第38話 最強は最弱に
「10階層のボスはレッサーデーモン、レッサーとは言ってもそれなりに強い。闇魔法で視界を潰してきたり、自由自在という訳では無いけど空も飛ぶ。ただ遠距離からの攻撃方法は持ち合わせていないから、結局ダメージを与えに近づいてくる。そこを狙えば倒せるはずだ」
道すがら次のボスに対しての情報を共有しておく。
「へー、詳しいんだね等々力くん」
最強の冒険者に尊敬の眼差しを向けられると、どうにもむず痒い。
「調べられる事は調べておく、知っていれば対処法も見えてくる、弱いなりの戦い方ってだけだよ」
ここで得意になれるほど、自分の事を凄いとは思え無いんだよな。
「褒めてるんだから、素直に喜べばいいのに、真面目だなぁ」
そうは言っても俺は実際弱いしな。
「最近じゃ疎まれることはあっても褒められないからな、ちょっと捻くれてるのかもな」
「ふーん、それで?」
「……ありがとう」
「よく言えました」
ポンポンと頭を撫でられる。
「ボス部屋が見えてきたぞ」
小っ恥ずかしいのを誤魔化すように、奥に見えてきた扉を指さす。
「あ、今照れてるの誤魔化したでしょ?」
「別にそんなんじゃねぇよ」
「どうかなぁ?」
いやもう、まじで勘弁してください漆原さん。
「あ、そうだ、ボス戦の前にひとつ頼みたいことがあるんだけど、良いかな?」
頼みたいこと、何だろう。
ボス戦をさせて欲しいとか、そんな事だろうか。
「頼みたい事って?」
「私にスキルを使って欲しいの」
「ああ、それくらいなら」
……ん?
今なんて言った。
「やった!これでちょっとは歯応えのあるボス戦になりそう」
「ちょっ、ちょっと待て、今のは思考が追いついて無くてだな、俺のスキルを漆原さんに使うって、レベルが1になるって事だぞ」
「分かってるわよ、それくらい」
「分かって無いだろ、今からボス戦だぞ?どう考えても危険だ。スキルだってレベル1の状態に戻るんだぞ」
「固有スキルはレベル1で覚えたから使えるし、何とかなるわよ」
確かに、固有スキルが使えるなら完全に無茶と言う訳では、いやいや、それでもやっぱり無茶だろ。
「だけど」
「それに、危なくなったら守ってくれるんでしょ?」
漆原さんがぐっと近づいて顔をのぞき込ませてくる。
その表情からは確かな信頼が感じ取れる。
「ああ、もう、ヤバそうだったら直ぐに解除するからな」
この感じだと何を言っても無駄だろう、少し戦って頃合いを見て解除しよう。
漆原さんへ掌を向けスキルを発動させる。
「それって掌を向けないとスキルの発動ができないの?」
「いや、そんな事は無いと思うけど、何となく発動しやすい気がして」
「ふーん、そうなんだ。まぁいっか、さ、ボス戦と行きましょ」
「もう一度言っておくけど、俺が危ないと思ったら、直ぐにスキルを解除するからな?それと、感覚が変わってるだろうから、最初は様子見だからな」
「もう、分かってるわよ」
どうも漆原さんは鎌倉ダンジョンを甘く見ている、というか浮かれている節がある。
俺がしっかりしないと。
重厚な扉を開けてボス部屋に入る。
中の構造は5階層のボス部屋と同じ、違いがあるとすれば、中央に鎮座しているはずのボスが見当たらない事。
「ボスが、いない?」
漆原さんが首を傾げる。
「闇魔法で姿を隠しているのか、それとも」
辺りを見渡しながら少しずつ中央へ近づく。
カチャ、っと奥から石が落ちるような音がする。
一瞬その音に気を取られ、もう1つの音への反応が遅れる。
「漆原さん!後ろ!」
風を切る音と共に、レッサーデーモンが背後から強襲を仕掛けてくる。
「っ!」
漆原さんの反応が遅い、レベルが下がってる弊害だろう。
間に合え!!
硬い物がぶつかり合う音が、ボス部屋に響く。
「間一髪だな」
漆原さんを抱き寄せながら、レッサーデーモンの鉤爪をナイフで受け止める。
が、流石に攻撃が重い。
「はあああ!!」
気合いを込めて爪を無理矢理跳ね上げる、それに怯んでか、レッサーデーモンがこちらから距離を取ってくれる。
「漆原さん、やっぱりレベルを戻した方が」
漆原さんを離して体勢を立て直す。
「大丈夫、もう少しやらせて、もう、油断はしないから」
漆原さんの呼吸音が変わる。
この音って、いや、今はそれよりもレッサーデーモンを倒すことに集中だ。
「分かった、感覚に慣れるまで俺が全力でフォローするから」
さて、10階層のボス相手に、今の俺がどこまでやれるか。
さっきみたいに力任せに爪を弾くのはかなりキツイ、でも隙を作る為にはやるしか無いんだよな。
闇魔法も警戒しないと、目が見えなくなったら一大事だ。
クソ、考えることが多すぎるだろ、縛りプレイにも程がある。
レッサーデーモンが羽を休める為に地面に降りると、地面を這うようにこちらに走り寄ってくる。
「俺があいつの攻撃を弾く、その隙に攻撃を!」
レッサーデーモンは迷うこと無く漆原さんへ飛び掛る。
「そりゃ、さっき反応が遅れた奴を真っ先に狙うよな。でも、分かっていたら、そんな攻撃!」
思いっきりナイフを振り抜き、爪を弾き飛ばす。
「今だ!」
「旭日昇天!」
その言葉と共に、漆原さんの切っ先の速度が一気に加速し、レッサーデーモンを吹き飛ばす。
「ナイス、漆原さん」
「ダメ、手応えが無かった、多分、既のところで自分から後ろに飛んだみたい、ピンピンしてるわ」
「なるほど、一筋縄ではいかなそうだ」
レッサーデーモンはこちらを見ながらニヤリと下卑た笑みを浮かべている。
舐められたものだな、全く。
読んでいただきありがとうございます。
無茶な縛りプレイ、どうする源志くん!




