第40話 最速こそ最強
「等々力くん!」
どうしよう、私がレベル1で戦いたいって我儘を言ったせいで、こんな事になるなんて。
正直、私は少し浮かれてたと思う。
それにレベル1で戦えるチャンス、これを逃したく無かった。
倒せる気もしてた。
実際、私があそこで勝負を急がなければ、今頃2人でハイタッチでもしていただろう。
等々力くんは闇魔法の情報も先に教えてくれていた。
距離を保って、確実に仕留めていれば。
ああもう、今はそんなタラレバを言ってる状況じゃない。
とにかく、等々力くんの傍に行かなきゃ。
「そこを!退きなさい!!」
剣速が遅い、息も切れている、汗なんて何年ぶりにかいたかも分からない。
レベル、それは人のステータスを大きく向上させる。
だけどそれは、生半可な訓練では基礎体力が向上しないことを意味している。
レベル99ともならば、毎日フルマラソンを走ったとしても心肺機能の向上は望めない。
こんな事なら、あの頃、もっとお母さんに特訓をつけてもらっておくんだった。
だからそんなタラレバは言っても仕方が……。
待って。
おかしい、私ってこんなに後ろ向きな性格だったっけ。
…………ッ!まさか!
レッサーデーモンを睨みつけると、物凄く愉快そうな素振りで笑っている。
「あなたの仕業ね」
スキルなのか、闇魔法なのか、どちらにしてもこう言う精神干渉系は気づけば大体解ける。
『ギャウィヤァァァ!』
遊びは終わりだとばかりに叫び、レッサーデーモンが飛びかかってくる。
剣で何度も攻撃をいなす。
まともに受ければ剣ごと持っていかれるのは目に見えている、それ程の威力。
このままじゃ、その内体力が尽きる。
そうなる前に。
「喰らいなさい!旭日昇天!!」
渾身の力を込めて、レッサーデーモンの身体に剣を突き立てる。
だが、その攻撃が届くことはなく、ヒラリと後ろに躱される。
「まだまだ……きゃッ!」
レッサーデーモンを追ってもう一歩踏み込んだところで、足の力が抜ける。
疲労の限界を迎えていたことに、理性が気づかなかった。
力のない突きを軽く払い退けられる。
これはやばいかも……。
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剣撃が鳴り響く、防戦一方といった感じの音だ。
これが実際の音なのか、それともレッサーデーモンが出している偽の音なのか。
目の中に入った血のせいで視界は赤黒く染まり、光は殆ど失われている。
微かに見える気がする光のうねりは、漆原さんの剣の軌跡か、それともただの血の流れか。
何にしろ今下手に動くのは愚策だろう。
せめて少しでも目が見えれば。
擦って無理矢理にでも視界を確保するか?
鞄の中から水を取り出せば洗えるか?
下手な事せずに漆原さんが近づいて来た時に、すぐスキルを発動できるように待機しておくべきか?
考えているうちに、一瞬剣撃が止む。
そして、小さな悲鳴が聞こえた。
偽物かもしれない。
そんな事すら脳裏に過ぎる暇すらなく、体が先に動く。
約束をしたから、必ず助けると。
刹那、何か風のようなものが体を包む。
視界は血で塗り潰されているはずなのに、モンスターの輪郭が、白く、くっきりと世界に浮かび上がる。
ぼやけたように白いもやもやは、どことなく漆原さんを思わせる。
その間へ。
振り下ろされる爪と弾かれた剣のその間へ。
体を滑り込ませる。
まるで漆原さんを救えと言わんばかりに加速した意識は、肉に食い込む爪と共に元の時間へと引き戻される。
「等々力くん!」
声が聞こえた。
痛みは無い、だが身体に力は入らず、ゆっくりと崩れ落ちる。
倒れる寸前、誰かにそっと抱き留められる。
ああ、やっぱりそこにいるんだな。
ここまで近ければ、間違いなくスキル範囲内だ。
「守るって言ったろ?」
安心されるようにそっと頬に触れ、スキルを発動させる。
「無茶し過ぎよ、バカ。……神々の霊薬」
唇に暖かくて柔らかい物があたる、蜂蜜の様に甘くて美味しい何かが喉に流し込まれると、身体中の痛みが消えてゆく。
「待ってて、すぐ終わらせるから」
血で見えなくなっていた目も、間もなくして光を取り戻す。
最初に目に映ったのは、凛とした姿で佇む漆原さんの背中。
これ程安心出来るものも他には無いだろう、そう思ってしまう自分が少し情けない。
『ギャウギャロッギェェッ!』
この鳴き声は、闇魔法か、また視界を奪うつもりだな。
「もう、それは効かないわ。我が道を照らせ、光魔法」
レッサーデーモンから伸びる暗闇を消し去るように、煌々と差し込む太陽の光、ボス部屋の中がまるで日中のように明るくなり、さっきまで光を失っていた目には正直辛い。
『ギャウァァァァアアアッ!!』
レッサーデーモンの悲痛な叫び声が木霊する。
闇魔法を使うだけあってか、光魔法は強烈な弱点なのだろう。
「最速こそが最強だって事を教えてあげる」
そう言った瞬間、漆原さんの姿が掻き消える。
次の瞬間、レッサーデーモンが光の粒子になって消えてゆく。
「旭日昇天」
まるで音が後から聞こえてきているのでは無いかと錯覚する程の速さ。
これがレベル99、本来の漆原さんの強さ。
「強すぎるだろ」
こんなもん、最早笑うしかない。
「良かった、目も見えてそうで」
「ああ、お蔭さまで助かったよ」
「ううん、元はといえば私が我儘を言ったせいだから、ごめんなさい」
漆原さんが申し訳なさそうに頭を下げてくる。
「最終的にスキルを使ったのは俺だ、漆原さんは別に何も悪くないよ」
「そんな訳ない、悪くないなんて!」
「まぁまぁ、何はともあれ結局2人とも無事だったんだ、それでいいだろ?この話は終わりだ。さっ、10階層でちょうど区切りだ、今日はここまでにして帰ろうぜ?」
「……わかったわ」
渋々といった様子だが、ダンジョンから出ることには納得してくれた。
転移陣をアクティベートし、着替えて外に出た頃には、日は傾きかけ、空は夕焼け色に染まっていた。
「いやはや、シャバの空気は美味いぜ」
どうもあの後から漆原さんの様子がおかしい、落ち込んでるのもそうなのだが、何かをずっと考えているような。
「ねぇ、等々力くん。もし、もし大丈夫ならだけど、今日、どこかホテルで泊まってかない?どうせ明日もこのダンジョンの続きを攻略するでしょ?」
え?今なんて言った?
「このまま帰ったら、ダメな気がして。お願い、今日は帰りたくないの」
ぇぇぇええ……。
読んで頂きありがとうございます。
漆原さんはランキング1位だけあって、スキルが物凄く噛み合っております。
強い、実際強い。




