゴンは体勢を崩し倒れ込む。

 一部始終を見ていても何が起きたか分からない。


「関節や筋肉を痛める原因は無理な力が加わるからだ、逆に言えば身体の内部の力を全てどこかへ逃がせれば体を痛める事は決してない」


 うわっ、出たよ天明流とんでも理論。

 つまり何か?今の怪奇現象に当てはめると、通常師匠や地面にかかるはずの力をドラゴンの腕が払い除けられた方向へ逃がしたってことか?


「敵の攻撃を利用し敵の体勢を崩す、それが日暈だ。これはまだ簡単な方だな」


 どこが?

 どの辺が簡単な方なんですかね?

 攻撃を受け流すならともかく払い除けることを簡単と言われても信じられないんですが?


「天明流・旭日(きょくじつ)


 無防備になったドラゴンの顎が師匠に殴られて跳ね上がる。

 いつ殴ったのかと思うほど早く独特な動き。


 ドラゴンの顎の硬さは並の金属を凌駕する。

 そんなものを普通に殴れば腕を痛めそうなものだ。


「殴った瞬間に反力が帰ってくるよりも早く手を引く、尚且つ手を引いた力を逃がす動きも忘れない。そうすることでどんなに硬いものを殴ったとしても拳や筋肉を痛めずに済む。ただ引いた力を逃がす動きがある分どうしても普通の攻撃より隙が長くなるのが難点だ」


 何そのチートみたいな技。

 怖いんですけど。


「日暈で相手の体勢を崩して攻撃の時間を作り、旭日で確実にダメージを与える。それが天明流の真髄ってことですね」


 相手の力を利用して隙を作り、モーションは長いが自分へのダメージが全くない攻撃を繰り出す。

 まさに完璧な組み合わせだ。


「いや違うが?」


 違ったよ。

 完全に理解した位の勢いで言ったのに違ったよ。

 滅茶苦茶恥ずかしい。

 ちょっと漆原さん?何笑ってるのかな?


「日暈も旭日も正直無駄の多い技なんだよ。天明流はダンジョンで磨かれてきた流派だ、無駄を許してくれるほどダンジョンは甘くない。だが全ての技はこの2つの技から派生している、だから見せた」


 話している間にもドラゴンが立ち上がる。

 あまりダメージにはなっていない様で懲りずに師匠へ攻撃を仕掛けてくる。


「天明流・幻日(げんじつ)


 振り下ろされた爪が師匠の手に触れた瞬間、粉々に割れる。


 これを見れば分かる、日暈の無駄とは相手の攻撃を利用して体勢を崩していること。


 相手の攻撃の方向を変えられるのなら、相手自身に返してやればそのまま攻撃になる。


「凄い……」


 漆原さんからそんな言葉が零れる。


 そりゃそうだ、言うは易し。

 敵に攻撃を返しているということは一度は攻撃を受けているということだ。


 身体のあらゆるクッションを使い衝撃を地面へ逃がし、そこから返ってくる反力をこれまた相手に返すまで完璧にコントロールしなければあんな事は出来ない。


「天明流・白夜(びゃくや)


 畳み掛けるように師匠が殴りかかる。

 今度は攻撃が当たる瞬間に手を引いていない、先程の旭日とはまるで違う。

 殴った攻撃の反力を次の攻撃に利用している。


 最早空いた口が塞がらない。

 自分の攻撃の反力を利用した攻撃、言ってしまえば最初の一撃以外はほとんど力がいらないという事だ。


「天明流・奥義・炎陽(えんよう)


 師匠が一撃を放つと空気が震える。

 まるでドラゴンの身体を通して衝撃が全てその後ろまで突き抜けたかのようなそんな一撃。


 ぐったりと地面に横たわったドラゴンが光の粒子になって消えてゆく。


「「いや、何だこれ」」


 漆原さんとハモった。


「あっ、ハッピーアイスクリーム」


「え?漆原さん、急になに」


「源志の負けだな」


 え?俺の負け?なんの事ですか師匠?


 え?


 何だこの流れ?

読んで頂きありがとうございます。


天明流が凄いのか師匠が凄いのかどっちなんだい?

りよ〜ほう!

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