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第36話 最初の通信

「聞いて欲しいことがある」


ヤバい、覚悟を決めたせいか、無駄に真剣な感じに話し始めちまった。


「えっと、ちょっと待って、心の準備をさせて!」


いや、心の準備がいるような話じゃないんだ。

なんて言い出せず、目を瞑ってしまった漆原(うるしはら)さんを眺めることしか出来ずにいると、ゆっくりと開かれた瞼の奥にある真っ直ぐな瞳が俺を射抜く。


「よし、ドンと来い」


物凄く真剣な表情に押され、ちょっとたじろぎそうになるのを我慢し、意を決して話し出す。


「俺の固有スキルのことなんだが」


「へ?」


「だから、俺の固有スキルについて、話しておきたいんだ」


「…………」


何故か何も言わずに固まってしまった。

かと思うと、まるでリンゴのように一瞬にして顔が真っ赤になっている。


「あの、漆原さん?」


どうしたのだろうか、というか大丈夫なのかこれ。


「ぃ……わ…が……ら…しぃ」


ワナワナと震えだたしかと思うと、小声で何かを喋っているようだ。


「え?なんて?」


「言い回しが紛らわしいのよ!」


ゆっくりと漆原さんの拳が自分の目の前に近づいてくるのが分かる。


何故だか分からないけど俺は昔聞いた母親の言葉を思い出していた。


『良い?女の子が殴ってきても、避けようとか防御しようとか考えちゃ駄目よ?相手が怪我しちゃうかもしれないからね。女の子が殴って来たら、黙って殴られる事』


ああ、なるほど、これあれだ。

走馬燈って奴だ。


安心して母さん、多分これ避けようも無いわ。


これが、人類最速の拳か、早すぎて止まって見えるぜ。




△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼



「本当にごめんなさい」


「いや、大丈夫、大丈夫、俺だってこれでも冒険者だからな」


意識を取り戻すと、すごい勢いで謝罪され、なんとも言えない気分になる。


「それでその、俺の固有スキルなんだが」


「その事なんだけど、本当に話して大丈夫?固有スキルは冒険者にとって絶対的な切り札、そうそう仲間にだって話す物じゃないのに」


「まぁ、確かに師匠にもあまり人には話すなって言われてるけど、俺なりのケジメみたいなものだから。それに、漆原さんなら勝手に誰かに話たりしないだろ?」


まぁ、そもそも下層以降の敵には俺はスキルを使わなければ勝てないだろう、出来れば中層でも使って行きたい。


となればどうせその内バレてしまう。


なら、先に話すことで同情を買って話さないでおいてもらおうと言う甘い考えもあったりする。


「もちろん、信頼してくれてありがと」


ああクソ、この笑顔はやっぱり反則だろ。


「俺の固有スキルは一視同仁、対象のレベルと自分のレベルを同じにする能力だ。スキルの代償として、レベルが1下がるけどな」


「面白いスキルね、でもあんまり有用性は無さそう。折角レベルを同じにしても、代償でレベルが1下がるなら、相手より自分が弱くなっちゃうし、そもそもレベルを下げたモンスターのドロップ品なんて、買取値段も低くそうだし」


「まぁ、その2点は俺の場合解決済みなんだよ。そもそも俺のレベルは1。そしてこのスキルはレベル1以下には下がらない。だから、実質的に代償無しで相手のレベルを1に下げるスキルって訳だ。んで、買取価格についても、高く買い取ってくれるツテがあるんだよ」


「レベルを1にするスキル……」


漆原さんはそう呟くと、何か考え込むように黙ってしまう。


「等々力くんの師匠さんが言う通り、このスキル、あまり公に話さない方がいいかも。特に、ギルドには絶対バレちゃ駄目ね、下手すると冒険者資格の剥奪すら有り得るかも」


冒険者資格の剥奪!?

