第41話 最近の事情
「それじゃあ、良い?」
広々とした豪華な部屋の中、目の前の漆原さんから声をかけられる。
「お、おう」
結局勢いに押されてここまで来てしまった。
部屋の雰囲気も相まって緊張感が漂う。
「等々力くんはこういうの初めてだよね?」
「まぁ、そうだな、する相手も居なかったしな」
そう答えながらも、心を落ち着かせようとテーブルに置かれた飲み物を一気に煽る。
「そんなに緊張しなくても、今日は大丈夫だから」
緊張しているのがバレバレのようで、漆原さんに笑われてしまう。
「そうか?でもちゃんとした方が良いだろ?」
「ええ、だから順番にゆっくり始めよっか」
「何からすれば良いんだ?」
俺は唾を飲み込むとそう問いかける。
「じゃあ最初は、今日の反省点から話そっか」
「そうだな」
俺はゆっくりと深呼吸をして今日のことを思い出す。
「もう、緊張し過ぎだってば」
心底愉快そうに漆原さんが笑っている。
「しょうが無いだろ?確かに今はランカーだけど、俺はついこの間まではただの庶民だったんだ。こんな豪華な部屋とか落ち着かねぇよ」
このホテルは冒険者ギルドが運営しているため、ランカー専用にかなり豪華な部屋が用意されている。
普通にこの部屋に泊まろうと思ったらプチ贅沢では済まないだろう、全く落ち着ける気がしない。
「うーん、そこまで豪華って訳でもないと思うけど、寧ろオシャレで落ち着いてる感じで私は好きだな」
お嬢様だとは思ってたが、もしかして漆原家って超お金持ちなのか?
「とにかく反省点だったな、何があったか」
俺は今日1日の事を思い出してみる。
よく良く考えると凄い小っ恥ずかしい事を言いまくってる気がするな。
「私はやっぱりちょっと浮かれ過ぎてたかも、等々力くんにも大分迷惑かけちゃったし」
「いやまぁ、そこはお互い様だろ。正直まだそこまで深い階層じゃ無いからって言う慢心はあったと思う」
「私もそこは反省だな、どれだけ浅くてもダンジョンはダンジョンだもんね」
「後はそうだな、どうしてもソロで潜ってる感覚が抜けてなくてさ、お互いの出来ることをもっとちゃんと知っておくべきだったなって」
俺のスキルの効果範囲なんかを先に伝えておけば、それこそ今日の事故も防げたはずだ。
「それなら今からでも遅くないわ」
「そうだな、明日も一緒に探索するわけだし。って言っても俺の出来る事と言ったらレベルを1にすること位だけどな」
今は魔導ガントレットをメンテナンスに出しているから、固有スキルと近接戦闘が俺の出来ることの全てだ。
「だけって、物凄い事だよそれ。あ、でも距離の制限があるんだっけ?」
「ああ、大体5mって所だ、それ以上離れてるとスキルが発動しなかった」
「数の制限はあるの?」
「それは特にないはずだ、実際複数匹同時に発動させれたことがあるからな」
「つまり半径5m以内の認識している存在が対象範囲って事なのかな」
「認識と言うか、目視のイメージだな」
あくまで発動する時はいつも相手を捉えている。
多分だが認識しているだけでは発動しないはずだ。
「あれ?でも私のレベルを戻してくれた時って、等々力くんは目が見えてなかったよね」
そう言えば、あの時はそこに漆原さんがいると確信があってスキルを発動させたんだった。
「てことはそこにいると分かってればスキルは発動するのか」
もしそうなら凄いことだ。背後に敵がいると分かっていても、今までは態々振り向いてスキルを発動させていたが、その必要が無くなるかもしれない。
「これは要検討だな」
こんな所にまだ強くなる余地があるとは思わなかった。
明日が楽しみだ。
「それじゃあ私のスキルも説明するわ」
「良いのか?」
「等々力くんは無闇に風潮する人じゃないし、悪用もしないでしょ?」
「それはもちろん」
せめてそういう所は誠実でありたい。
漆原さんが困るようなことはしたくないしな。
「私のスキルは全部で5つ、固有スキル『旭日昇天』と『神速』『武器重量操作』『光魔法』『神々の霊薬』よ」
なんというか、パッと聞いただけでも物凄く噛み合ったスキル構成な気がする。
「そのままの意味のスキルは説明を省くとして、固有スキルについて説明するわ。旭日昇天は言ってしまえば攻撃の勢いを増すスキル。だけどその真価を発揮するのは太陽の下なの。光魔法で擬似的に太陽を再現して威力を増すのが常套手段よ」
なるほど、面白いスキルだな。
ん?待てよ。
「って事は戦闘する場所が日中の地上だったとしたら、強さは今の比じゃないって事か?」
「そんな機会がないから使った事は無いけど、そういうことになるわ」
嘘だろ?あれでもまだ最大火力じゃなかったのか。
ヤバすぎるだろ。
スキルもまさに最強の組み合わせって感じだし。
「しかも回復スキルまで持ってるんだもんな。神々の霊薬って俺に使ってくれたやつだろ?」
「そうなんだけど、あれは基本的には人に使う用のスキルじゃなくて、使えるタイミングが限定されるの、だから基本的にはないものとして考えておいて」
そう言うと何故か漆原さんはそっぽを向いてしまう。
よく見ると少し頬が紅い様な気がするが、たぶん気のせいだろう。
「分かった、頭に入れておくよ」
「そうして貰えると助かるわ」
何となく気まずい雰囲気になってしまった、話題を間違えたか。
「そうだ、そういえば気になってたことがあるんだ。漆原さんってスキルを発動する時態々声に出してるよね、あれって何か意味があるのか?」
取り敢えず話題を変えよう。
「それはなんて言うか、うーん、等々力くんならいいか」
何か妙な言い回しだな、もしかしてまた話題を間違えたか?
「これは最近クランが調査してわかった事なんだけど、昔からよく言うスキルを声に出すと威力が少し増すっていう迷信見たいなのが、本当に強くなってるって分かったの」
「マジか、その迷信ってもう随分と前に気の所為だって結論が出たって聞いたけど」
スキルを声に出す論争は一昔前に話題になったと光亮さんの雑学で教えてもらったことを思い出す。
「正確にはただ言うだけだと殆ど変わらないの。でも声に出す事をルーティン化していくことで、威力だったり効果範囲が拡大していくの、さらに詠唱を凝ったりする事でもその効果はさらに高まるみたい。あんまり懲りすぎるとスキルの出が悪くなるから一長一短って感じだけどね」
なるほど、元々の実験は長期のスパンでやっていなかったから、気の所為と言う結果で終わってしまったのか。
「もしかして俺が手を前に出してるのもルーティン化になるのか?」
「ええ、多分だけどなってると思うわ」
面白いことを教えて貰えた、この情報は上手く使わない手は無いな。
「教えてくれてありがとう」
この後も情報交換は続き、明日のダンジョンのモンスターのことや、魔導ガントレットの事なんかを話しながらご飯を食べ、何事も無く就寝した。
何事も無く。
いやもちろん何かあるなんて微塵も考えてませんでしたよ?
読んで頂きありがとうございます。
神々の霊薬は直接体内に生成される自己回復スキルだとだけ言っておきます。




