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第42話 最弱の苦難

一視同仁(いっしどうじん)!」


 範囲内にいるクレイゴーレムに手を翳しスキルを発動する。


「はぁあ!!」


 それに合わせて漆原(うるしはら)さんの鋭い一撃がクレイゴーレムに突き刺さり、光の粒子になって消えていった後には小さな魔石がドロップする。


「ナイス、漆原さん」


「やっぱり等々力(とどろき)くんのスキルがあると凄いペースで進めるね」


 漆原さんにスキルの事を隠す必要が無くなったので出し惜しみせずにスキルを発動できる。


 そもそも漆原さんとこれだけ打ち解けた以上、元々ここに来た目的である実力の証明ももう必要ない。


 だったら2人で協力してさっさとダンジョン攻略してしまおうと言う話になったのだ。


「いやいや、俺のスキルだけじゃこうは行かないって」


 昨日の事もあるからか、今日の漆原さんはマジで凄い。


 いい意味で緊張もし過ぎていないし、かと言って昨日のように浮かれていると言う雰囲気でもない。


 これが本来の漆原さんの姿なのだろう。


 俺も負けていられない。


 気合いを入れ直し道中のクレイゴーレムやウッドパペットを倒していると、あっという間に15階層のボス部屋までたどり着いてしまった。


「漆原さん、少しお願いがあるんだけど良いかな?」


「ええ、良いわよ」


 前から思っている事だが、漆原さんの俺に向ける全面的な信頼は何なんだろう。


胡貴(こたか)からの頼まれ事で、ここの階層ボスのレベル1の魔石が欲しいんだ。俺だとまずドロップしないからラストアタックを任せたいんだけど」


「ふーん」


 あれ?何か妙に反応が悪い。


 何となく拗ねているような、今の会話の何処にそんな要素があったんだ?


吉原(よしわら)くんの事は胡貴なんだね」


 俺が頭を悩ませていると漆原さんがそんな事を口走る。


 そこか〜……。


「いやまぁ、同居人だしな」


 同居人もそうだし男同士だからってのもあるが、まさか漆原さんも名前で呼んで欲しいとか?


 まさかな、そんな訳。


「じゃあ私も昨日一緒に寝泊まりしたんだから名前で呼んでよ」


 あるのか……。


「おいおい、俺に死ねと?」


「どうしてそうなるのよ!」


 漆原さんを名前呼びした日にはファンが何してくるかも分からない。


 アイツらはヤバい。


 と言うかそもそも考えないようにしていたが、昨日の寝泊まりなんてバレた日にはもう終わりだよな。


「漆原さんは自分にどれだけ熱烈なファンがついてるのか、1度しっかり認識しといた方が身のためだと思うよ」


 いや本当に、自分の為にも俺の身為にもね?


「もう、じゃ2人きりの時だけでいいから」


 何でこんなに食い下がってくるんだ、2人きりの時だけでとか言って結局忘れて皆の前で呼んじゃうだろ!

 そしたらもう、あれだぞ!血を見ることになるんだぞ!俺の血をな!


「そもそも漆原さんだって俺の事名字で呼んでるだろ?」


「じゃあこれからは源志(げんし)くんって呼ぶね」


 あぁ!俺のバカ!墓穴掘ったぁぁあぁあぁぁ!!


「一旦この件に関しては持ち帰って精査した後回答させていただくという形でよろしいでしょうか」


「よろしくありません」


 よろしくなかったかぁ……。


「良い源志くん、(さえ)だよ、()()、さんはい」


 何だこれ。


 何だこれ?


「ああもう、勘弁してくれ」


 この状況で呼ぶのが恥ずかしすぎて項垂れる。


「そんなに嫌?」


「別に、そのなんだ、嫌って訳じゃないよ」


 タイミングを逃して呼びづらくなっただけで、絶対に嫌なんてそんな事あるわけが無い。


「仕方ないなぁ、今日の所は勘弁してあげる。でも呼ぶ練習はしておくように!」


 呼ぶ練習ってなんだよ。


「まぁ、そのなんだ、兎に角ボス戦だ」


「ラストアタックは任せてね、源志くん」


 直ぐに漆原さんのペースだよ全く、ダンジョン探索ってこんな感じで良いんだろうか。


 もう一度気合いを入れ直しボス部屋の扉を開く。


 中央に鎮座するのは西洋の城に飾ってありそうな立派な鎧。


 繋ぎ目からはゆらゆらと薄紫の靄が漏れ出している。


 15階層のボスはリビングアーマー、中身のない鎧が剣を振り回してくる。


 これまでも武器を使ってくるモンスターは居たが、剣術と言えるレベルで扱ってくるモンスターは初めて、中々に苦労しそうな相手だ。


「一気に行くよ漆原さん。一視同仁!」


 リビングアーマーに手を翳しスキルを発動させる。


「任せて、旭日昇天!」


 漆原さんの動きが一気に加速し、動き出したばかりのリビングアーマーを捉える。


 ガキンッと大きな金属がぶつかり合う音を鳴らしながらリビングアーマーの体勢が崩れる。


「ッ……源志くん!」


 漆原さんに呼ばれてすぐさま距離を詰める。


「喰らいやがれ!」


 駆け寄る勢いを利用しながら体勢の崩れたリビングアーマーの脇腹へ拳を叩き込む。


「硬っ!」


 あまりの硬さに腕が痺れる。


 どうりで漆原さんが追撃出来なかった訳だ、レベル1になっても鎧は硬いのか。


 一度距離を取り、体制を立て直す。


「あの硬さは厄介だな」


「斬撃にもかなり耐性がありそう」


 漆原さんの一撃を耐えているんだ、俺がナイフでどうこうできる相手じゃないだろう。


「わかった、それじゃあ俺がしばらく相手をするから、漆原さんは力を溜めてくれ」


「分かったわ」


 あれだけ相手が硬いと先に拳が駄目になるのは目に見えている。


「行くぞ!」


 リビングアーマーに走りよりながら、握り拳を解く。


 後ろから漆原さんの詠唱が聞こえてくる。


「闇を払い、時を刻み、恵を齎す」


 鎧相手に俺の攻撃は致命打にはならないだろう、それでもやりようはある。


 リビングアーマーが振り下ろす剣を避け、隙だらけの胴体を見据える。


「我が道を照らせ、光魔法(サンライト)!」


 その胴体へ掌底を叩き込もうとした瞬間、リビングアーマーが光に包まれ、そのまま粒子になって消えてゆく。


「おわっ!」


 間抜けな声を出しながら勢いのまま思いっきりコケた。


 鎧なのに光が弱点って、アンデットだからか?


 いやもう何かもう、恥ずかしすぎて、立てません。

読んで頂きありがとうございます。


頑張れ源志くん、もうね、色々と頑張れ!

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