なんでそんな事が。


「いや!別に俺は悪用なんてするつもりは無いぞ」


確かに、色々あって何度か人にもスキルを使っているけども。


「もちろん、悪用なんてするとは思ってないわ。けどその、あまり詳しくは話せないんだけど、等々力くんのスキルは私の知ってる限りじゃ、ちょっとギルドに都合が悪そうなのよね」


ギルドに不都合?

尚更訳が分からない。


とは言え、詳しく話せない以上は考えても仕方がないか。


「教えてくれてありがとう、肝に銘じておくよ」


冒険者資格の剥奪なんてされたら最悪だしな。

これまで以上に気をつけよう。


「それで、高く買い取ってくれるツテって、等々力くんの事だからないと思うけど、良くないツテじゃないよね?」


漆原さんが心配そうな顔でこちらを見てくる。


「もちろん、買い取ってくれてるのは」


タイミング良くカバンが震える。


「丁度いい、紹介するよ」


鞄の中から拳台の金属の玉を取り出す。


「それは?」


「魔導ドローン、何とダンジョンの外と通信ができる、かもしれないらしい」


「それ、本当なら革命的な技術じゃない!」


「量産が出来る代物じゃ無いけどな。ブート」


声に反応して起動すると、回転し宙に浮きはじめる。


『あーあー、聞こえるか源志(げんし)


「ああ、ちゃんと聞こえてるよ、成功だな」


ダンジョン外との通信、本当にできてしまうとは、流石は胡貴(こたか)だ。


「わ!凄い、これ録音とかじゃないんだよね」


漆原さんも純粋に驚いているようで、目を輝かせている。


「この声、源志お前、マジで太陽(ヘリオス)とダンジョン探索してるのかよ、ファンに殺されても知らないからな」


「それはもう、多分避けられない未来だよ」


もうその事については諦めた、多分大学に帰ったら俺は死ぬ。


「いや、私のファンだって流石にそこまでしないわよ。……しないわよね?」



「いやー、どうだか?」

『いや、どうだかな』


胡貴とハモる。


「それで源志、今大丈夫か?」


「ああ、丁度セーフルームでお前の事を話してた所なんだよ。紹介するよ漆原さん、この魔導ドローンの向こうで話してるのが、魔石を買い取ってくれてるルームメイト、吉原(よしわら)胡貴だ」


そういうと漆原さんはまたも驚きを隠せないと言った表情を見せる。


「吉原胡貴って、あの天才技術者の!?在学してるって話は噂で聞いてたけど、見たこと無かったからただの噂だと思ってた」


『ああ、まぁ別に大学に行って聞くような講義も無いしな。って、うわ!やめろ、ちょっ空オマっ!』


『ギャァギャァ!』


おっと、麗しのレディがお目覚めの様だ。


「空、元気にしてるか?」


『ギャァ!』


「そっか、いい子にしてるんだぞ」


ダンジョンでも空の元気そうな声が聞こえるってのは、やっぱりありがたいな。


「空、ちゃん?って、ペットか何か飼ってるの?」


聞こえてくる声に漆原さんが首を傾げる。


「空は、大事な家族だよ」


『ギャァギャァ!』


「そっか、今度直接会ってみたいな、よろしくね吉原くん、空ちゃん」


そんなこんなしばらく話していると、魔導ドローンが赤く点滅し始める。


「胡貴、何かドローンが赤く点滅してるんだが?」


『おっと、どうやら稼働限界みたいだ、やっぱり稼働時間がまだネックだな。とにかく、程々に死なない程度に頑張れよ』


『ギャァギャァギャァ』


「ああ、ありがとな胡貴、空」


「またね、胡貴くん、空ちゃん」


『お、おう』


『ギャァ』


「なんだ胡貴、照れてるのか?」


『んなんじゃねよ!』


通信が切れる、それとほぼ同時にドローンが手に着地し、電源が切れる。


「さて、漆原さん、攻略頑張りますか!」


「ええ、再開と行きましょう」

読んで頂きありがとうございます。


漆原さんは何と勘違いしたんでしょうね。

ともあれ、次回からダンジョン攻略再開です!


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